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『リルケ詩集;高安国世訳』〈岩波文庫〉④【1211字】

1)『オルフォイスに寄せるソネット』──第一部──.

 平易な言葉選びをしているわけではないにも関わらず、読み口はとても軽やかで、快活さが感じられれる詩。

【P-126】[l-8]上げた歌声をも忘れるように努めるがいい。流れ去るのみの歌声は。
真に歌うこと、それは別な呼吸のことだ。
何のためにでもない息吹。神の中のそよぎ。風。
【P-133】[l-10]二重の世界においてはじめて
                           歌声は
                           永遠に そして穏やかになる。
【P-136】[l-6]私たちを結ぶ精神に祝福あれ!
まこと 私たちの生は形象のうちにある
そうして時計は小刻みに慌ただしく
私たちの一日の真の時間の傍らを走る。


 後半に読み進めていくごとに、言葉から感じ取れる喜びの感情は増し、表現もその自由さを増していく。情熱の行き着く先は"神殺し"だ。


2)『オルフォイスに寄せるソネット』──第二部──.

【P-155】[l-3]呼吸よ、目に見えぬ詩よ
       絶えず自分自身の存在のために
       純粋に交換された世界空間。
       リズムと共に私が私を成就してゆくための対重。

 私が私でいるための呼吸。食物連鎖における消費者の身体更新(=『純粋に交換された世界空間』)。生態系のリズム。

【P-161】[l-5]薔薇よ、花の女王よ、古代には
お前は単純な花弁をもった蕚だった。
私たちはしかし無数の花びらをもつふくよかの花、
掬めども尽きぬ意味をもつ花。

 『掬めども尽きぬ意味をもつ花』=無限の解釈可能性を秘めた存在。

【P-167】[l-4]言葉はまだ言いがたいものにやさしく触れて消えてゆき……
音楽は絶えず新しく、何物よりも慄えやすい石を積んで、
用いることの不可能な純粋空間の中に神聖の家を建てる。
【P-169】[l-7]泉となって自らそそぐものだけが、認知によって認められる。
歓びに満ちて認知は彼をはれやかな被造物の間を導く、
それらはしばしば発端をもって終わり、終りをもってはじまる。

 発端も終焉も、すべての認知は“生命”の内から湧き出るもの。

【P-170】[l-9]在れよ──そうして知れ、同時に非在の条件を。
おまえの心の振動の限りない奥底を知れ、
この一度ぎりの生に剰すなき振動を遂げるため。
【P-190】[l-2]この量り知らぬ約束夜闇の中に
きみの五感の交差路に、みずからの魔法の力となれ、
五感の奇妙な出会いの意味となれ。


3)まとめ

 まさに、無限性を含んだ有限の詩(言葉)といった作品。天への祈り、生命への祈りが純粋自然な言葉を借りて立ち上がってきたかのような詩だ。

 時間の流れ、心の変化そのものを生命の意味となし、歓びや苦痛、禍福のすべてを許容するような、力強い自由さが感じられる。自らが世界のすべてに意味を与える存在だという、リルケの確信が伝わってくる傑作。


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