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その文章、なぜダメか教えます。【プロローグ】

「ううう、書けない・・・」


そう言いながら僕は机に突っ伏した。


その横で、ディレクターの伊藤さんが間髪入れずにツッコんでくる。

「いや、早く書いてください!
担当編集の中村さん、さすがに怒ってらっしゃいますよ!」


「そりゃ、そうだよなあ。
中村さんとお会いしてからもう1年くらい経つものなあ・・・」


そう言いながら、ゆっくりと顔を上げた僕の名前は松尾 茂起。

京都に本社がある会社『ウェブライダー』の代表を務めている。


僕の仕事は、お客さま企業のウェブサイトの集客を支援するコンテンツをつくったり、コンサルティングをしたり、音楽をつくったりすること。
やっていることは多岐にわたるが、基本的に自分が好きなことをさせてもらっている。

そんな僕に、今まさにお灸を据えてくれた女性が伊藤さん。
うちの会社の敏腕ディレクターだ。


●伊藤

「そうですよ!
中村さんも、まさかこんなに原稿を待たされるなんて思っていなかったはずです!
見てください。
中村さんからのメールの中の“!”の数がどんどん減ってきているじゃないですか!
これ、明らかにテンション下がってますよ!」

伊藤さんはそう言いながら、自分のPCの画面を僕に見せた。
その画面に映っていたのは、ダイヤモンド社の中村さんから届いた過去のメールたちだった。


▼中村さんからの半年前のメール

松尾さん、ぜひ一緒に頑張りましょう!!
お困りのことがあれば、何なりと仰ってください!!


▼中村さんからの3ヶ月前のメール

松尾さん、原稿の進捗はいかがでしょうか!?
もしお力になれそうなことがあれば、遠慮無く仰ってください!


▼中村さんからの最近のメール

松尾さん、原稿のご進捗はいかがでしょうか。
また状況お聞かせいただければと思います。


●松尾

「ほんとだ・・・。
中村さんのメールから、情熱の灯が消えかかっている気がする・・・」

●伊藤
「そうですよ!
中村さんを困らせるなんて、私が怒りますよ!
松尾さんを信じて、誰よりも書籍執筆を楽しみに待ってくださっているひとりなんですから!

思い出してください!
中村さんと初めて会った日のことを!」





思えば、1年ほど前にさかのぼる。
そのメールは突然届いた。

2018年10月、ウェブライダー社内にて。

●伊藤
「松尾さーん、メール確認しました?
ダイヤモンド社の中村さんという方から、松尾さんと会いたいってメールが届いていますよ。
松尾さんの本『沈黙のWebライティング』を読んで、感動したって書いてあります」

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●松尾
「えっ、あのダイヤモンド社さん?
数々の名著を世に送り出しているダイヤモンド社さん?」

●伊藤
「そうですよ」

●松尾
「な、なんと!
ダイヤモンド社の編集者さんが僕の本を読んでくださったのか。
しかも、そんなにうれしい評価をいただけるなんて、光栄すぎる・・・」





そうして、僕はダイヤモンド社の編集者である中村さんと会うことになった。
ウェブライダーの東京オフィスに現れた中村さんは、まるで少年のようなキラキラしていた目をしていて、僕の本を読んだ感想について熱く語ってくれた。


●中村さん

「いや~、それにしても『沈黙のWebライティング』の斬新なアプローチにはビックリしました。
632ページもあるのに、一気に読んじゃいました。

王道に振り切ったストーリーや、全編を覆うハードボイルド感がとてもいい。

ノウハウの言語化も独自性があって、僕はあの本を読んで、松尾さんならではの文章術の本を出せないかと考えたんです」


●松尾

「僕なりの文章術の本・・・!」


▼説明しよう!

松尾の書籍『沈黙のWebライティング』は、Webで文章を書く人向けに、伝わりやすい文章の書き方についてまとめた一冊である。

須原にある温泉旅館「みやび屋」。
そのみやび屋を切り盛りしていたのは、前経営者である両親を不慮の事故で亡くした若き姉弟だった。
みやび屋を立て直すべく、奮闘する二人だったが、みやび屋の集客は振るわず、やがて経営の危機を迎える。
そんなみやび屋に、ある日、ひとりの男が来訪した。
その男の名は「ボーン・片桐」。
男は自らを「世界最強のWebマーケッター」と名乗り、重さ39.9kgのノートPCを取り出すのだが・・・!?

今、みやび屋を巡る世紀末救世主ライティング伝説が幕を開けるッ・・・!!


●中村さん

「あの本の面白い点は、ストーリーがしっかり機能していることだと思います。
普通、ああいったノウハウ本のストーリーってお飾りになることが多くて、邪魔だなと感じることが多いんですが、『沈黙のWebライティング』の場合は、ストーリーがしっかり描かれていて、登場人物に感情移入しやすかった。
会話調で展開していく演出もイマドキですね。
文章を読むのが苦手な人たちに手に取ってもらいやすそうだなあと。
読み手のモチベーション設計が上手いなあと思いました」

●松尾
「そこまで分析していただけたなんて・・・光栄です。
実はあの本、本を読むのが苦手な自分だったらどんな本を読みたいかな?という視点で考えて書いたんです」

●中村さん
「おお、本を読むのが苦手とは驚きました。

・・・なるほどです。
あの本が普段本を読まない人たちにも刺さった理由はそこにあったんですね。

さて、早速のご相談です。
あの『沈黙のWebライティング』で取り上げていた松尾さんならではの文章術を、一般書の形を通して、より多くの人に知ってもらいませんか?」

●松尾
「一般書で、僕が文章術の本を・・・ですか・・・?」

●中村さん
「はい、そうです。

松尾さんもご存じのとおり、今、文章を書く人が増えています。
TwitterやFacebookをはじめとしたSNSの盛り上がりによって、“人類総ライター”の時代が到来したと言っても過言ではないでしょう。
いや、そういう時代が到来するしないにかかわらず、私たちは人生において、文章を書くことからは逃れられません。
会社の資料の作成、仕事先へのメールの送信、大切な人へ贈る手紙、結婚式やお葬式で読み上げるスピーチ原稿など、文章を書くことは誰にでも訪れるイベントなんです。

ちょっと前まで、文章を書くためのツールはペンとノートが主流でした。
それがいつしか、スマホやPCといったデジタルツールでも書けるようになり、それが、私たちの文章を書く機会を増やしているように感じます。

ただ、その一方で、自分が思うような文章をうまく書けずに悩む人たちも増えています」

●松尾
「たしかに、うちの会社でもお客さま宛てのメールの文章を書く際には細心の注意を払っていますね・・・。
メールが怖いのは、一度変なメールを送ってしまうと、取り返しがつかないということ」

●中村さん
「そうなんです。
だから、私が常々考えていたことは、この国の人たちの文章力のアップです。

昨今、Instagramなどのビジュアル情報を主としたSNSが盛り上がっていますが、私たちのコミュニケーションは基本的には「言葉」を通しておこなわれます。
何度もいうとおり、言葉を扱うことからは逃れられないんです。

それを示すように、今、世の中には、文章力の本や、文章の書き方について書かれた記事がゴマンとあります。
なぜ、それだけたくさんの本や記事が存在しているかというと、やはり、文章を書くノウハウがたくさんの人から求められているからです。
みんな、文章を上手く書けるようになりたい、言葉を上手く扱えるようになりたいと思っているんです。

だから、私は読んでみたい。
松尾さんが書いた文章術の本を。

松尾さんなら、文章の書き方を、一般の人たちにどのようにレクチャーするのかを見てみたいんです!!」

中村さんはそう叫ぶと、継ぎ足されたばかりの珈琲を一気に飲み干した。

●中村さん
「うわあああ、アチチチチ!!!

す、すみません!!!
勝手に興奮してしまいまして・・・。

・・・ゴ、ゴホン。

えー、なので、一緒に素敵な文章術の本をつくりましょう!!

基本的に本の企画は松尾先生に任せますが、必要であれば、いつでも私をディスカッション相手として呼んでやってください!」





そうして、1年ほどが過ぎた。
ここはウェブライダーの京都オフィス。

●松尾
「ううう、書けない・・・書こうとすればするほど、書けない・・・」


ー 松尾茂起の文章本プロジェクト 完 ー


●伊藤
「ちょっと、ちょっと!!!
勝手に終わらせないでください!!!
まだ1枚も原稿書いてないじゃないですか!!!」

●松尾
「いや・・・、今まではWeb業界の方向けに本を書いてきたので、いざ一般書となると、謎の重圧が・・・」

●伊藤
「松尾さんが普段つくっている音楽はどうなるんですか!?
あの音楽は一般の方向けにつくっているんでしょ?」

●松尾
「たしかに・・・」

●伊藤
「ほんとに頼みますよ・・・。
文章術のセミナーに登壇している人が文章を書けないなんて、聞いたことがないですよ」

●松尾
「いやはや、面目ない。
それにしても、なぜ、急に書けなくなったのだろう。
ドラクエの武器屋の話などは、ウキウキして何文字でも書けるんだけどな」

●伊藤
「いい加減、アリアハンから脱出してください!

・・・松尾さんが書けない理由がわかりました。
多分、いつものクセで、100%納得できるものを世に出したいと思っているんじゃないですか?

いつものWebの仕事だったら、すでに自分の物差しが完成しているから「これでOK」という判断ができるのに、今回、文章術を学べる一般書という物差しが自分の中に完成していないので、いわゆる“当たり”がわからないんですよ」

●松尾
「自分の物差し・・・。
たしかに、自分の中で何をどれくらい書けばいいのか?という物差しが完成していないな・・・。
だから、慎重になりすぎて、行動できないのかも。
書きたいノウハウはいっぱいあるのになあ・・・」

●伊藤
「困りましたね・・・。

あと、松尾さんがよく言っている“コンプレックス”も関係しているんじゃないですか?」

●松尾
「コンプレックス・・・そうだ・・・。
自分なんかが本当に文章術を学ぶ一般書を書いていいのか?というコンプレックスがある・・・。

自分は出版社や編集プロダクションの出身じゃないし、文章作成のノウハウのほとんどは自己流で考えてきたもの。
いわゆる、“俺流ライティング”なんだよなあ。

だから、自分が書いた書籍を生え抜きのプロのライターさんたちに読まれる際、「こいつ、何言ってんだ?」と言われることが不安なんだよな・・・」

●伊藤
「やっぱり・・・。

私、その考え方、嫌いです。

だってきっと、松尾さんの俺流ライティングのノウハウを学んだことで救われてきた方って多いですよ。
というか、そんなに自分を卑下されると、ウェブライダーで働いている私たちの立場ってどうなるんですか?

私たちがついていくのは、やっぱり松尾さんらしい松尾節のノウハウがあるからなんですよ」

●松尾
「マツオブシ・・・なんだかカツオブシみたいだ」

●伊藤
「カツオブシかカタツムリかはどうでもいいとして、中村さんが声をかけてくださった時点でもっと自信をもつべきですよ。
何を書いても批判されるときは批判されますし、いつもみたいに、謎の自信で突き進んでくださいよ!」

●松尾
「おおお・・・!!」

●伊藤
「というか、そもそも今回の本は、プロの編集者さんやライターさん向けに書く本じゃないんでしょ?
文章をうまく書けない一般の方々に向けた内容じゃないんですか?
じゃあ、セミナーでいつも話しているような内容をまとめればいいんじゃないですか?
あとは、Yahoo!知恵袋でベストアンサー率70%越えの回答術を入れたりとか」

●松尾
「なるほど・・・」

●伊藤
「じゃあ、チャチャッと書いちゃいましょう!
ほら、読者は別に松尾さんの書く“クリエイティブな文章”を読みたいわけじゃないと思うんです。
松尾さんの“文章術のノウハウ”を知りたいだけじゃないですか。
だから、ノウハウさえきちんと整理して届ければ良いと思います!
たとえば・・・タイトルは『伝わる文章が書ける200の法則』とか、どうですか?」

●松尾
「それはイヤだ」

●伊藤
「え」

●松尾
「そのタイトルだと、自分があまり読みたいと思わない」

●伊藤
「ええーっ!!!」

●松尾
「私は今、気付いた。
自分が読みたい文章術の本を書けばいいのだと」

●伊藤
「松尾さんが読みたい文章術の本・・・!?」

●松尾
「そう、『沈黙のWebライティング』や『沈黙のWebマーケティング』はぶっちゃけなところ、自分が一番読みたかった本を書いた。
結局のところ、自分がその本を何度も繰り返し読みたいかどうか?が大事なのではと」

●伊藤
「たしかに・・・松尾さんって自分の本、しょっちゅう読んでますね・・・」

●松尾
「そこで、考えてみた。
自分が読みたい文章術の本とは、一体どんな本なのか。

たとえば、あらゆる文章の【悪文(before)】を【良文(after)】に改善した事例を掲載し、どのように文章をリライトすればいいのか?の【プロセス】が集まっている本はおもしろそうだと思う」

●伊藤
「リライトのプロセス・・・!?」

●松尾
「たとえば、お客さま宛てのメールひとつにしても、視点を増やせば改善点は見えてくる。

ひとつ取り上げてみよう。
以下は良くないメールの例だ」

●悪文の例(リライト前の文章)

山本さま

平素は格別のご厚情を賜り厚くお礼申し上げます
サポート担当の吉田と申します。

今回ご指摘いただいた、ログイン出来なくなるという不具合についてですが、古いブラウザをお使いではないでしょうか?
古いブラウザをお使いの場合、同様の不具合が発生することを確認しております。
また、お使いのウイルス対策ソフトによっては、弊社サービスを弾いてしまうことがあるようです。

念のため、今回ご報告頂いた不具合については、先ほど、弊社のエンジニアチームへ共有させて頂きました。
エンジニアチームが確認した後、近日中には折り返しお返事を差し上げる予定ですので、今しばらくお待ち頂くことは可能でしょうか?

ご不便をおかけし、誠に申し訳御座いません。
ご理解いただけると幸いです。
今後とも宜しくお願い致します。

【年末年始休暇について】
弊社の年末年始休暇は12/29~1/4とさせて頂きます。
期間中はご不便をおかけしますが、何卒宜しくお願い致します。

>>ここに署名が入る


●松尾

「このメールには、以下の11個の引っかかりを感じる」

1.謝罪の「レベル」が中途半端では?
2. 冒頭の定型文が、余裕ぶっているように見えてしまい、誠意が見えづらい。
3. 可能でしょうか?の「?」が、少し相手を小馬鹿にしているように見えるのでは?
4. 文末の年末年始休暇の情報については、困っているお客さまからすれば「知ったこっちゃない」と思われる可能性が高いのでは?
5.「共有させて頂きました」という表現が、同じ会社のメンバー間で敬語を使っているように見える。
6.サポート担当はの吉田さんはいつ頃返信するのか? その日が明示されていない。
7. 「ご理解」という言葉から、「こちらの事情も察してほしい」という一方的な要望を感じる。
8. 文章が冗長なので、最も重要な情報である「問題が起きていると思われる原因」がわかりづらい。
9. 「古いブラウザ」という言葉が抽象的で、どれくらい古いブラウザだったらダメなのかがわからない。
10. 相手側のウイルス対策ソフトの設定を変えれば相手側で解決できる可能性がありそうなのに、設定の変更方法を教えていない。
11. 漢字が多すぎて、堅苦しさが生まれてしまっていて、どことなく冷たさを感じる。


●松尾
「そして、上記の引っかかりを無くした文章にリライトすると、以下のようになる」

●良文の例(リライト後の文章)

山本さま

株式会社●●●サービス サポート担当の吉田と申します。
返信が大変遅くなってしまい、誠に申し訳ございません。

このたびは弊社サービスの不具合により、ご迷惑をおかけしていること、深くお詫びいたします。

今回ご指摘いただいた、特定の環境でログインできなくなるという不具合についてですが、以下の原因が考えられます。

1.古いブラウザ(Internet Explorer10以前)をお使いである

2. お使いのウイルス対策ソフトが、弊社のサービスサイトを害のあるサイトとして誤って認識してしまっている
→その場合、以下のページに記載されている設定をおこなっていただければ解決いたします。
(https://●●●.jp/support/02/)

念のため、上記をご確認いただけると幸いです。

今回ご報告いただいた不具合については、先ほど、弊社のエンジニアチームへ共有いたしました。
ほかに原因が考えられるかどうかを調査した上で、できるだけ早く折り返しのご連絡をいたします。
(調査の進め方によっては、ご連絡までに1、2営業日いただく場合があります。どれだけ遅くとも、2営業日目には進捗についてご連絡いたしますので、何卒ご了承のほどよろしくお願いいたします)

ご不便とご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
何卒宜しくお願いいたします。


※大変恐縮ながら、弊社では、12/29(土)~1/4(金)の期間、年末年始休暇をいただいております。
期間中のサポートに関しましては、休暇明けの対応となってしまいますが、今回の件に関してはできるだけ迅速に問題解決に動きますので、何卒宜しくお願いいたします。

>>ここに署名が入る


●伊藤

「なるほど・・・。
このリライトの流れって、うちの会社が普段、お客さまのサポートで心がけていることとそっくりですね」

●松尾
「そう、今回の書籍は僕だけのノウハウだけでなく、うちの会社が日常的に意識しているノウハウをまとめていこうと思う。
どのような言葉を紡げば、コミュニケーションは上手くいくのか?
その点を掘りさげた本にしたい。
たとえば、文章作成アドバイスツール『文賢』などで採用している文章チェックの視点も取り上げられるとよさそうだ」

●伊藤
「それは盛りだくさんですね。
というか、松尾さん、途中から口調変わってますよ」

●松尾
「・・・よし。
本のタイトルは決まった」


『その文章、なぜダメか教えます』


本日からnoteで連載開始。



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