こんなところにErbar(書体)!
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
東京造形大学の新ロゴ
東京造形大学とは、戦後日本に初めてのデザイン教育機関「クワザワデザイン研究所」を創設した桑澤洋子氏によって1966年に創設された大学です(東京都八王子市)。大学名のなかにある「造形」は、バウハウスの影響です。バウハウスとは、ドイツに1919年から1933年までの短い間にあった美術と建築を扱う総合的な教育機関です。美術、芸術の歴史のなかでとても重要な存在です。ナチスの台頭で閉校に追い込まれるも、その思想・理念を継承した「ウルム造形大学」( Hochschule für Gestaltung Ulm)が設立されました。この大学名が、東京造形大学の由来です。
桑澤洋子氏の著書
そんな東京造形大学が最近、ロゴが刷新されました。このプロジェクトには、虎屋などのアートディレクションを担ってきた葛西薫氏とドイツ・モノタイプ社のタイプディレクターの小林章氏らが関わっています。
そしてこのロゴは、当初から「Erbar-Groteskの雰囲気の書体で」という依頼が小林章氏に対してありました。Erbar(エルバー)とは、Futura(フツラ)やKabel(カベル)といった有名な幾何学的なサンセリフ体(日本で言うところのゴシック体)に先駆けてデザインされた書体です。Futuraの圧倒的な人気に隠れてあまり知られることはありませんが、Erbarがデザインされたのは1922年。バウハウスやモダニズムの影響を強く受けて、うまれた申し子のような書体です。
この書体をベースにして作られたのが東京造形大学の新ロゴです。
なぜErbar?
Erbar(エルバー)という書体は、「すこし早すぎた」幾何学的なデザインの書体でした。創設者の桑澤洋子氏は、バウハウスの理念に大きく影響を受けています。バウハウスは、美術的な美しさをいかに工業や建築に反映することができるかという模索の場でもありました。創設者は、この理念に近いものをもって同大学を創設したのではないかと推測します。なれば、誰最寄りも先んじて、バウハウスの理念を書体として具現化させたErbarは、美術・デザインといった東京造形大学が扱う領域の先駆者のような存在です。そんな存在であることを目指しているからこそ、Erbarという書体のエスプリを新ロゴに注入し買ったのではないかと思います。
東京造形大学のシンボルマークは“イオニア・スパイラル”がベース
ちなみにシンボルマークは、イオニア・スパイラルなるものをベースとして1966年に勝井三雄氏というデザイナーによってデザインされたものです。現在のものは、1993年にキャンパス移転に伴って、田中一光氏がリデザインしたものになっています。イオニアスパイラルなるものがどういうものかは、ちょっと調べてもわかりませんでした。
まとめ
幾何学的なサンセリフ体としては、Futuraが圧倒的な存在となっています。Futuraは、古代ローマの碑文がベースになっていることもあり、プロポーションが厳かで、比較的読みやすい。ゆえにとても使いやすい中立性のようなものをもっています。対してErbar-Groteskは、かなり個性的なアクセントを持っています。ドイツ的、幾何学的、つまりバウハウスの時代の気配をもった書体です。
使われる場面を見る機会は少ないですが、魅力や思想が詰まった書体です。それをちょうど良い場面で、東京造形大学のロゴのベースとして使われ、なんだか嬉しく思います。
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参照
https://www.zokei.ac.jp/darekadeowaruna/logo/
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