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【書評】 『歯科医師が知っておきたい 小児の閉塞性睡眠時無呼吸―健全な口腔顎顔面発育に必要な知識と対応のポイント』

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2023年12月号に掲載する「HYORON Book Review」を発刊に先がけて全文公開いたします.(編集部)

関崎和夫/新潟県見附市・関崎歯科医院

今,GPの間では,呼吸・睡眠障害を学ぶことが大ブームで歯科雑誌の特集,書籍の発刊,講習会も多い.これらのブームのオリジンは,本書の編著者である外木守雄先生および共同執筆者らが地道に長期に真摯に取り組んできたグループ研究に始まる.

2003年2月に起きた新幹線運転士の居眠り運転事故により,睡眠時無呼吸症候群が大々的にマスコミに報道され,その存在を知った人は多い.
歯科でも2003年に日本睡眠歯科医療研究会が発足し,歯科界や歯科雑誌に睡眠時無呼吸症候群という用語が登場し始めたのはその頃からで,外木守雄先生は「ストップ ザ・いびき」「その“いびき”歯科で治るかもしれません」というキャッチコピーを提唱し,歯科界に呼吸・睡眠障害を認識させ,その治療の普及に尽力してきた第一人者でもある.
本年10月まで理事長をされた日本睡眠歯科学会は現在会員数1,035名にまで発展している.

本書は小児科・耳鼻咽喉科・歯科の垣根を越えて,小児の閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea:OSA)に真摯に取り組み,協力し,研究してきた執筆陣が作成している.
それによると小児のOSAは成人とは異なる病態を呈し,独立した疾患として分類され,その原因部位は鼻腔から下咽頭まであらゆる部位に及ぶ.原因部位を特定することは大変難しく,OSA小児を診断し,歯科的管理を行う場合には,医科との連携が必須で,可能であるならば一般の耳鼻科医や小児科医ではなく日本睡眠学会の睡眠専門医に紹介し,医科歯科連携で対応する必要があることをどの執筆者も強調している.

2008年にNHK総合テレビ「病の起源 睡眠時無呼吸症」にて,睡眠時無呼吸症の治療法として,スタンフォード大学のGuilleminault教授が小児期からの上顎急速拡大(Rapid Maxillary Expansion:RME)による治療法を紹介されたことにより,日本の歯科界でもRMEが睡眠時無呼吸に対する治療法の一つとして着目された.
その後,Guilleminault教授がこの基になった論文を取り下げたという誤った情報が伝わってきたが,Guilleminault教授に直接師事した外木守雄先生がそれを否定し,正しい情報を記述しているのでぜひ読んでいただきたい.

最近,OSAの診断にCTを用いて,咽頭部の気道を立体的に分析診断するGPも多い.しかし,OSAの原因部位は鼻腔から下咽頭まであらゆる部位に及び,その原因部位を特定するためには鼻腔から下咽頭までのCTと気道の通気量を計る流体解析まで必要であり,鼻腔分析のないCT診断はあまり意味のないことが本書からよくわかる.

本書でも岩﨑智憲先生が「Chat GPTの問題に代表されるように,歯科領域で発信されている情報にも個人の主観に基づいた情報から,国際的に権威のある学術専門誌の査読を受け晴れて掲載された論文情報まで玉石混交のため,得られる情報の真偽を見極めることが非常に重要である」と述べている.

今後は雨後の筍のように呼吸・睡眠を語るGPが増えてくるだろう.これからは本物を見極める時代である.
もしGPが呼吸・睡眠障害を学ぶのであれば,この書籍を最初に読んでいただきたい.それから他の書籍を読むとそのエビデンスの差,執筆陣の臨床に対する真摯な姿勢の差が歴然とわかるはずである.
間違いなく本書は呼吸・睡眠障害を学ぶGPのバイブルとなる本である.

関連リンク
『歯科医師が知っておきたい 小児の閉塞性睡眠時無呼吸―健全な口腔顎顔面発育に必要な知識と対応のポイント』(外木守雄 編著)

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