「富士山ローソン」問題について、インフルエンサー目線で思うこと
こんにちは、絶景プロデューサーの詩歩(@shiho_zekkei)です。
2024年のゴールデンウィーク中、旅行業界でSNS発信をメインにしている私たちに衝撃のニュースが入りました。
「ローソン河口湖店」が映えスポットとして過剰に人が集まりトラブルが耐えないため、自治体がやむを得ず富士山の目隠しを設置する、というニュースです。
この件はテレビやウェブメディアでもさまざまな報道がされているものの、コメンテーターや専門家の人の発言の中には「正直ずれてるな」と感じるものも多くありました。
そのためこの記事では、実際に世界中の絶景スポットを巡って紹介してきた私が「富士山ローソン問題」およびSNSを起因とするオーバーツーリズム問題について思うこと、考えることを記したいと思います。
あらためて自己紹介をしておきます。
私は大学卒業後、ネット専門の広告代理店に勤務していました。
その後フリーランスとなり、書籍「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」の出版などをはじめ、現在は「絶景の専門家=絶景プロデューサー」として活動しています。
これまで海外は63ヵ国、日本は全都道府県を巡ってきましたが、現在もカメラを片手に国内外を飛び回っている日々。
おもに日本の自治体さんからご依頼を受け、絶景という視点からSNSの発信や地域に眠る観光資源の発掘をお手伝いすることがメインです。
Instagramはこちらです。
前置きが長くなりましたが、メインの話題について書いていきます。
なぜ「このローソン」がバズったのか
「このローソン」がフォトスポットとしてSNSに掲載されはじめたのは、2020年ごろからだと記憶します。
(2020年末の投稿。この投稿が最初ではありません)
旅行やSNS業界で10年以上活動しているので「SNSでバズる/バズらない」は感覚として理解しているつもりですし、そもそも静岡県出身なので富士山は身近な存在でした。
そんな私でもはじめてこの写真を見たときは「こりゃーすごい」と驚きました。
富士山がみえる場所が数多ある中で、「このローソン」がバズった理由。それは「異質さ」です。
富士山という「崇高で圧倒的な自然」が、コンビニという「庶民的な日常風景」と組み合わさっていること。この異質性に人は魅了されているのです。
それに加えて、看板の色が富士山の色と”リンクコーデ”であること、富士山とローソンの間に障害物(電線や他の建物)がないこと、スマートフォンで簡単に撮影できる画角であること、さらに駅からアクセスが良いことなどの付加要素が加わることで、「このローソン」がバズっています。
いろいろな番組や記事を見ると、「富士山がローソンに乗っているように見えるから」「ローソンの配色が富士山と同じだから」と解説している方がいましたが、それは最大の理由ではありません。
その根拠として、SNSではローソン以外に「富士山✗セブンイレブン」そして「富士山✗スターバックス」も写真スポットとして人気になっています。
いずれもアクセスがよくなかったり、障害物があったりすることから、現時点では大きなトラブルは起きていないようです。
観光地と異なる問題
一般的には観光客が来ることは良いことですが、今回の問題はどういう部分にあるのか。
それは「観光地ではない、生活空間に観光客が殺到していること」です。
観光地であればスタッフがいるからトラブルがあれば対応できるし、事故が起こらないよう駐車場も設計されているし、ゴミ箱やお手洗いなどもあります。
しかしコンビニは観光地ではないため、不特定多数の観光客を受け入れる体制が整っていません。
そのため「このローソン」では、道路の横断(通行禁止)、ゴミのポイ捨て、コンビニ駐車場への居座り、近隣建物への立ち入りなどのトラブルが起こっています。
またもう1つの問題は「収益化できない場所」であることです。
これは他の絶景スポットにも言えることですが、風景の写真はいくら撮っても無料だし、駐車場も無料(というか駅から徒歩すぐ)。コンビニで買い物をする金額もたかが知れています。
収益がでない以上、警備員を配置したり看板を設置したりなどの対策を講じると赤字になるため、大きなトラブルやクレームがない限り対策が行われないという問題が起こります。
こういう場所こそ行政や税金の出番だと思いますが、今回は「コンビニ」という超商業的な場所であることから、対応が遅くなってしまったのではないかと思います。(ここは私の想像です)
なぜコンビニが観光地化してしまったのか
これまで旅先といえば、国立公園や温泉街、美術館など、いわゆる「観光地」に限られていました。それが何故、生活空間であるコンビニが観光地として人気になってしまったのでしょうか。
その理由の1つは「旅行先の探し方の変化」です。
下記の調査でも明らかになっていますが、旅先を探す際にSNSを参考にする人は若い世代ほど多い傾向にあります。
これまでは観光情報といえば自治体や旅行会社の発行するパンフレットや、テレビや雑誌、書籍などのマスメディアが発信していました。
それが今では、田舎に住む平凡な主婦が自宅前で撮影してSNSに投稿した写真が、一瞬で地球の裏側まで届き、旅先の候補として受け取る人が出てくる時代になったのです。
いわば「80億 総メディア時代」。
鮮度の高い情報を誰でも・自由に発信できるようになり、その情報を誰でも・無料で入手できるようになったのです。
これにはポジティブな側面も多いですが、今回はネガティブな側面。管理できていた観光情報が統制できなくなってきているということ。
パンフレットやマスメディアの情報は、現地に掲載許可をとった上で紹介している場所がほとんどです。わたしの書籍も掲載先にはすべて許可をとって紹介させていただいてます。
しかしSNSで発信される情報の多くは、人が集まることで懸念されるリスク、危険性が考えられていないまま投稿され、バズってしまう場所が増えているのです。
SNSの発信や閲覧を制限することがほぼ不可能な中で、これは今後、本当に対策を考えるべきことだと思います。
ローソンの対応について思うこと
では解決策は何か、と言うとこれは非常に難しい問題です。
わたしがここで明瞭で効果的な解決策を提案することができるなら、世界中のオーバーツーリズム問題はすでに解決されているはずです。笑
ローソンおよび富士河口湖町は当面の対策として、道路の反対側に富士山が見えないように目隠しを設置することを決定し、5月末までに完成予定であると報道されています。
記事にも「苦肉の策」と書かれている通り、最善の方法ではありません。
しかし正面にある歯科医院に迷惑行為が相次いでいて事業に支障が出ていること、また交通事故未遂が頻発していることから、地域の人のビジネスや安全を守り、また観光客を保護するためにも致し方ないと思います。
私はこの対策には、ひとまず拍手を送りたいです。
しかしこの対策はあくまでも対症療法であって、根本的な解決ではありません。町もローソンもそれは十分わかった上での緊急的な対応だと思います。
今後の対策に、私も注目していきたいと思います。
似た問題は他のスポットでも起きている
このような問題は、「このローソン」だけで起こっているわけではありません。
一例をあげると、こちらも2020年ごろから話題になっている、静岡県富士市にある「夢の大橋」。
通行量も多い車道ですが、この「中央分離帯」がフォトスポットとして流行っています。
中央分離帯はそもそも人が立ち入る場所ではないのですが、物理的には入ることができるため撮影する人があとを絶ちません。私が行ったときにはウェディングフォトを撮っている人までいました。
もちろん中央分離帯へ行くための道は存在しないため、みんな通行量の多い道路を横断していきます。これが本当に危ない。
こちらは実際に私が車(助手席)からみた光景です。
報道を見るかぎり警察官の配置(私が行ったときはいなかった)や中央分離帯への立入禁止の看板が設置されているようですが、”自分さえ良ければいい”という人には、残念ながら、注意の声は聞こえないし、看板の文字は見えません。
これは国籍問わずで、外国人観光客に限らず日本人でも同じです。
わたしも旅先で明らかなマナー違反(柵を超えて花畑を傷つけている人、等)をする人がいたら挨拶と声掛けをするようにしていますが、約半分が日本人です。
一般常識やルールが根底から異なる海外からのインバウンド旅行客が増えたのもトラブルの要因のひとつではありますが、マナーを守れないのは外国人観光客だけではないことも知ってもらいたいです。
写真を撮っていなかったとしても、バズっていなかったとしても、1人の日本人が立ち入るのを見ていたことで、「あ、あそこは入っていい場所なんだな」と間違った認識を与えてしまっている可能性もあります。
インバウンドや外国人観光客を非難するばかりではなく、私たち日本人も日頃の行動から見直していきたいです。
また「夢の大橋」では、中央分離帯以外の場所でこんな写真を撮ることもできます。
富士山へ続く階段で、このスポットのほうが中央分離帯よりも知名度はあると思います。わたしもここでの撮影を目的に訪問していました。
私が訪れたのは早朝8時過ぎで、橋のふもとにある公共駐車場に車を停め、30分ほど滞在していましたが、早朝にも関わらず20名ほど人が訪れていました。
前述の中央分離帯はそもそも立入禁止エリアなので100%NGです。
しかし私はこの階段については、下記記事で富士市の方が話されているように、マナーさえ守れていれば撮影しても良い場所だと思います。
この階段および道路は通勤通学するや散歩コースにしている人も多いので、普段から自転車や徒歩の通行量があります。
最低限のマナーとしてその人たちの邪魔をしないこと、そして勝手に被写体として撮影しないこと。また周辺は住宅街になっているので、騒がない、ゴミを捨てないなど……これはもはや、この場所に限らず公共の場所で守るべき一般のマナーですね。
私は友人に撮影してもらいましたが、車は駐車場に停め、通行人が来たら「すいません〜撮らせてもらってます、お先にどうぞ」と撮影を一時中断して、通り過ぎてから再開しました。
私がいた時間帯は、話しかけてみるとほとんどアジアからの海外の方(日本在住の方も多かった)でしたが、皆さんマナーを守って静かに撮影していました。
しかし駐車場が4台ほどしか停めるスペースがないのは、まだ課題です。市が緊急的につくった駐車場だと思うので現在の駐車場にこれ以上は求めないですが、さらなる駐車スペースの確保は必要だと思います。
夢の大橋は新幹線・新富士駅からタクシーで8分くらいの場所なので、公共交通機関でのアクセスを市から公式で推奨しても良いのではと思いました。
犯人探しをしてはいけない
ひとつ気をつけるべきは、これらの件について犯人探しをしないことです。
今回の件を「◯◯さんがインスタに載せたせいで」と非難している人がいますが、それは正解ではありません。
なぜなら、トラブルの一番の根源はインスタでバズったことではなく、観光客がマナー違反をしたことだからです。全員が基本的なマナーを守れていたとしたら、人が集まったとしても目隠しをするまでのトラブルにはならなかったでしょう。
マナーを守る・守らないは、インスタのせいではなく人間一人ひとりの問題です。もちろんSNSがなければ起こらなかった問題ですが、たった1人の投稿のせいと考えるのは視野が狭すぎるでしょう。
考えられる対応策
先に書いた通りですが、ここで解決策をズバッとご提案するのは難しいのですが、私がいろんな現場を見てきた中で、日頃から考えていることを記しておきたいと思います。
まず、自治体のほうでできること。
いろんな地域とお仕事をしていて強く感じるのは、SNSのスピード感についてこれている自治体が少ないということです。
たとえば、わたしから見ると「このスポットは写真スポットとして4〜5年くらい人気だし、けっこう観光客もいるな」というスポットを、観光の担当課の人が誰ひとりとして把握していなかった、ということが普通にあります。というか把握していないことのほうが多いです。
かといって、行政の方が自身ですべて把握するのが難しいことも理解できます。皆さんが想像する以上に観光課の職員さんたちは多忙で、SNSをなんとなくパトロールする時間なんてないでしょう。(私のように…)
しかし今後、SNSで新しいスポットが発掘されて観光地化する可能性はどこにでも眠っていますし、増えていく一方だと思います。インターネットが存在し表現の自由がある限り、それを制限することは難しいです。
考えうる対策としては、そのような「受け入れ体制が整っていないけどバズりそうな場所」をいち早く察知して、大きなトラブルが起きる前に対策できる体制を整えることです。
例えば、SNSや写真スポットへの感度が高い外部アドバイザーを設けたり、特設窓口を設けて住民の声が集まりやすくするなどするのはどうでしょうか。
私がいまお仕事している自治体さんは、オーバーツーリズムの逆で「人をもっと呼ぶにはどうしたらいいか」というところばかりですが、私も昨今のSNSを起因とするオーバーツーリズム問題には何かできないかと思っているので、もっと見聞を広めたいと思っています。
そして最後に私たち旅行者や、発信するインフルエンサー側ができること。
今回書いたスポットに限らず、最近の旅行スタイルおよびSNSの発信は「愛」と「リスペクト」が足りていないと強く感じています。
観光とは本来、その地域のためにあるものです。
地元住民の方が毎日暮らし、長年景観を保全し、その人たちの税金や資金で管理されている場所に、旅行客が「お邪魔している」状況。
それを分からずに「自分がバズるために写真を撮りたい」や「発信してやっている」という自分よがりで上から目線の旅行者が多くなっていると思います。
それはインフルエンサー活動で公に発信している人だけではなく、ただ主婦友に自慢したい、一度でいいからバズってみたい、というような人も少なからず含まれているように思いますが、どうでしょうか。
旅行やSNS投稿の目的は人それぞれですが、「愛」や「リスペクト」があれば、その場所にゴミを捨てたりしないでしょう。
トラブルが起これば、今後また「このローソン」と同じような場所が増えるかもしれません。それまで自由に撮影できていた場所も、撮影禁止になってしまうかもしれません。
わたし自身その地域にリスペクトを持って旅してほしいと思い、活動をはじめた当初から一般的な「映え」だけではなく、裏側にある「ストーリー」も込めてInstagramでは発信してきました。
しかし私もまだまだ足りていないと思います。
自分ひとりにできることはわずかですが、当たり前のこととして自分自身がマナーを守るのはもちろんのこと、もっともっと愛やリスペクトをもって旅行してくれる旅人が増えるように、できることを考えて行動していきたいと思います。
もっと書きたいことがありましたが(笑)、このままだと永遠に公開できずお蔵入りしてしまいそうなので、一旦ここで筆を置きたいと思います。
読みづらい稚拙な文章になってしまいましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最後に、観光地として受け入れ体制が整っている私のお気に入りの富士山ビュースポットを載せておきます。
おいでよ、富士山👋
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