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『往復書簡』(仮)20復信

Sさんへ

こんにちは。
Sさんの手紙を読んでいるうちに、僕は自分に囚われすぎているのかも知れないと思った。でも、僕はあえて自分にこだわって生きて行きたいと強烈に感じている。それは、独善的にすぎるのだろうが、それでも、そうせずにはいられないんだ。 そうでなければ、僕は僕ではなくなってしまうという不安が入り込んでくる。ただ君にもわかっているように、この地球が、この世界が、僕たちの師であるということをあらためて確認できた気がする。
岩絵具の話はとても興味深いね。既成のものではなく、オーダーメイドというのは、それを支える職人の存在についても考えさせられる。あらゆる分野で、そういった表には出てこないけれど、絶対に必要な仕事に従事する人生というのも、実に意味のある生き方だと思う。とても僕には務まりそうにないとは、なんとなく感じるけれど。
僕がわかりたいと思っていることを全て知ったとしても、きっとその先に新たな疑問が現れてくるに違いないのだということもわかっているつもりだ。 Sさんの生き方と僕の生き様は、その前提が違うのだと思う。
Sさんはまず、自分の目に写るありのままを受け入れるところから始めるのだと思う。僕は自分が認識できたものを自分の中で再構築して、自分の中に宇宙全体を取り込もうとしているような気がする。Sさんの目が人間の肉眼だとすれば、僕の目は時に顕微鏡であり、時に望遠鏡でもある。
またSさんによくわからないといわれてしまいそうだ。今日はこれくらいにしておく。もう少し考えたいとも思うし。
しばらく手紙の返事を書くことができないかもしれないけれど、心配しないで欲しい。


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