見出し画像

アメリカン・コミックの歴史 第1回「1915年の覆面のヒーロー」

1915年に公開されたアメリカ映画『国民の創生』。D・W・グリフィス監督による米国初の長編映画です。同時に、クローズアップやカットバックなど、その後の映画の基礎となる手法を編み出した、映画史に永遠に残る約3時間の大作ですが、この監督のグリフィス。父親が南北戦争を南軍の大佐として戦った英雄で、南北戦争から連邦再建への19世紀後半のアメリカ社会を描いた叙事詩である本作の主役は勿論白人。しかも物語は南部の視点から描かれている為に、人種差別的な表現が隋所に見られます。何よりクライマックス。

主人公が結成した秘密組織”KKK”。強欲な黒人や混血児を蹴散らす彼らの英雄的な活躍で物語は大団円、白人たちはハッピーエンドを迎えるのです。つまりはこの映画、何を隠そうKKKの誕生秘話でもあるのです。本作が映画史を語る上で避けては通れない偉大な一本でありながら、同時に「アメリカ映画最大の恥」とも呼ばれる所以です。

しかし、この米国初の長編映画で描かれた英雄、すなわちヒーローがKKKであることは、アメリカン・コミックのヒーロー史を語る上でも、避けては通れないトピックではないかと思います。それは(狂信的な人種差別主義はひとまず横に置いておいて、)KKKが、法律に縛られない、覆面の自警団であるという意味においてです。

自警団とは、”司法手続によらず自らの実力行使をもって自己および共同体の権利を維持確保するために結成される組織(私設軍隊・民兵)、およびそれを模した防犯組織。

もっとも、そうした自警団・自警活動は現在、通常の法治国家では認められるものではありません。自己および共同体の権利は、司法によって守られるべきであり、それを無視した実力行使は、目的を問わず、共同体の秩序を乱すものとされます。バットマンやスパイダーマンが、街の平和を脅かすヴィラン(悪役)を倒すヒーローでありながら、警察に追われる身でもあるのはそのためです。

彼らは、そうした警察やメディアの追及を逃れる為に覆面を被るのです。しかし覆面は、単に正体を隠すだけの役割ではありません。同時に、彼らのコウモリや蜘蛛をイメージした覆面はアイコンとして、犯罪者には恐怖を、市民には畏敬の念を抱かせます。それは、KKKの覆面それ自体が当時、黒人を脅えあがらせる役割を果たしていたのと同様です。(『国民の創生』では、主人公は、布をかぶって幽霊の格好をした白人の子供が、黒人の子供を怖がらせている姿から、KKKの装束を思いつきます。)

「自警」と「覆面」。それはバットマンやスパイダーマンに限らず、アメリカン・コミックのヒーローを構成する要素の中で、最も重要とも言えるものです。覆面ではありませんが正体不明であるスーパーマン(胸の「S」のマークがアイコンの代わりを果たします)も、この要素から、そしてこの要素が示唆するものから逃れられません。この2点において、現在でも活躍する多くのアメリカン・コミックのヒーロー達と、KKKは繋がっているのです。


#アメリカ #コミック #アメコミ #スーパーマン #バットマン #スパイダーマン #KKK #エッセイ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?