『往復書簡』(仮)38復信

Sさんへ

こんにちは。
絵をありがとう。抽象画なんだね。いろいろな緑があるとあらためて思った。中でも一番鮮やかなほとんどレモンイエローに近い黄緑を見ていたら穏やかな気持ちになった。机のところに飾っておくことにしました。
僕の家の中では、微妙なバランスが保たれています。僕は綱渡りするように過ごしています。部屋に戻って鍵をかけている間だけ、やっと息がつける。家族もそうなんじゃないかな。幸せな4人家族と僕。不思議な共同生活だ。
今、僕は出家を考えている。漠然とだけど。この話はしたことがあったかどうか失念したけれど、僕は明恵上人に憧れているんだ。彼のように生きられたらとずっと思っていた。でも、僕はあそこまでの激しさを持ち合わせていないこともわかっている。
誰かのように生きるのではなく、僕自身を生きなければ意味がないことも。 同時に自分は目だけの人間で人生の傍観者に過ぎないという焦燥に駆り立てられているように感じる。明恵上人はブッダを熱烈に求めた。確信があったのだと思う。僕はそれに対し憧れ、嫉妬すら覚える。そして、疑念が湧いてくるんだ。
僕の中でマグマと氷河がせめぎ合っている。僕はこのままずっと、ゼロ地点に立ち続けることになるのだろうか。


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