【小説】鏡地蔵
最初は軽いただの興味本位、ヒヤカシだった。
100体の地蔵が、山の斜面に並べられているらしいと聴いたのだ。
「ただの地蔵ではなく、本来顔がある部分に鏡が埋め込まれているらしい」
車で友人とその山に向かい、クネクネ曲がる砂利道をいくらかのぼった先に、見逃してしまいそうな木でできたボロボロの看板があった。
《鏡地蔵 駐車場》
そこに車を停めると、矢印に向かって歩きはじめた。
確かに、確かにそれはあった。地蔵の顔の部分がノッペリとした鏡なのだ。
しかも、長い間放置されていたらしく、黒の斑点があったり、緑の苔が生えていたり、ひび割れがあったりした。
「なんのために、だれがこんなお地蔵さんを置いたんだろうな」
「こういう鏡ってことは、どんなに古くても100年弱だろう? 」
「でも、汚れからすると、数十年は放っておかれている」
「なんで顔がなくて、鏡なんだろうな?」
「なんでも、なりたい自分になれるらしい」
「ふーん、じゃあ、縁起が良い地蔵なんだな?」
友人と話しながら、100体はあるらしいお地蔵さんを順ぐり見ていった。
「ギャー!」
「な、なに!?」
100体近くは見ただろうか。自分のすぐ後ろを着いてきていた友人が突然悲鳴を挙げたのだ。
「お、俺がいる!」
「なにを言ってるんだ?!」
振り返って見ると、友人がある地蔵を指さしている。その地蔵を覗きこんでみると、その地蔵の顔があるはずの部分の鏡に友人の顔が映りこんでいる。
「ハハハ、確かにこの地蔵はお前だ。お前が鏡に映っているからな」
「ち、違う。俺はこっちだ。こっちなんだ!」
「ハハハ、お前、地蔵にでもなった……!
ギャー」
見ると、友人の顔は鏡になっていた。
ゆっくり、ゆっくり顔を動かし、友人の前の地蔵をみる。
地蔵の体からは友人の顔が生えていたのだ。
「ギャー」
一目散でもと来た道を走った。
「待ってくれー! 置いてかないでくれー!」
友人の悲痛な叫び声が後ろから聴こえたが、無視しつづけ、ようやく、駐車場まで戻った。
しかし、良心の呵責に負けて、車のドアを開ける前に後ろを振り返った。
「ギャー!」
なんと、すぐ後ろに、顔が鏡になった友人がいたのだ。
「ご、ごめん!」
車のドアを開けるとすぐに締め、エンジンをかけると砂利道を下った。ハンドルを握る手はブルブル震えていた。
しばらくして舗装された道にでて、一息ついた。
ふと視線を感じてバックミラーを見た。
「ギャー」
鏡に写った自分の顔は、友人だったのだ。
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『♯夏ピリカ応募』参加作品です。
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