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【小説】あと79日で新型コロナウイルスは終わります。

~サイゼリヤのしゃべれるくん~

「やっぱり、やめようかな。」

アキナが言うと、看護師仲間が、

「大丈夫だって。」

と言った。

アキナたちは、緊急事態宣言が出るずっと前、2月から飲食店・カラオケ・ライブ鑑賞などクラスターが発生しそうな場所の出入りを自粛していた。

「平日のこの時間帯がいちばん空いているんだから。」

アキナや看護師仲間のクリニックは木曜日が定休日だった。

「でも、人がたくさんいたら、やめようね。」



アキナたちは、サイゼリヤに入った。出入り口で手指消毒した後、真向かいにならないように、斜め向かい側に座った。

(確かに空いている。時間帯のせいだろうか。)

アキナは店内を見回し、マスクをつけたままメニュー表を見た。

(懐かしい。)

たった半年前まで、当たり前にいつでも行けた場所、当たり前にいつでも頼めたメニューがあった。

アキナたちはマスクごしにそれぞれ注文した。

「お店のスタッフには悪いけど、空いててよかったね。」

アキナが小さな声でそう言うと、看護師仲間は、

「ちゃんと下調べしてきたんだから。」

と胸を張って答えた。



料理が運ばれてくると、店員さんがアキナたちに言った。

「よろしかったら、こちらの『しゃべれるくん』をお使いください。」

見ると、通常の紙ナフキン以外にもう1種類紙ナフキンが入っていた。

『しゃべれるくん』、サイゼリヤが考案したオリジナルの飲食用マスク。店に備え付けられている紙ナフキンを1枚取り出し、着用しているマスクに折り込んで使用する。食事中の会話によるウイルス拡散を防止するのが目的で、着用時にも楽しめるように柄とロゴが付いている。

サイゼリヤは「作る、つける、処理するところまで、ウイルスの感染リスクを可能な限り少なく、なおかつ使い捨てできる、汚れたら何度でも作り直せる気軽さを重視して開発した」としている。



アキナたちは、早速その紙ナフキンを着用しているマスクに折り込んだ。紙ナフキンは舌がペロッと出ていて可愛かった。アキナたちは、お互いの顔を見て思わず笑いだしてしまった。

「もしかして、これも下調べ済み?」

「もちろん!」

「なんかいろいろありがとう。」

アキナはそのとき、前に笑ったのはいつだったっけと思った。思い出せないくらい前だったような気がした。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと79日。

これは、フィクションです。

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