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飛べない豚は、三元豚

トンカツ屋さんの店先に立っているのぼりがある。大きな筆文字で「三元豚」と書かれてある。よく見るし、よく聞く。
「さんげんとん」
お、ブランド豚だな、美味しそうな豚だな。食べてみたいな。きっと多くの人はそう思うだろう。私は心の中でツッコミを入れる。
「それ、ただの豚。飛べない豚だから」

私、養豚農家のブランディングを長年担当していたから、豚にはちょっとうるさい。ある意味、私自身をブタ野郎と呼んでも何ら差し支えないほど、そこそこ詳しい。

牛と違って豚は自然交配が多い。なので、人間の自然交配で例えるとわかりやすい。祖父母4人の中に、白人と黒人と黄色人種がいる場合、その人は三元人になる。リアル世界に三元人はレアだとは思うが、食用として飼われる豚の世界では普通のこと。主に①生産効率を上げること。②味を良くすること。この二つを両立させるために、それぞれの特徴を持った豚種を掛け合わせ、交配によって、コスパをあげるのが、一般的な三元豚。食肉としての豚の世界ではごく一般的な豚なのだ。

味を追求して、より美味しくするための三元豚もあるにはある。有名なのは平牧三元豚。ちゃんと美味しい肉の豚種をかけあせて作っている。しかし、血統だけが味を左右するわけではない。味の決め手となるのは、これは豚も牛も鶏も全ての食肉に共通すると思うが「水とえさ」で間違いがない。

私のよく知る養豚農家では、自分が育てた肉を自分の店で販売している。ある日、お客さんからクレームが来た。
「いつもの肉と味が違う。この農場の豚と違う豚の肉を使っているんじゃないか?」
それを聞いたオーナーは、そんなわけがないと思って肥育環境を改めてチェックしたところ、いつも与えていたアルカリイオン水の浄水器が壊れており、それが原因だったことが判明した。

そのお客さんが神の舌を持っていた可能性もあるが、ただ、飲む水で肉の味が変わってしまうのは事実。味の付いている食べ物であれば尚更影響は大きい。ドングリ食べさせるイベリコ豚。えごま豚、ハーブ豚など、もちろんその配合量やタイミングによるが、肉の味はえさで決まる。

もう一つ、豚は病気に弱い。病気を防ぐ方法は2つ。病原菌を持ち込まない衛生的な環境を整えて育てる方法。もう一つは薬漬けにすること。コストがかかるのは前者。

安い豚は薬漬けの可能性が高い。これは私見だが、薬漬けの豚は脂身が臭い。良い環境で薬に頼らず育てられた豚は脂身が美味い。厚切りのバラ肉をただ焼いて塩だけで食べるとその違いがはっきりわかる。

まあ、私も安い薬漬けの豚を食べることはある。その場合は、煮込みまくってしっかり臭みを取って、角煮にする。いろいろ知ってしまうと、食べられなくなるものが増えて困る。それらは、質よりもコスト優先なので、当然安い。食べることができるものは、概して高級品になる。やばい。そんなこだわりは見せたくない。ハゲたオッサンが丁寧な暮らししやがって!とは思われたくないのだ。

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