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コインランドリーでベトナム人女性に話しかけられた話。

実体験に基づいたフィクションです。

「スミマセ~ン。オシエテクダサ~イ。」

コインランドリーの店舗に入ったときは、普通に日本人かなって思っていたけれど、独特なイントネーションで彼女が外国人なんだとわかった。

見ると、彼女は乾燥機に洗剤を投入してしまっていた。私は、その乾燥機に“故障中”と書かれたマグネットを貼り、
「誤って洗剤を入れてしまいました。申し訳ありません。」
と、持っていたメモ紙に書いてそれにはさんだ。

私は彼女に洗濯機の使い方と、洗剤は自動投入のため、入れる必要がないことを教えた。

彼女は私にお礼を言った後、
「ちょっと待っていてください。」
と言ってどこかに行ってしまった。

すぐに戻ってきた彼女は、ビタミンCがたっぷり入ったホットドリンクを私に渡してきた。私は、
「ありがとうございます。ごちそうになります。」
と言って、ペットボトルのふたをひねってすぐにそれを飲んだ。

そのことで彼女は私に心を許したのか、矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。
「家は近いんですか。」
「週何回くらい来てるんですか。」
「仕事は何をしてるんですか。」
「週何日働いていますか。」
「残業はありますか。」

私は深入りしたくなかったので、オブラートに包んであいまいに返事をした。

日本人同士ならきっと察してくれただろう。それ以上聞いてくれるなと。

だがしかし、彼女は、
「住んでいる所とコインランドリーはすごく離れています。なぜ?」
とますます突っ込んでくる。

私は、
「ここは、お気に入りのコインランドリーだからですよ。」
と苦笑しながら答えたが、彼女は、
「わからない。わからない。遠すぎます。」
と突っ込み続けた。

私は思いきって話題を替えることにした。
「どこの国からいらっしゃったんですか。」
すると彼女は、
「ベトナムです。」
と答えた。

てっきり、中国人か韓国人かと思っていたので私は少し驚いたが、すぐさま、
「シンチャオ(おはようございます/ こんにちは/こんばんは)」
と言った。

彼女は、二度見を通り越して、私を三度見した後、
「なぜ⁉どうして⁉わからない⁉」
と驚いた。

近年、英語のみならず中国語や韓国語を話す日本人は増えたが、ベトナム語を話す日本人はまだまだ少ないため、私がベトナム語を話すと、ベトナム人は一様に同じ反応を示した。

驚きのあまり、目をまん丸にしている彼女を置いてけぼりにして、私は話し続けた。

「トイ テン ラ コバヤシ(私の名前は小林です)」
彼女からもらったドリンクを指さして、
「ンゴン ニャット(いちばん美味しい)」
と続けた。

彼女は目を輝かせながら、
「なんでしゃべられるの?なぜ?なぜ?」
と聞いてきたので、私は理由を話した。すると彼女は、
「私がベトナム語をあなたに教えるから、あなたが私に日本語を教えて!」
と言ってきた。

私は、正直面倒なことになったなと思いながら、別な考えが浮かんだ。

そのかわり、ベトナム人男性を紹介してもらえないだろうか!!

ベトナム人男性は、細マッチョで、ちょっと彫りの深い顔をして、笑顔が最高で、何よりレディーファーストが多かった!!

おいおい、待て待て待て。彼女の日本語上達熱に漬け込んで、ベトナム人男性を人質にとろうだなんて、私、ゲスくないか⁉下手したら国際問題に発展するよ⁉

私は、洗濯し終わった服を乾燥機にかけずに袋に入れると、彼女に、
「私は先に終わったので帰ります。」
と告げた。

洗濯機から乾燥機に入れ替えてコインを投入したばかりの彼女は、
「私はまだ20分ある……」
と悲しそうな顔をした。

私は、
「ヘン ガップ ライ(また会いましょう)」
と元気よく言った。彼女は急に明るい表情になり、
「ヘン ガップ ライ」
と返してくれた。

私はその店舗を出て、最初の角を曲がると、全速力で駆け出していた。

走りながら、彼女の屈託のない表情を思い出して、少し胸がチクりと痛んだ。

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