『ジョジョ』にもみられる? “マニエリスム”とはにゃに?
《週末アート》マガジン
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マニエリスム
マニエリスム(Mannerism)とは、後期ルネサンスとも呼ばれ、1520年頃のイタリア盛期ルネサンス(High Renaissance)の後期に出現したヨーロッパ美術の様式で、1530年頃までに広まり、イタリアでは16世紀末頃まで続き、バロック様式がこれに大きく取って代わっていきました。北部のマニエリスムは17世紀初頭まで続きました。マンネリズムの語源。マンネリズムとは、
という意味。
マニエリスムは、美術の区分としては、盛期ルネサンスとバロックの間にあたります。イタリア語の「マニエラ(maniera:手法・様式)」に由来し、ヴァザーリは、これに「自然を凌駕する行動の芸術的手法」という意味を与えています。
どのようにしてマニエリスムが始まったのか?
ミケランジェロに代表される盛期ルネサンス(1450年〜1527年)の成果は圧倒的であり、芸術は頂点を極め、完成されたと考えられていました。ミケランジェロの弟子ヴァザーリは、ミケランジェロの「手法(マニエラ maniera)」を高度な芸術的手法と考え、マニエラを知らない過去の作家に対して、現在の作家が優れていると説いてまわっていました。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ミケランジェロら盛期ルネサンスの巨匠たちは古典的様式を完成させた……これをヴァザーリは普遍的な美の存在を前提とし、「最も美しいものを繋ぎ合わせて可能な限りの美を備えた一つの人体を作る様式」として「美しい様式(ベルラ・マニエラ)」と定義づけました。
1520年頃から中部イタリアでは前述のレオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ミケランジェロたちの様式の模倣が目的である芸術が出現しはじめます。「マニエラ」は芸術作品の主題となりました(このあたりは、の日本の琳派に似た運動です)。
その結果、模倣することが目的である芸術が広がるなかで、模倣もとである盛期ルネサンスの再解釈が行われ、その表現は極端な強調、歪曲が行われるようになっていきました。一方で古典主義(ルネサンスのテーマの中心)には入れられなかった不合理な表現する傾向も表れるようになっていきました。フィレンツェにおけるマニエリスムの発生は、1512年のジュリアーノ・デ・メディチの追放とそれによるメディチ家のフィレンツェへの復帰、それらの社会的な緊張感の発生と芸術家への発注数の増加、ミケランジェロとラファエロのローマへの移動によって起きた、フィレンツェの伝統からの解放によるものだと考えられています(ハンガリーの英文学史家、アルノルト・ハウザー(Arnold Hauser)※2)。
やがて17世紀になると、ピエトロ・ベッローリ(Giovanni Pietro Bellori、17世紀芸術家の伝記作家、画家)はマニエリスムを非難し、型にはまった生気の欠けた作品という評価が広がっていきました。
このマニエリスムへの否定的な評価は19世紀まで続き、その間、1530年頃からのローマやフィレンツェにおける絵画の衰退を意味する言葉として扱われてきました。その後1956年にオランダのアムステルダムにて催された『ヨーロッパ・マニエリスムの勝利』などをきっかけとして、20世紀ドイツにおけるドイツ表現主義や抽象主義が活気づくとともにマニエリスムも独立した表現形態であると再評価されるようになっていきました。
マニエリスムの特徴
キャプションで前述はしてるのですが、マニエリスムの特徴は、細長いプロポーション、高度に様式化されたポーズ、明確な遠近法の欠如など。消失点(しょうしつてん、vanishing point:遠近法において、視点を通り、描く直線と平行な直線が画面またはその延長面と交わる点)の高低を極端に設置することで奥行きがなくなり、閉ざされた平面的な絵になります。また寓意を多く含む作品が多いのもマニエリスムの特徴です。その他には「フィグーラ・セルペンティナータ(Figura serpentinata)」とも呼ばれる蛇状体( serpentine positions)という曲がりくねり、引き伸ばされた人体の表現もマニエリスムの特徴。
消失点
特徴のまとめ
人物の細長さ
マニエリスム作品に多くの細長く描かれた人間の姿が登場します。
遠近法の歪み
完璧な空間を追求した結果、空間が極端に歪められてしまった表現がマニエリスムの絵画に多くみられます。
黒い背景
マニエリスムの画家たちは、劇的な場面を作り出すために平らな黒い背景をよく使っています。黒い背景はまた、主題の中で幻想的な感覚をうみだす効果も持っていました。
闇と光の使用
多くのマニエリスムは、照明を意図的に使い、そのコントラストとして夜空の本質を捕らえようとしてきました。照明として用いられるのは、たいまつや月光など。
彫刻的な形態
マニエリスムは、16世紀に流行した彫刻から大きな影響を受けていました。その結果、マニエリスムの絵画は、立体感が強く意識されたものが多い。
線の明確さ
人物のきれいなアウトラインに支払われた注意は、マニエリスム内で顕著であり、バロックや盛期ルネサンスと大きく異なっていました。
マニエリスムの動き
マニエリスムえは、人間の動きについて研究が深められ、その結果、描かれる人物像が蛇のように曲がりくねったポーズで描かれることがあります。
描かれたフレーム
いくつかのマニエリスム作品では、描かれたフレームは、絵画の背景に溶け込むように利用され、時には作品全体の構成に強く貢献していました。
大気効果(Atmospheric effects:)
多くのマニエリスムは、光の流れを表現するために「柔らかく霞んだ輪郭または表面の表現」として知られるスフマート(Sfumato)の技法を絵画に使っていました。
マニエリスムの色彩
マニエリスムでは、色彩についても強く探求されました。多くの作品が、青、緑、ピンク、黄色などの純粋かつ強烈な色彩を使っています。また肌色を表現する際には、過度にクリーミーで明るい顔色を作ることに集中し、青のアンダートーンを利用することが多くありました。
マニエリスムの芸術家
ヤコポ・ダ・ポントルモ(1494–1557)
ヤコポ・ダ・ポントルモ(Jacopo da Pontormo, 1494–1557)、本名はヤコポ・カルッチ。エンポリ付近のポントルメに生まれ。ミケランジェロやデューラー、ボッティチェリなどの作品から影響を受け、自作の中に巧みにその技法を取り入れています。画風は技巧的かつ繊細優美であるが内向的で、どことなく憂鬱な気分をたたえています。
ロッソ・フィオレンティーノ(1495-1540)
ロッソ・フィオレンティーノ(Rosso Fiorentino 、1495–1540)は、イタリア出身の画家。フィレンツェの生まれで、本名はジョバンニ・バティスタ・ディ・ヤコポ(Giovanni Battista di Jacopo)。1524年ローマに移住し、1527年ローマ略奪にあう。ローマからヴェネツィアを経て、フランソワ1世に招かれてフランスに赴き、フォンテーヌブロー城の改築に関わる。フォンテーヌブロー城の広間の壁に、フレスコ画でフランソワの生涯を描いたものが代表作。ロッソの影響で、フランスにフォンテーヌブロー派と呼ばれる画家のグループが生まれ、宮廷で活躍しました。
アーニョロ・ブロンズィーノ(1503–1572)
アーニョロ・ブロンズィーノ(Agnolo Bronzino, 1503–1572)は、イタリア・フィレンツェの画家。ブロンズィーノという愛称は、彼の髪の色であった「青銅」色を意味するイタリア語“ブロンゾ”に由来しているようです。メディチ家のフィレンツェ公コジモ1世の宮廷画家として活躍。
ジュゼッペ・アルチンボルド
ジュゼッペ・アルチンボルド(Giuseppe Arcimboldo、1526–1593)は、イタリア・ミラノ出身の画家。マニエリスムを代表する画家の1人。静物画のように緻密に描かれた果物、野菜、動植物、本などを寄せ集めた、ユニークな肖像画で有名。
エル・グレコ
エル・グレコ(El Greco、1541–1614年)は、現在のギリシア領クレタ島、イラクリオ出身の画家。一般に知られるエル・グレコの名は、スペイン来訪前にイタリアにいたためイタリア語で「ギリシャ人」を意味するグレコにスペイン語の男性定冠詞エルがついた通称。
ジョジョとマニエリスム
荒木飛呂彦氏による漫画『ジョジョ』シリーズにおける人体表現には、歪められすぎたポージング、いわゆる「ジョジョ立ち」がよく出てきます。この歪めれれた人体の表現は、まさにマニエリスムの特徴であり、西洋美術からのさまざまなモチーフを得ている『ジョジョ』のなかにみるマニエリスムと言えます。以下はジョジョ立ちを再現する桃兎ももさんのツイート。
ジョジョと西洋美術の関係を紐解いた、るいこのゆるゆる美術さんのYoutube動画は非常におもしろいです。
まとめ
本来なら盛期ルネサンスを扱ってからのマニエリスムなのでしょうけれど、先に盛期ルネサンスのつぎに興ったマニエリスムを紹介してしまいました。というのも、実はジョゼッペ・アルチンボンド氏の絵画を扱いたかったからです。彼を解説するには、マニエリスムを先に扱う必要がわたしのなかであったため、唐突ながらマニエリスムを紹介しました。これを書いている途中で、「これって琳派じゃん」とその類似に気づいたことがおもしろかったです。絵画、芸術は、あるとき「え?もう極めたんじゃね?」という段階に到達するのかもしれません。そうしたとき、最高峰たちを模倣することが芸術を極めるという思想が興り、やがてそれは「真似てばっかじゃつまらない」というカウンターによって消失していく……。このあたりは人間による表現の後期によくみる展開でもあります。そんな好例であるマニエリスムのおもしろいところは、たぶん「ただ真似るだけじゃつまらない……」というモノマネが矜持のようなものが、大げさにすることで独自性を生み出そうとしているところです。その結果、歪み、その歪みが「変な魅力」に変換されていきます。これはジョジョにみる魅力のひとつでもあるように思います。
芸術なんてこんなふうにぜんぜん思いつかないものと結びついたりするので、セレンディピティを楽しむためには芸術を知っていくのは、すごく有効かもしれません。
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参照
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