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『往復書簡』(仮)25往信

Tさんへ

こんにちは。
満月の話、とてもロマンティックに感じました。
月が満ちて、そして欠けていくのが、一日ごとの変化じゃなくて瞬間ごとに、気づかないくらい少しずつ変化しているんですよね。不思議だなぁって。
時間は刻一刻と過ぎていて、全てが変化しているんだって、あらためて考えたら、今、この一瞬がとても大切に思えるようになりました。

学芸員のことは私も調べて知っていたけれど、他の可能性についても考えています。まだ時間はあると思うし。
絵の世界でも商業ベースっていうのは存在していると思うのですが、私は正直、考えたくないし、絵の存在する意味とは本当は全然関係ないって感じてしまって。

私の好きな画家にKさんという人がいるのですが、その人の小さな美術館に年に1〜2度行っています。たいてい貸し切りって感じだし。
とても静かな中で、ごく近くで鑑賞できるし、本当に素晴らしい絵なんです。
洋画も学んだ日本画家の人で、本当に上手だし、色の使い方も他の日本画家の人によくある通り一辺な印象もなくて。
龍の絵があるんだけど、本当に生きているみたいで、生温かい鼻息がかかってきそうなくらい。龍は空想上の生物だから、龍の絵ってどこかマンガっぽいものがほとんどだと思うけれど、Kさんの龍は実在しているものを見てきたんじゃないかって思ってしまうほどリアルです。何度観ても感動してしまうんです。
Tさんにも一度、観て欲しいくらいです。

急に話が変わりますけど。
前の手紙で書いた新入部員の同級生の子と、展覧会に一緒に行って。
話してみたら、ものすごく絵にくわしくて、ずーっと話が終らないの。
人は見かけによらないって、もう一回、驚かされました。
将来についても話をしたんだけれど、イラストレーターになりたいって。
進路的にはデザイン系を考えているって言ってた。
才能のある人はうらやましいなぁ。
私には何ができるんだろうって、ちょっとヘコみました。

ではまた。

Sより


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