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neutral005 アイドル


 日本在住の外国人男性は日本特有のアイドルに対して疑問を呈し、有り体に言ってしまえばその存在自体が認められないという感想を述べる。ドルオタ(アイドルオタク)はヨーロッパにもアメリカにも増え続けてはいるが、まだまだ特別な存在なのだろう。
 アイドル=モラトリアムの象徴は、ニュートラルと共にあり、ニュートラルのある社会とニュートラルを無かったことにしてきた歴史を持つ社会の分水嶺の踏み絵というと大袈裟だが目印になっているに違いない。
 芸能人としては見習いの域を出ないアイドルのパフォーマンスを有料で見ること自体が欧米人には許せないらしいのだ。高度な芸で成り立つエンターテイメント界の根底を覆すことになるからだ。日本は恥の国ではなかったのか、と。
 ドルオタであるからと言って、優れた一般のエンターテイメントを否定はしない、共存している。例えば大相撲のタニマチは幕内の強い力士を一人選んで贔屓にする。と同時に三段目辺りの若手有望力士や気に入った付き人も一人か数人を可愛がるのである。ドルオタも実力派の歌手を排除するどころか、アイドルと同時に聴いている輩がほとんどだろう。実力(体力や技)がモノをいうプロレスファンとドルオタの兼任が案外多いのも頷けるのである。
 ともかくドルオタはタニマチとは違って当然アイドルに比重をかけている。利他行であると言われることもしばしば、アイドルの卒業後の人生を見れば大願成就せず芸能界から去ってゆくアイドルがほとんどだ。それを承知で応援する、だからこそ利他行と言われているのである。将来の収穫、実りを当てにしていないところがモラトリアム=ニュートラルをそのまま享受する姿、ドルオタの鏡なのである。ニュートラルを味わい、ニュートラルに浸かり、ニュートラルそのままをアイドルとして応援するのだ。
 推しメン(推しているメンバー、押しメンとも)を推しているのか、ニュートラルを推しているのか、見分けがつかなくても良い。日本人は両義的なのであるから。実は私の推しメン(二代目)も四月をもって卒業する。24歳、既に大人であり、モラトリアムの名残りのうちに、つまりもっと早く卒業して欲しいと思っていた。ドルオタ歴(9年)も卒業する予定であるが、ライト層(金銭をあまり使わない軽いファン)としては何となく残っていそうだ。何となく。
 ドルオタの基本は川端康成の「伊豆の踊り子」の問題を抱えた一高生であろう。見習いの踊り子に惹かれたのはモラトリアムという渦中で不安定でありながらも健気に生きている姿。東日本大地震の被災地では実力派の歌手の慰問を押し退けて圧倒的に人気をハクしたのはAKB48だった。被災者という先の見えないモラトリアムの状況では、地位のある安定した実力派は遠い蜃気楼のような存在でしかないのだろう。却って観るのは辛いのかも知れない。健気なアイドルにはモラトリアムという共通点、共通基盤があり寄り添ってくれる。
 ドルオタとは利他行でアイドルを応援し、僅かの差異にも反応し、推しメンからエネルギーを過剰に増幅して貰っている。この循環を外国人男性は理解できないらしい。
 またアイドルの芸は歌でも踊りでも、演技でも喋りでも半人前であると言われ、思われているが、16人(以上)で行われるステージでのパフォーマンスは次々に要素の入れ替わる日本人「多様体」を表現しており、実力派にはない真に迫ったものが伝わってくるのだ。恐らく実力派が16人も集まってしまったら、内部闘争になってしまい統率が取れないだろう。半人前という自覚は一糸乱れぬ統率にこそ期待されるものがあると信じてパフォーマンスに徹する、その姿は思っている以上に素晴らしく見えたりする。実力プラスアルファーという化け方、半人前のアイドルだからこそ貴重なステージが見せられるのだ。
 昨今はドルオタの年齢層が上り50代が中心ではないかと思われている。リッチな独身者が推しに注ぎ込む金額は半端ではなく、グループのメンバーのステータス(ランキング16位までがメディアの表舞台に出れる選抜メンバー)を一人で上下させてしまう太オタ(太客)の弊害が問題視されている(同じCDを千枚買って積み上げる中年医師のツイッター、Xを観たことがある)。若いオタクは金銭も乏しいので面白くなくいつの間にか離れていったのではないかと思う。タニマチの様な年齢層でリッチな中高年が主力になってしまう恐れも指摘され、メンバー自身は絶対に言わないのであるが、イケメンの若年層に応援してもらいたいらしい……。
 中高年層のモラトリアムも悪くはないだろう、日本はニュートラルの国なのだから。ライブの動員数ではまだ年齢のバランスは取れている。若年層が主力だ。
 海外からの渡航者がアイドルを理解し、抵抗なく受け入れられる様になったら本物の日本人に近づいたと言えるのだろう。日本人に本気でなりたいそこの人。踏み絵ですよ。(続く)
 2024/03/24

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