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#3 虚業と実業

「広告なんて虚業だろ。そんなのさっさとやめちまえ」
ひとまわり以上離れた人生の先輩からそう言われたことがある。もう10年以上前の話だ。面と向かって私のキャリアを否定するようなことを言われたというのに、広告=虚業がスッキリと腑に落ちてしまい、ぐうの音も出なかった。広告はモノを扱う実業とは異なり、人の心を動かす仕事なので、その仕事の成果が見えにくい。実業は、モノがどれだけ売れたか、実測できてリターンも明確。その意味で広告は虚業と言われても仕方がない。

広告の全てがインチキだとはまったく思わないし、無価値のモノを価値があるかのように見せて消費者に嘘をつく仕事だとも思わない。ただ、そのようなインチキ広告が実在してきたのも事実だし、とりわけ大企業の広告に関しては、肝心なエクスキューズをせずに美辞麗句を並べ立てて自分を良く見せることしか考えない広告が散見されるのも事実だろう。でも、そんなインチキ広告は通用しない世の中になってしまった。SNSを使って誰もが情報発信する社会では、企業の嘘が簡単に見抜かれる良い意味での監視機能が備わっている。今まで商品広告に重きを置いてきた企業もそのことに気がつき「作った商品を売れるように広告する」のでなく「広告しなくても売れるよう、正直に商品作りから考える」ようになっている。当然、そんな考えは今に始まったことではなく、昔から真っ当な商売のあり方としてビジネスの基本中の基本なのだとは思うが、ここ数年の企業のコミュニケーションは、その傾向を反映して「嘘をつかない正直な企業姿勢。社会にどのように寄与するのかを明確に示した存在意義(目的)を訴求」する広報的なコミュニケーションに重心が移ってきている。

さて、自分のこれからのことを考えてみる。私が今まで培ってきた広告コミュニケーションのスキルとは何か? それは冒頭にも述べたように「人の心の動かし方」について論理的な思考と経験値でもって、臨機応変な方法論を獲得しているということ。誤解を招かないように正確に言うと「ある特定の商品やサービスを売るために必要な、ターゲットの選定とそのターゲットへのコミュニケーションの方法を設計し実行すること」この力については、そこそこの経験と実績があり、ドクターXばりに「私、失敗しませんので」と言ってのける、それほどまでの自信がある。ん、ということは…「だったら、お前が、そもそもの商品作りから考えたらいいんじゃね?」ということになる。つまり、美しい広告を作らなくても、そもそもターゲットの心に響く商品を作ってしまえば、絶対に売れるんだろ、ということ。うむ、確かに。では、そうしよう。一人メーカー、やってみるか。うむ、虚業じゃなくて実業だな。

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