高速道路と一般道で書体が違う!? 標識の色、書体そして工夫
ビジネスに使えないデザインの話
ビジネスに役立つデザインの話をメインに紹介していますが、ときどき「これはそんなにビジネスには使えないだろうなぁ」というマニアックな話にも及びます。今回は、ビジネスにたぶんあんまり使えなさそうな話です。でもおもしろいです。
道路標識は、なぜ高速道路が緑色で、一般道は青色なのか?
1963年(昭和38年)、名神高速道路開通に向けて標識令(後述)を定めるときに、高速道路の案内標識の地色についてもヨーロッパで普及している青か、アメリカ合衆国が採用している緑のどちらを採用するかについて検討されました。それぞれの標識について、夜間に走行実験を行ったところ、
ヘッドライトに照らされた青色の反射シートを参加者全員が「緑」と誤認しました。そのため、昼でも夜でも見え方の変わらない緑色がを高速道路の標識の色の組み合わせとして採用することになりました。
ちなみに「標識令」では、「緑色」、「青色」とされているのみで、どのような緑や青なのかは規定されていません。しかし(財)日本規格協会によって、保安用反射シート及びテープの色の規格が決められており、道路標識の色彩はこちらを利用するのが原則となっています。NEXCO各社と首都高速では、同じ緑色でも濃さが違い、首都高の方が明るい緑になっています。
ということで、理由は、
でした。では、案内標識に使われている書体は何なのでしょうか?一般道と高速道路で使用されている書体が異なります。
一般道の書体
一般道の標識に使われている日本語の書体は「ナール」というものです。
一般道の和文は「ナール」
ナールは、書体の会社、株式会社写研(しゃけん)の丸ゴシック体です。デザイナーは、中村征宏(なかむらひろゆき)氏。
ナールはリリースされて以降、人気の書体で、テレビのテロップ、看板など至るところで使用されて続けてきました。「フトコロ」と呼ばれる日本語書体の文字の内側の空間を広くし、明るく、読みやすく、そして組みやすくしたところが特徴の書体です。そんなナールは、一般道の標識に現在でも使用されています。
は、東京都豊島区南大塚に本社を置く、写真植字機・専用組版システムの製造・開発、書体の制作およびその文字盤・専用フォント製品を販売する企業である。
一般道の欧文は、“Helvetica”
デザイナーではない方でも、ご存じの方の多い超人気書体、Helveticaが、一般道の欧文に使用されています。太さは、Demi Blod(やや太め)。Helveticaは、視認性がちょっと悪いんですけどね。
高速道路の書体
高速道路のサインには、和文、ローマ字、数字が別の書体で、計3つの書体が使われています。
(1)和文は「ヒラギノ角ゴシック体(W5)」
2010年から、高速道路の標識で使用される書体が変更されました。それまでは「公団文字」というものが使われていました。ヒラギノ角ゴシックは、1993年に、大日本スクリーン製造(現:株式会社SCREENホールディングス)が、製作しているデジタルフォントです。デザインしたのは、字游工房の鈴木 勉氏、鳥海 修氏、片田 啓一氏。「若々しい」、「さわやか」、「クリア」というイメージを目指してデザインされました。2000年2月16日、Mac OS Xへのヒラギノ標準搭載が発表されました。この日、MACWORLD Expo/Tokyo 2000においてのスピーチで、スティーブ・ジョブズが、ヒラギノ明朝体W6の「愛」を指さし「クール」と言っています(※1)。
(2)欧文は、“Vialog (Medium)”
Vialogは、Werner SchneiderとHelmut Nessによって2002年にデザインされた書体です。見間違えやすい、大文字の「I」(アイ)と小文字の「l」(エル)が簡単に識別できる書体です。ちなみにMedium(メディウム)とは、中太という意味で、太さ(ファミリーという)を表しています。書体名は、Vialog。
(3)アラビア数字は、“Fruiger (65 Bold)”
Frutiger(フルティガー)は、スイスの書体デザイナー、アドリアン・フルティガー((Adrian Frutiger)氏によって、フランスのシャルル・ド・ゴール空港の案内標識のために依頼されてデザインした書体です。高速道路の標識のアラビア数字部分が、このFruigerという書体です。「65 Bold」も太さを示すもので、「太字」を意味しています。
公団文字
公団文字とは、「公団標準文字」を省略したもので、「公団ゴシック」とも呼ばれています。「公団」とは、民営化されてNEXCO各社などになる前の、2005年まで日本の高速道路などを建設、管理してきた特殊法人「日本道路公団」です。遠くからでも認識されやすいように画やハネなどを省略した独特な書体です。公団ゴシックを模して、個人が制作したGD-高速道路ゴシック-JAという書体があります。
公団ゴシックとともに使われていた欧文は、“Neue Haas Grotesk”(ノイエ・ハース・グロテスクというHelveticaの前身に当たる書体)が使われていました。
公団ゴシックが使われなくなった理由は、デジタルなフォントではないため、標識のメーカーがそれぞれ製作するため、文字のばらつきが顕著になってきたことと、そのため視認性を下げるものが含まれてきたためでした。視認性の高いデジタルなフォントがすでに誕生していたため、現行のヒラギノ角ゴシックに取って代わられました。欧文もVialog (Medium)とFrutiger (65 Bold)※数字に変更しています。
逆光でも標識を見やすくするため工夫
高速道路の標識は、逆光になるとほとんど真っ黒になって見えなくなってしまいます。そこで、逆光でも見やすくなるように、現在では、文字部分に細かな穴があいて光を透過させ、視認できるような工夫が施されています。
世界のルール
道路標識には、世界的なルールがありますが、すべての国々がそのルールを採用しているわけではありません。
道路標識及び信号に関するウィーン条約
正式名称、道路標識及び信号に関する条約。統一的な道路標識を定め、それを用いて道路の安全性の向上や国際道路交通を容易にするために設計されました。この条約は、1968年に開催された国際連合経済社会理事会にて合意され、1978年に発行されました。標識の読みやすさ、ラウンドアバウトの優先関係、およびトンネル内での安全性を高める新しい標識の設定を含む改定が、2003年になされていますた。ヨーロッパ以外のほとんどの国はどちらかの条約を批准しておらず、各国独自の道路標識システムを維持しています。
アメリカ合衆国のルール:Manual on Uniform Traffic Control Devices (MUTCD)
道路と高速道路の統一交通管制装置マニュアル(通常、統一交通管制装置マニュアル、略称MUTCD)とは、米国運輸省(USDOT)の連邦道路庁(FHWA)が発行しているルールで、交通標識、路面標示、信号の設計、設置、使用の基準を規定するもの。米国では、すべての交通制御装置がこの基準に法的に適合していなければなりません。
日本の標識のルールは、「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」(標識例)
日本の場合、標識板の色彩や表示については、「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」(「標識令」)により定められています。標識令における案内標識の様式により、高速自動車国道や自動車専用道路では緑と白、一般道路では青と白とされています。
まとめ
一般道と高速道路では、使われている色だけでなく、書体も異なっています。そして、欧文には欧文書体が使われています。ここはデザイン的にはちょっと重要で、日本語書体の欧文は、欧文を組むためよりも、日本語のなかで使われるローマ字表記用にデザインされています。何が違うのか?わかりやすいのが「ベースライン」です。日本語の場合、横書きならベースラインの上に文字があり、ベースラインより下に文字ははみ出ません。しかし欧文の場合は、たとえば小文字の「g」や「y」などはベースラインから下にはみ出す部分があります。使う空間が異なるんです。欧文書体と和文書体では。そのため、欧文には欧文書体を使用するほうが、きれいに表示することができるので、欧文書体を使用する場合が多いんです。
道路の標識には、組織の変化、デジタル環境の台頭、道路の標識のルールなど、さまざまなものが絡んできます。わたしたちが何気なく見ているなかに、かなり深い世界が潜んでいるわけです。
参照
※1
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