幼稚な反アメリカ思想

 中国へ留学中にラオスの青年と出会った。
彼との会話で初めて明確にアメリカを称える世論に疑問を持った。

 アメリカを中心とした英語圏に憧れを持ったことはあるだろうか。
SNSが発達した現代、多くのアメリカナイズが人々の心を蝕んでいる。形だけ真似した思考法、アメリカ訛りが中心と思っている英語、そしてアメリカを中心とした政治的発言等、数えたらキリがない。実は大学の同期が井の頭線でこんな感じにアメリカナンバーワンを言っていたのだが、私は内心笑いを堪えるのに必死だった。
同年代で笑い事なのだ。歳の離れた年配が堂々と話していたら目も当てられない。

 ラオスからの留学生はビーと名乗った。当時22歳で自国の4年制大学を卒業したばかりだという。中国へは院としてではなく、再度4年制の学部生として入学しにきたらしい。
「わざわざ不慣れな漢字を勉強してまでここにきたのか。英語の方が楽だろう?」と尋ねると彼は「他に行ける場所がないんだ。」と答えた。
彼曰く、ラオスの大学卒では立場が弱い。それが国際社会での話なのかはわからないが、とにかく普通に4年制の大学を出ても社会は良しとしないのだそうだ。
「それでこの田舎まで来たんだよ。」ビーは微笑んでいた。
わたしが「英語のが得意ならアメリカに行けばいいじゃないか。まあ学費がネックだろうがね。」と言うと彼は「学費もなんだけど」と一区切りして続けた。
「ラオスは社会主義だからさ」
自分の拙い翻訳でうまく訳せていないだけかもしれないが、彼はこのような返答をした。
要は「アメリカが危ないと判断した国だから」ビーはアメリカへ学びにいけなかったのだ。
「戦争もしてたしね。まだしこりが残っているんだ」
彼は続けてオバマさんが如何に印象に残っているのか語った。
歴代アメリカ大統領で彼だけがラオスについて言及したらしい。さらには今でも残る不発弾についても哀悼の意を表したのだという。

「なんだ。同じだな。日本もいまだに不発弾見つかるよ。」軽い気持ちで言ったつもりが、ビーの表情に驚きが浮かび上がった。
正確には強めな悲しみと驚きが同時に出てきた。
東南アジアで生まれた彼らからすると日本は格別な国なのだ。ここで言う格別とは文化や民度ではなく、歴史だった。
開国して80年足らずで日清日露、第一次大戦、大陸出兵、そして第二次大戦と経験し、陸海空を制した国が焼け野原となり敗戦と同時に全てが無になった。しかし立ち上がり、今度は経済的に飛躍し、世界の誰もが「日本」を知っている世の中になった。
中国語訳されたマクロ経済学の教科書に「経済力は国土の広さ、資源の多さに比例する。しかし両条件が該当しない日本のように発展する特別な例もある」と書いてあったのを記憶している。
彼らからしても特別なのだ。そんな特別な国にも先の大戦の不発弾がいまだに存在する。
その事実をビーは初めて知ったのだろう。

 日本とアメリカの関係についてここでは述べない。しかしベトナム戦争中にアメリカによって投下された爆弾の影響で発展が阻害されているラオスに当事者は何をしてきたのだろうか。アメリカの全てを肯定的に受け入れるなら彼らの思考をどう受け取ればいいのか。
何もなければビーのような二重や三重の苦労をする若者が減っていたのかもしれない。

多数派の意見に安易に乗っかってはいけない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?