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「淳子のてっぺん」 唯川恵

今日は雨も強かったし、仕事も休みだったし、一歩も家から出ませんでした。でも、心だけはエベレストに登っていました。この本のおかげで。

女性で初めてエベレスト登頂を果たした登山家である田部井淳子さんの半生を小説化した本作。山岳小説というジャンルを読むのは始めてです。恋愛小説のイメージが強い唯川恵が山岳小説だなんて、すごく意外でしたが、唯川さんの趣味は山登りだったらしい。本作執筆前には、エベレストを5000メートルまで登ったとか。すごい!

そして、初めてエベレストを登頂した女性が日本人だったというのも知りませんでした。小説のモデルとなった田部井淳子さんは、腹膜がんのため、2016年10月に他界されていますが、亡くなる3か月前には、東北地方の高校生たちを富士登山に連れていくプロジェクトにも参加されていました。まさに生涯現役。

田部井さんが、東京の大学を出て出版社で働きながら山岳会に参加し始めた頃は、山登りは男の世界で、「女なんかに登れるか」とバカにされたそうです。そんな時代に、女性だけの登攀クラブを設立し、まだ海外旅行もハードルが高かった当時、女性だけで海外遠征へ行き、ネパールにあるアンナプルナIII峰(7555m)への登頂を果たします。

この初の海外遠征の描写が、ものすごく面白かった。女性ばかりのパーティでのイザコザ、ゴタゴタには共感しまくり。資金のやりくり、食料や装備の入手、慣れない海外渡航の手続き、現地でのトラブル、そして仲間割れ。山を登る以前の細かい事務作業や準備も、知らないことばかりで新鮮でした。恥ずかしながら「登攀」(とうはん:山または高所によじ登ること)という言葉も、この本で初めて知りました。

同じく登山家である夫、田部井政伸さんの全面協力っぷりもすごかった。まだ“イクメン”なんていう言葉がどこにもなかった時代に、3年かけて登頂準備をする妻を支え、幼い子供と一緒にエベレストへ送り出します。夫の励ましの言葉がいちいち泣ける…。

そして、小説で最後のクライマックスとなるエベレスト登頂のシーンでは、酸素が平地の3分の1しかない最後のアタックのシーンで、読んでいて息苦しくなりました。

読むだけで山登りした気になれる一冊。何かに憑りつかれた人の話は、本当に面白い。

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