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『往復書簡』(仮)23往信

Tさんへ

こんにちは。
大変だったんですね。大丈夫ですか?
心配するなという方が無理です。とはいえ、私には何もできないけれど。
元気を出して下さいね。 

私は学校生活を少し楽しめるようになりました。
うちの学校は高校でも生徒が入学してくるので、新しく入ってきた人たちが、私の感じていた閉塞感を壊してくれたようです。
みんな成績のいい人ばかりで、またスマホが遠のきました。

でも、いざケータイを持ってみて、みんなが言うほど、私は大事に思えません。
私は何をしている時に、一番幸せなのかなって考えたら、やっぱり絵を観ている時なんです。
絵描きになりたいとは、というよりなれるとはこれっぽっちも思っていません。
けれど、なんらかの形で絵に関わる仕事につけたらいいなと、ぼんやりだけど考えるようになりました。どんな関わり方があるのか、職業としてどんな仕事があるのか、少しずつ調べたりしています。

できれば、画家の人とも直接関わる機会があるようなものがいいなとは思っています。どんな人たちが描いているのか興味があって。
以前はそんなこと、全然気にしていなかったんだけど、表現をする人と表現されたものって、不思議な関係だなと思うようになったの。

新しく入学して美術部に入ってきた人がいるんだけど、独特な絵を描く人で、あまり人と話したりしないの。
この人がこんな絵を描くんだって純粋に驚いて。

Tさんは将来なにになりたいとかありますか? 
あ、ごめんなさい。大変な時に。
では、また。

Sより


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