「メイド・イン・京都」藤岡陽子

 京都の人ってやんわり皮肉を言うから怖い、とよく言われる。確かに、京都人は本音をズバッと言ったりしない。人当たりいいけど、なに考えたはるか分からへん、という人が多い気がする。また、ねっとりとした京都弁のせいで、婉曲された皮肉や嫌味は余計にいやらしく響く。

 京都人である藤岡陽子さんの書くこの小説には、イヤな京都人がたくさん出てきてとても楽しい。

 主人公の美咲は32歳。婚約して仕事を辞め、東京から京都へ引っ越すところから物語は始まる。東京でつきあっていた彼氏の和範の父親が亡くなり、和範は実家である京都へ戻り、父親の跡を継ぐことになったのだ。和範の実家は、京都で複数の飲食店や土産物屋を営む資産家。新生活が落ち着くまでは義実家で同居。義実家には出戻りの姉とその子供がいる…という、京都人からすれば、ホラー小説のような始まり方。急な引っ越しだったとはいえ、二人で暮らす新居だけは見つけておくべきだったよ、美咲!と、心の中で叫んでしまった。

 義母と義姉が使う京都弁のイヤなこと、イヤなこと。そして、実家に帰り、家業を継ぐとなると、人が変わったように美咲をないがしろにする和範。息苦しさを感じた美咲は、ミシンを取り出し、趣味だった創作活動に打ち込みはじめる。

 ものづくり、という生き方を選んだ美咲が、京都という見知らぬ土地で孤軍奮闘する様子は、とても励まされる。京都の地名が出るたびに、頭の中でGoogle mapを開いて美咲と一緒に歩いた。

 藤岡陽子さんの本は、悩みや苦しみが描かれていても、いつも根底が明るいから、読んでいて必ず前向きでハッピー気分になれる。きっと藤岡陽子さんの人柄なんだろうなと思う。

美咲の作った刺繍Tシャツを着てみたいと思った。

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