見出し画像

土鍋の力

グルメバイブル美味しんぼでは、「そんなわけない」というやりすぎファンタジーが散見される。「土鍋の力」という回では、すっぽん鍋の老舗で使い倒されていた古い土鍋が、長年かけて出汁を吸い込み、すっぽん鍋の味に深みを与えていた、というファンタジーが描かれていた。「嘘っぱちのファンタジー」だと、少し前まで、私はそう考えていた。食器全般は洗剤でしっかり洗われることで、次の料理に使われる時点で完全にリセットされるもの」という思い込みが、私から真実を遠ざけていた。

「食は広州にあり」という。先週1週間、私は中国の広州に滞在していた。中心部から少し外れてはいるけれど、そこそこ活気のある、地元の人の暮らしの空気を感じる地区のホテルを拠点にしていたため、毎晩、地元民で賑わう飲食街で夕食をいただいた。そこで出会ったお粥は、確かに出汁を吸って、その土鍋から旨みを醸していた。

上半身裸の客もいて味わい深い

初めての広州で、その食の奥深さに驚いた。これもグルメバイブルが教えてくれたことだが、日本の中華料理は化学調味料に侵されている。少なくとも、リーズナブルな大衆中華料理店はそう感じる。それがこのお店の料理を食べて確信に変わった。

エビ、アサリ、椎茸、ほかいろんな野菜。素材の味がうまく引き出されている。嫌な臭みを感じない。八角とパクチーを巧みに使っている。複雑な味で一言では表現できない。味が薄いと感じた時に、強引に褒めようとして「優しい」という言葉を使うことがあるが、このお粥には、真実の優しさがある。優しく、深い。グルタミン酸だけの旨みではない、美味さがある。

竿や竿竹と思いきや、まさかのサトウキビ原木

帰り道、向かいの八百屋に、竹が売ってあった。1本150円程度。一体、これをどうしろというのだろう。尋ねると、それはサトウキビで、これをカットして、硬い外皮を削ってくれるという。ものは試しで、買ってみた。硬い繊維があって、消化はできないので、チューチューと吸って、その甘い汁を楽しむらしい。確かに爽やかな甘さを感じる。

衛生観念が行き過ぎた日本に住んでいると、食事=命をいただくこと、という大切なことを忘れてしまいがちだが、さすが広州。そのことを思い出して、食の大切さ、意味、罪深さなど、いろいろ考え直す良い機会となった。スーパーでパックで売られている鳩を見て、なおさらに痛感したのだった。

しっかり命を感じます

いいなと思ったら応援しよう!