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会計士が監査役になるメリットと注意点についてまとめてみた

この記事は、公認会計士 Advent Calendar 2023の12日目です。
前日は、中辻@スタートアップ会計士さんによるファイナンスにおける『信頼関係』構築の重要性に関するお話でした。中辻さんのお話は大変勉強になりますよね。noteもXも要チェックですよね!

はじめに

さて、自分は、以前は、監査法人勤務会計士として、14年弱働いていたのですが、今現在は、一般事業会社に勤める普通のサラリーマン会計士です。
1年ほど前に税理士登録もしていて、税理士仲間と飲みに行くこともありますし、会計士仲間と飲みに行くこともありますし、もちろん今勤務している事業会社の仲間と飲みに行くこともあります。
そこで、気付いたことがあります。
監査法人を退職した会計士仲間と飲みに行くと、監査役に就任されている方が多く、これは他の母集団と比較して圧倒的に多いのですよね(注.サラリーマン会計士調べ)。
これは監査法人を退職した会計士界隈の特徴なのではないか、とも思いました。
自分のような、普通のサラリーマン会計士でも、監査法人退職後、事業会社の子会社や出資先の監査役に就任しており、現在3期目になってます。
ということで、このアドベントカレンダーを読んでいる方は、監査法人にお勤めで会計士の方が多いと思いましたので、「多分、あなたも監査役に就任するときがきますよ。」という予言も込めて、会計士が監査役になるメリットと注意点について、ここ最近2年くらい考えていたことをまとめてみました。

メリット

監査役就任の最大のメリットは、監査法人でのスキル・経験が100%生かせると感じるところでしょうか。
すなわちキャリアの断絶がなく、これまでの監査業務で培った専門性を存分に発揮することが可能です。
では、具体的にどのような点がメリットになるのでしょうか。
一つ一つ説明いたします。

メリット①:計画→実施→意見形成のプロセスは同じ

会計監査には、監査計画→監査手続の実施→監査意見形成(監査報告書の提出)の3段階のプロセスがありますよね。
この3段階のプロセスは、監査役監査でも同じです。
この3Stepが身に染み付いているというのは、監査役監査を実施する上でも、強みになるのではないかと考えます。
参考書籍(興味ある方向け):監査役・監査等委員・監査委員ハンドブック

メリット②:リスクアプローチの考え方も同じ

どの上場企業でも構いませんが、公表されている監査役会や監査等委員会の監査報告書をご覧ください。3~4名で監査報告されていると思います。
もちろん監査役の補助者がいることもありますが、監査役監査においては、監査法人による監査よりも、リソースが限られていることが多いです。
勘所を働かせて、限られたリソースを最大限活用するリスクアプローチの考え方は監査役監査でも有効ですし、それを可能にするのは、監査法人時代に鍛えたリスク評価の力であると考えます。

メリット③:聴く力&質問力が大切

どこかの国の政治の話ではありません。
監査法人にお勤めの方は、自分よりはるかに年齢も経験も豊富な経営者、CFO、経理部長、〇〇部長等に遠慮なくヒアリングし、様々な質問をされた経験があるのではないでしょうか。
監査役も同じです。
ときに論点ズレであろうが、恥ずかしい思いをしようが、物怖じせずに、聴く力&質問力を発揮する場面が監査役にもあります。
このようなメンタリティを既に持っているというのは、強みでありますし、監査役はこのようなメンタリティを持っていなければならないと考えます。

メリット④:監査法人や内部監査人と連携する力が求められる

監査法人にお勤めの方は、監査役や内部監査人とのやり取りは、日常的に実施されていると思います。
監査役も、監査法人や内部監査人と連携して監査を進めたいと考えています。
監査法人での経験が、監査役の立場に変わったとしても、コミュニケーションやディスカッションの場面等でも活かすことができ、監査を円滑に進めることができますし、そのような役割を担える方は事業会社サイドから見ても重宝されると思います。

メリット⑤:監査調書の作成能力

監査計画、監査手続を経て、監査意見形成に至るプロセスは、監査役も監査調書に残す必要があります。
参考:日本監査役協会 監査業務支援ツール
これにより、監査役は自己の役割、責任を果たしたことの証明にもなります。監査調書を作成するというスキルは、監査法人にいらっしゃる方は皆、当たり前のようにお持ちだと思いますが、これは大きなメリットであると考えます。

注意点

メリットばかりだけではなく、何点か注意点はあるかと思いますので、記載します。

注意点①:役員として責任を負う覚悟が必要

監査役は、会社の役員としてガバナンスの中心的役割を果たす、期待されるという点で、業務委託契約、コンサル契約、顧問契約とは、本質的に性質が違います。
責任・役割を果たせなかった場合には、役員としての責任を負います。
参考書籍:Q&A 善管注意義務に関する実務
監査役に就任する会社や経営者が信用ができることは大前提で、その上で、何かあったときには役員としての責任を負う覚悟がなければ、安易に監査役を引き受けるべきではないでしょう。

注意点②:簡単には退任できない

任期を通じて職務を全うできないのであれば、安易に監査役を引き受けるべきではないでしょう。
自分自身が退任するということは、他の信頼のおける方を株主総会で選任いただかなければならないからです。
任期を全うできない状態というのは、体調が万全ではない場合や、ご自身のスケジュールが読めず、毎月の取締役会に出席ができないような状態も含みます。

注意点③:内部統制システムの理解

監査役が評価しなければならない内部統制システムは、財務報告に係るものには限られません。上場企業であれば、内部統制システムについて、事業報告に記載がされ、その相当性について、監査報告書に監査の結果として記載されます。
参考書籍:コンプライアンス・内部統制ハンドブック

注意点④:取締役会でのパフォーマンス発揮

監査役は、取締役会に出席しますが、議決権はありません。
では、何のために存在するのでしょうか。

自分なりの答えは、以下です。
監査役の役割というのは、取締役会での議論にしっかり参加する、ということだと思っています。
そして、その議論の過程は、多少時間がかかっても、建設的な議論を尽くして決定するという、民主主義の本質でもあるとも考えます。

監査役が他の役員と対等に議論するためには、普段から、会社の事業や取締役会に上程されるアジェンダについて、深い考察ができていなければ、対応はできないと思われます。
これは結構大変なことです。

最後に

注意点をいろいろと書いてしまいましたが、監査法人に勤められていて、主査等を経験された方のセカンドキャリアとしては、メリットに記載したとおり、監査役としての仕事は監査法人での仕事と親和性がとても高いといえます。
よって、きっと、活躍できると思います。

将来監査役になるかもしれない監査法人にお勤めの会計士の方が、今から準備できることには、どんなことがあるでしょうか。
ありきたりですが、会計監査、内部統制監査について、真面目に向き合うのがよいと思います。
そして、監査をしながら、何故事業会社ではこうなっているのか、事業会社でこれをやらないと何がおきてしまうのか、という本質を考えてみることです。
監査基準報告書の要求事項ばかりに気を取られてしまうと、応用がきかなくなってしまうのではないか、と少しばかり危惧しております。

監査役は、言うまでもなくガバナンスの中心的な役割を果たします。
自分が正しいと思った信念に従って仕事をし、その結果として会社のガバナンスの向上に貢献できたのなら、それはとても素晴らしい仕事と言えるのではないでしょうか。

以上が「会計士が監査役になるメリットと注意点についてまとめてみた」記事でした。

明日は、白井敬祐 / 公認会計士くろいさんによる"Where are you from?"から学ぶ無意識の差別〜サステイナブルな社会を目指す〜 という記事ですね。
これは、タイトルからして、読むしかないですよね!

それでは、また、いつか!
最近急に寒いので、体調にはくれぐれもお気をつけください!



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