マガジン

最近の記事

間抜けな午後半休

 1日のうち唯一息抜きができる昼飯時、私の足は痛みだした。なんだと思い安全靴を脱いでみると左足の指が紫色に変色していた。 腐ったのか…。などと思いながら一応事務職の女性に助けを求めた。我ながらその光景は子が親に物事を相談する姿そのもので少し情けなかった。彼女は私の指を見ると驚いた様子で病院へ行ったほうがいいのではないかと伝えた。 もし職場を離れるのであれば係長へ話に行かないといけない。 憩いの休み時間中に恐れ多いが私は係長の前まで足をひきづって行った。係長はカエルのようなジト

    • 父親の姿

       先輩社員Iさんは大学生の息子を持つ50代の男性社員である。いつも9時に出社して退社は21時をまわる。仕事が忙しい、回らないからといった原因もあるが、残業をして給料を少しでももらおうとしているように見える。一日3時間残業すれば一ヶ月に60時間以上の残業を行うことになる。私のようなペーペーならば、このくらいの犠牲で得られる給料は10万円近く増加する。20年以上のキャリアを持つ彼ならばもっともらっていることは確実である。しかし、余計な仕事は極力増やしたくないようであった。  係

      • コロナ禍の死闘

         みなさんコロナ禍はいかがお過ごしなされたでしょうか。多くの業界は仕事が増え、慢性的な人材不足に悩まされたことと思います。一つ教養のために物流業界がどのような煽りを受けたのか、お話しいたしましょう。  同期M姉さんの配属先は後輩Kくんと同じ部署で忙しい作業現場である。貨物の搬出入や荷詰め作業の手配などその責任は大きく、作業は顧客ごとに事細かく分かれており職場の空気は最悪だった。加えて時間というノルマがあり、客先からのわがままや、現場作業員からの要望などにも応えなくてはならな

        • 指導教育について

           何を言われたらパワハラになるかは言われた側の受け取り方に左右される。しかし時と場合によっては教育指導に必要なこともあるため、一概にやってはいけないことだとは私は思わない。私の同期もそれは理解していた。故に先輩社員や上司の指導に関する愚痴は一回も聞いたことがない。先輩達も軽いじゃれ合いやちょっとした厳しい口調は世間の目を気にしつつ容認していた。  ではどう言ったケースがパワハラと受け取られていたか。辞めて行った同期や後輩の話を聞くと、その多くは信頼関係の度合いを超えた理不尽

        間抜けな午後半休

        マガジン

        • 予約
          1本

        記事

          ブラック企業

           なぜこの業界は人気がないのか。物流業界は従来3K(きつい、汚い、危険)と呼ばれ、多くの新卒社員からは入社を懸念されてきた。忘れてはならないのがブラック、パワハラ、低賃金の三つもついてくる。これは特にこの業界に限った話ではないが、まだ根強く残っている世間の印象だろう。 事実そうである。ブラックに近く職場環境が悪い、昭和の価値観は現代ではパワハラに該当することを理解されておらず離職者が多い、そして全てを体験したものは賃金の低さに将来性を見出せず絶望する。100人以上いた同期は5

          ブラック企業

          現場飯

           現場飯に憧れを持つ人はいるだろうか。安い、多い、美味いの三拍子揃ったコスパの良い昼飯である。たんまりの炭水化物と他一品加えて丼にした格安の弁当を頬張りながら私はよく都内にオフィスを構えるビジネスマン達は何を食べるのか想像していた。モッサモッサと油っぽい濃い味付けの青椒肉絲を噛み締めながら「ハンチョウ大槻」の立ち食い蕎麦屋を思い出す。小さな幸せを大きくさせて一時を楽しむのだろうか。それとも1000円ランチをインスタグラムに上げるのだろうか。1000円など到底無理である。昼飯2

          引き継ぎは計画的に

           部署異動になりデスクワーク主体の業務へと移った。ここは支店一作業従事者のストレス数値が高いことで有名だった。 会社としてはより多くの仕事を見てほしいと言う配慮があったのかもしれない。事実外国語を使用する頻度はあがり、モチベーションも少しは上がった。しかしそれでも使用頻度は月に2度ほどあるかないかと言うもので、前部署とは五十歩百歩といった具合だ。 0よりはマシになった、そう思えて嬉しかった。 しかしそんな前向きな感情もすぐに消え失せる。  配属が一ヶ月をすぎると途端に作業量

          引き継ぎは計画的に

          現場作業員の価値

           少し前に乗船しようとした水先案内人が海中に転落して亡くなった事故が発生した。船から船へ乗り渡る方法を見てテレビの前の視聴者の中には度肝を抜かれたものもいるだろう。荒波立つ海面のせいでボロいが丈夫な網梯子はゆらゆらと揺れ、固定されているとはいえ登る人間は振り子時計のように大きく揺れる。バランスを崩せばドボンと落ち、運が悪ければそのまま浮き上がって来れない。しかしだからと言って根本的な解決方法はない。天候などの環境は選べないし、体調管理を整えるなどの手はうつが結局は作業にあたる

          現場作業員の価値

          昇進準備と葛藤

           昇格するということは夢へ一歩近づいたということである。権限の増加、豊かになる懐、そして社会的な勲章がひとつ増えるのだ。しかし、同時に会社に染まってしまうのである。 その会社にとって価値のある人物とは何か、考えさせられる機会だ。  私が感じたところ、価値のある人物とは悪い言い方をすれば上司の考えに「イエス」という人間である。自分の意見をいかに殺して「イエス」に近づけさせるかを考えねばならない。 そんな事を考えながら深夜11時に誰もいなくなった港でタバコに火をつける。 タイム

          昇進準備と葛藤

          後輩の話

           日本企業の作業内容は定型化していないという話を聞いたことがある。この定型化には企業によって様々な定義があり、解釈はまちまちだ。 私が勤めていた物流企業は典型的に作業が見える化されておらず、その皺寄せは現場の人員である、係長、リーダー、として新人社員に来ていた。 一年後輩のK君は倉庫作業の専門職としてそのキャリアを築いていた。出身は内陸だろうか、フットワークが軽そうなアウトドア派な青年だ。非常に勉強ができたであろうその対応力と柔軟性は目を見るものがあり、くわえて余程のことがな

          後輩の話

          若手が辞める理由

          会社を辞めた理由を考えてみよう。十人十色の背景はあるが私場合はキャリアの不透明性が大きい。人間関係や不得意な業務内容は配属先によって大きく違うので、今この時を何とか過ごせば何ら問題はない。しかしキャリアとなれば話が違ってくる。なぜなら5年後10年後の継続的な話になってくるからだ。  会社は我々を長く手元に残しておきたいと考える。対して素直な新人はその期待に答えようと長くいられるように自分なりの将来プランを設計する。しかしそれをハナから否定されたらどうだろうか。 たとえば私

          若手が辞める理由

          会社を辞めるまで

           この世に生を受けて20数年、私は大学を卒業し、無事社会人へと歩みを進めることができた。しかしこれはゴールではなく、新たなるステージの始まりであり、到底めでたいものだとは思えなかった。 この企業に在籍し、自身のキャリアを構築していく。100人以上いる同期たちと切磋琢磨し、10年後の姿を想像して行くのだ。 この時私は想像していなかった。この選択肢が茨の道であり、如何に曖昧な環境で自分の視野が狭いということに。 数週間で得た企業理念や今後の事業展開などどれもフワッとしており深掘り

          会社を辞めるまで

          留年三勇士

           留年という言葉は人生の道を踏み外した証であると私は二十年間信じていた。 まさか自分がそうなるとは思っていなかったが、周りを見渡せば同じような境遇の人間がたくさんいた。 「赤信号みんなで渡れば怖くない」を身をもって経験したのだ。  類は友を呼び、旧友2人が私と同じ時期に留年が決定した。 1番最初に留年が決まったのは私である。交換留学を決意し、就活との折り合いを考えもう一年在学することにしたのだ。 周囲の反応は「おめでとう」だった。 「留学しての留年は将来への投資だ」と言って

          留年三勇士

          帰国子女と大学受験

           帰国子女になる大きな利点の一つに大学受験の敷居が低くなることがある。2010年代の情報では、受験の際は特定科目の難易度が上がってしまうが、その分いくつかの教科を免除してもらえる。その為、AO入試と共に「一発芸入試」「楽な受験」と揶揄された。これは確かに事実であり、理不尽なことに実力のない者が私立最高峰の私大へと進んでいった。  海外では日本人学校よりインターナショナルやアメリカンスクールの方が受験に有利であると言われていた。「せっかく海外に来たんだから」と子の学歴を気にす

          帰国子女と大学受験

          幼稚な反アメリカ思想

           中国へ留学中にラオスの青年と出会った。 彼との会話で初めて明確にアメリカを称える世論に疑問を持った。  アメリカを中心とした英語圏に憧れを持ったことはあるだろうか。 SNSが発達した現代、多くのアメリカナイズが人々の心を蝕んでいる。形だけ真似した思考法、アメリカ訛りが中心と思っている英語、そしてアメリカを中心とした政治的発言等、数えたらキリがない。実は大学の同期が井の頭線でこんな感じにアメリカナンバーワンを言っていたのだが、私は内心笑いを堪えるのに必死だった。 同年代で笑

          幼稚な反アメリカ思想

          武道とスポーツ

           2000年初頭、周りの大人たちは皆口々に「武道とスポーツは明らかに違う」と言った。道を極めたり、礼儀や作法を重んじると言った点がスポーツにはあまりないからだ、というのが彼らの主張である。或いは特に意味もなく「明らかに違うんだ」と力説してくる者もいた。 しかし、最近の武道は果たして武道と呼べるのか。20年前と比べると大きく変わってきているのではないか。  近年メディアに取り上げられている武道のほとんどは私が学んできたものとは大きく違い、よりスポーツ色の強いものが増えてきてい

          武道とスポーツ