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道路に描かれた言葉たち

 以前、東京杉並の自宅周辺を散歩しながら撮影した「道路標示」をコラージュした写真。「カスレ」具合もそれぞれで、これはなかなかデザインとして面白い。錆と同様にこういう無作為な「カスレ」も好きだ。

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 この「カスレ」は道路上の小石や空き缶などのゴミと、車やバイク、自転車などのタイヤ、そして人間の靴との共同作業の結果で出来たものだ。犬や猫の爪が作った痕跡もわずかだがあるかもしれない。脚フェチとしたらピンヒールの先端が削った「カスレ」もあるはずだと思いたい。本来の目的からは「カスレ」はない方がいいのだろうが、被写体としたらこの「カスレ」具合は魅力的である。しかし、これを実際に道路にペイントするのはかなりの技がいる。

 毎日見る道路に白や黄色でペイントされた文字や線や矢印などを「道路標示」と言う(道路標識ではない)。見慣れてはいるものの、どれを見ても同じフォント、同じ大きさで描かれているように見える。車のドライバーから読みやすいように極長体で描かれた文字やサインは、マニュアルによる厳しい規定に基づいていると思われる。

 さらに通行中の車両を規制して、短時間で描かなくてはならないその作業にはかなりの熟練が必要だと思う。以前知り合いの若者がこれのアルバイトをやった時の話を聞いた。技術的にも大変だが、それ以上に重労働だと言っていた。特に夏は日射しを浴びたアスファルトが照り返す熱との戦いは相当過酷だと思う。

 実はこの作業をやるには路面標示施工技能士という国家資格がいる。僕たちグラフィックデザイナーも様々なフォントを使うが、この道路標示のフォントぐらい機能性が求められるフォントはないだろう。可読性は絶対条件だが、さらに短時間で描けるデザインでないといけない。

 しかし、下手をすれば人の命に関わるフォントであるとも言える。道路標識や駅や公共の施設などのサインもデザイナーの仕事ではあるが、僕はこの道路標示のフォントを見る度に一体誰が作ったのだろうと思っていた。(ネットで調べてみたがわからなかった。)そのデザインをする上で、「かっこいいデザイン」なんて端からない意識していないと思うけれど、実際の道路に描かれた徹底して機能を追求したその文字やサインのデザインは下心が無い分「かっこいい」と思う。

 最近の交通標識はLEDを使ったハイテクなものも結構見かけるが、この「道路標示」だけは専用の機械を使うとは言え、まだまだ人間のテクニックがものを言う。そして道路を行き来する人間たちに様々な情報を伝える道路からのメッセージでもある。

 たまにはスマホから目を離して、道路の言葉を眺めてみると意外な発見があるかもしれません。と言いつつも僕は、その上をハイヒールを履いて通り過ぎる脚のほうについ目を奪われてしまうわけですが。

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