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DXで介護予防を変革〜『Wonder未来図』〜

人材・財政面の問題から、近い将来に迎えることが危惧される介護崩壊。
その危機を回避するためのキーワードが「介護予防」と「DX」です。
今回は、この両者を軸に据えた介護予防事業『Wonder未来図』について金子茂稔代表に聞きました。

宮崎における介護予防の現状

ー『未来図Labo』のリハビリ特化型デイサービスに加えて、新たなサービスにも力を入れ始めているそうですね。

金子社長(以下、金子):はい。『Wonder未来図』という介護予防に関するサービスです。『未来図Labo』は、介護や支援が必要な方が運動を通じて元気になってもらうことを目的にしているのですが、新たに立ち上げた『Wonder未来図』は、健康な人がこの先も介護や支援を受ける状態にならないこと、いわゆる介護予防を目的にしています。

 国は、高齢化が進むに連れて膨れ上がる介護保険費を抑制する意味も含めて、​​2006年4月に介護保険法を改定し、高齢者が要介護状態になることを防ぐために介護予防の項目を追加しました。以来、全国的にさまざまな介護予防の取り組みが行われています。その取り組みを宮崎県でも加速させたいという思いで始めたのが『Wonder未来図』です。

ー介護が必要になって利用する『未来図Labo』に対して、そうなる前に利用するのが『Wonder未来図』というわけですね。
宮崎県での介護予防は、うまく進んでいるのでしょうか?

金子:高齢者の自立支援や重度化防止などの取り組み、いわゆる介護予防を県や市町村が推進するための国の交付金があるのですが、宮崎県の交付額は921万5千円と最下位(隣県の鹿児島県は8,544万9千円で全国第2位)でした。交付額はさまざまな評価項目に基づいて決定されるのですが、その中に『データ活用による地域課題の把握』という項目があり、その評価順位は全国で46位でした。
 僕たちは、その項目に注目したんです。というのも、多くの自治体で住民のヘルスケアデータは取得されているものの、そのデータが活かされていないことを実感していたためです。

ーせっかくのデータが生かされていないのはなぜなのでしょう?
 
金子:自治体は不特定多数の住民にアンケートを配付して、その結果を介護計画に反映しているのですが、アンケートを返せるのは元気な人が大半。従って本当に介護や介護予防を必要としている人の声が反映されていないという面もあります。また、自治体のDX化はまだまだ進んでおらず、様々なヘルスケアデータを紙ベースでとっていることも大きな要因です。紙データをデータベース化するには大変な労力が必要ですから。

 今後、宮崎県が介護予防を進めていくためにはDXが不可欠です。かねてからDXに力を入れている当社なら、宮崎県の介護予防推進に寄与できるのではないかと考えています。

早くからDX化を進めてきた同社。もちろん会議にも紙の資料は存在しない

自社開発のアプリで根拠に基づいた介護予防へ

金子:介護業界はいまだに紙、印鑑、FAXが主流のアナログな世界で、マンパワーで回っているといっても過言ではありません。人材が不足すると共に高齢化していく流れの中で、今後も同じようなことができるのかというと難しいでしょう。そこで当社では5年後、10年後を見据えて以前から積極的にICTを取り入れてきました。
 例えば、5メートル歩行するのを撮影するだけで、歩行状況を数値にして見える化する歩行分析アプリや、エビデンスに基づいてその人に適した運動メニューを簡単に処方できるアプリなどです。

ーすでにデイサービス店舗では、介護予防分野のDXに取り組まれているわけですね。

金子:はい。ただ、今後の超高齢人口減少社会を考えると、より元気に自分らしく年齢を重ねる人たちをどんどん増やしていく必要があります。様々な自治体の介護予防事業を請け負っている弊社としては、自治体規模で的確な介護予防事業を行っていくためのDX化が必要だと思っています。具体的には、自治体規模でのヘルスケアデータのデータベース構築です。
 そこで『Wonder未来図』では、対話形式の質問に答えていくだけで自動的に帳票が作成されて、同時にデータベース化されていくアプリ『cha-chat-to』を開発したのです。

ー『cha-chat-to』はどのように利用されるのですか?

金子:運動教室などの参加者のヘルスケアデータ、つまり体力測定結果などを入力して使っています。体力測定の結果が、そのリスクに応じて色分けして表示される上、入力したデータが即座に帳票化されるので、参加者へ結果を説明することも簡単で効果的になりました。

 さらに、個人のデータだけでなく地区別の参加者の体力測定結果を一覧表示することも可能です。
 例えば、「A地区は参加人数は多いけど、その半数以上は体力低下傾向(赤や青の表示)の人だな」、「逆にB地区は、参加者数こそ少ないけど、参加者は皆、体力年齢が若い方ばかりだな」というような傾向を可視化することができます。本来こういった2地区には、実態に即した行政支援が必要だと考えていますが、実際は画一的な支援が展開されていることがほとんどです。

「cha-chat-to」の画面。利用者に簡単な質問に答えてもらうだけでデータベースが構築されていく

 今後、『cha-chat-to』によるデータ活用を進めれば、どういった人や地区に、どのように関わればよいのかが明確になり、的確なプロジェクトを行えるようになります。そうなれば、サービスを受ける住民にとってはもちろん、行政にとっても無駄な取り組みや予算を省けるなど、皆にとってプラスになるのです。

ー実際に活用されている自治体はあるのでしょうか?

金子:三股町での一般介護予防で、試行的に導入し始めています。実際に介護予防サービスの場に足を運んだ人のヘルスケアデータなので、紙面上のアンケートからは拾えないような貴重な内容が読み取れることが大きな手ごたえとなっています。

ー宮崎におけるこれからの介護予防に『cha-chat-to』そして『Wonder未来図』が果たす役割は大きそうですね。

金子:国は介護予防事業の成功事例を水平展開しようとしているのですが、地域によって人口規模も予算も違いがある中で、我が自治体にはフィットしないことも当然あります。ですので、この10年で介護予防事業に目が向くようになってきてはいるものの、実情に即した有効なプロジェクトが進んでいないのが現状なのです。私たちは、そこを一緒になって変えていく力になれると思っています。

 すでに、これまでに蓄積したデータを活用することで、集まること自体が目的になりがちだった『通いの場』が介護予防として意義のある場に変わったという効果も出ています。今後はさらに歩を進めて、どのようなプロジェクトが必要なのかを自治体に提案し、その地域ならではの介護予防の仕組みづくりを行っていこうと考えています。

参加者の実態に即した内容を行うことができるようになった「通いの場」


現在、『Wonder未来図』では、宮崎市・日向市・新富町・綾町・三股町と契約を結び事業を展開中。
県民の健康寿命の延伸、そして宮崎県の持続可能性向上のためにさらなる事業の伸展を計画しています。


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