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産後うつ 体験記 ②



4. 気になる足音

自宅に帰って悩まされたのは、次男の「新生児うなり」と呼ばれるものだった。

よく寝てくれる子だったが、何故か寝ながら泣いたりうなり声を出したりする。
(新生児うなりは、体が成長しているためなど色々説があるようですが、ハッキリとした原因は分からないようです)
それが結構大きい声で、母親の私はもちろん、長男も起きてしまう。
夫と長男に別の部屋で寝てもらうようにもしたが、長男は夜中に起きて、側に私がいないと不安になるのか、私を探しにきて結局隣で寝る。
そして、次男の声で起きる。
…その繰り返しだった。

小児科で相談したら、
「数ヶ月で無くなるから、それまでの辛抱」
と言われ、その数ヶ月が途方もなく長く感じただけだった。

長男も徐々に不安定になり、夜中に起きると怒り出して寝ず、長男が怒りながら泣く声で逆に次男が起きてしまうこともあった。
なので長男を連れて、夫と私と交代で深夜のドライブによく出かけたりした。
深夜の2、3時はまだ耐えられるが、明け方の4、5時位が眠気のピークになってかなり辛かったのを覚えている。

そして、何とか長男が寝て、倒れ込むように自分も眠った。

この頃の昼間の出来事は、今でもあまり思い出せない。

その内、夜中に次男が唸り出したり泣いたりすると、長男が起きないようにと別室に連れて行くようになった。
早く収まりますように…長男が起きませんように…と祈りながら、次男を抱いて部屋の中を歩き回った。

それを繰り返しているうちに、昼も夜も、自分の足音が耳につくようになった。
靴下を履いていないと、床の防音マットで起こる自分の「ぺた、ぺた」という足音がうるさい。
その内、毎日必ず靴下を履くようになった。

ある日、靴下を履かずに寝た。そしてその夜も、次男の唸りで目が覚めた。
いつものように別室に行き、次男を抱っこして歩く。
足音がうるさいが、靴下を取りに行けない。
履こうとして下ろすと、おそらく次男は泣く。
悶々としていると、長男が泣いて起きてきて、私の足元に抱きついた。

その時、目の前が白く濁ったのを何となく覚えている。
そして私は耐えられず、夫に叫んだ。
「靴下をもってきて!早く!」

夫が隣の部屋で起きた。そして靴下を持ってオロオロしているのを見て、私は泣きながらもう一度叫んだ。
「早く!早く履かせて!」

その夜から、必ず靴下を足元に2組置いて寝るようになった。

5. PSWなのに

話は変わるが、PSWというのは、精神科ソーシャルワーカー・精神保健福祉士(Psychiatric Social Worker)の略称である。
プロフィールでも紹介しているが、私は福祉の代表資格と言ってもいい社会福祉士と、精神保健福祉士の資格を取得している。
別に自慢でも何でもなく、ここで言いたいのは、
「そんな資格持ってても、自分の疾患にはあまり役に立たんかった」
と、いうことである。

精神保健福祉士(以下PSW)は、統合失調症や発達障害、認知症といった脳機能の疾患を持つ方のサポートをする資格で、そういった知識は一通り持っている(はず)。
つまり、精神疾患の発症のメカニズムや兆候について、それなりには知っている(はず)。

だから、私は今回、
’自分自身が、まずい状況なのは分かっていた‘
のだ。

だけど
’何も行動できなかった‘
のである。

何でかというと、知識として分かっていても、もう精神力や体力が限界で、今の生活以上にプラスして何かを行う気力が起こらなかったからだ。

この状況を何とかしようと行動する…例えば関係機関に相談に行く、精神科を受診する、サービスを予約する、などの道のりは、心身が限界の人間にとってはあまりにも遠かった。

6. 遠い初診

そんな状況を、夫もまずいと感じていたらしい。

夫の育児休暇は3ヶ月なので、既に残り1ヶ月を切っていた。
当時の私の状態で、2人子どもを見るのは不可能だと夫も焦っていたようだった。

私の知らないうちに、長男を連れて遊びに行った支援センターの保育士さんに相談をしていたらしい。
ありがたいことに保育士さんも色々と考えてくれて、ひとまずは市の担当課に相談しに行ったらどうか、と勧めてくれたと夫から聞いた。

私は仕事柄、こういったケースも色々と見ている。
だから、市に相談に行ったら、担当者から何を言われるのか、どんな支援を提案されるのかは大体予想がついた。
でも、その時は夫からの提案が素直に嬉しかった。
同じことをするのでも、自分から号令をかけて動くのと、他の人の主導で動くのとは全く労力が違う。
子育てにおける夫婦のストレスの感じ方の違いは、こういった所にもあるんじゃないか、と思う。

市へ相談に行くのと同時に、夫は私の精神科受診も勧めてくれた。
やばい、と思っていても自分からは全く行く気にならなかったのに、人から勧められると不思議とやる気になった。

精神科の内情はそれなりに知っていたので、初診の電話を3件、心当たりの病院にした。

噂通りではあったが、どこの病院も初診は遠かった。
1番早くて1月半後。
既に夫の育休は終わっている。
産科からの紹介状があればどうかと聞くと、A病院がそれなら2週間後に予約が取れると回答した。

実は、私は次男の1ヶ月検診の時に、産科で素直に回答したエジンバラテスト※で、かなりの高得点を出していた。
助産師に「相談していかれますか?」と聞かれたが、その日私は、次男の検診だけでかなり時間がかかって、疲れ果てていた。
とにかく早く休みたかったので「大丈夫です」と微笑み、そのまま帰宅していたのだ。

エジンバラで高得点なら、産科も紹介状を書いてくれるだろうと連絡してみるとOKとのことだった。
しかし、何も告げずにできる時期を聞くと、約1ヶ月後とのこと。
事情を話すと2週間後に何とかする、とのことだったので、精神科受診の前日に受け取りに行くことにした。
※エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)

(続く)




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