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「風景は自分(セカイ)につながる」小野龍光さん講演会の様子をレポート!

「いいね」やフォローをはじめ、目に見える数字にとらわれて、心が疲弊しがちないま。ふと顔を上げるとそこには広い空や広い琵琶湖があって……。

自然から受け取る情報は、揺れ動きがちな心をきっとフラットにしてくれるはず。それが、しがトコが風景投稿を続ける理由のひとつ。

最近ではInstagramで「#しがトコ」を付けた投稿が47万件を超え、滋賀の風景の美しさを共有する仲間が増えてきていることを実感しています。

今回の記事では、ライブ配信アプリ「17LIVE」の元CEOで、現在は、お坊さんとして新たな道を歩みだした小野龍光(おのりゅうこう)さんを、この春、滋賀に招いて開催したしがトコの特別企画。「風景は自分(セカイ)につながる」講演会の様子お届けします!

起業家としての「前世」から「さまようボウズ」へ?!

講演会が始まって最初のスライドに出てきたのが「さまようボウズ」という一言。黄色い袈裟に身を包み、穏やかな微笑をたたえるその人は、小野龍光さん。

新潟から沖縄まで、その半数は滋賀県外から集まったおよそ50名の参加者に囲まれながら、小野さんはまず、得度(とくど)について話し始めました。

いわく、得度とは、出家して僧や尼になること。また、三途の川を渡って彼岸(あの世)へ行くこと。

生まれ変わりの儀式とも言われる「得度=出家」を経験した小野さんですが、ユーモラスな表現で、インド仏教をブッダのファンクラブとたとえます。

得度がカジュアルなもの? そんなわけないでしょう? IT業界の第一線で活躍されていた小野さんが、 なぜ「さまようボウズ」となったのか。 そんな興味深い話から、講演会はスタートしました。

“成長と拡大”の裏側にあった、拭えない不安

テクノロジーやITを使って、「未来への新たな価値を作ることが、多くの人を幸せにする」。

小野さんはそんな気持ちで、東大の院生時代から、モバイルメディアを複数プロデュースし、卒業後は「ジモティー」等の立ち上げに関わり、得度の直前までは「17LIVE」のCEOもしていました。

しかし、気づけば数字やお金を追い、「より早く、より高く」を求められるばかりの日々に……。

世間からは華々しい人生を送っていると思われていた小野さんですが、そんな前世(=得度する前)の自分のことを、いまでは「欲にまみれたビジネスマン」と評しています。

「成長・拡大」することが良しとされる社会では、そのために「競争」や他との「比較」が起きます。より効率を上げねばと奮起するうち、焦りが生まれ、心を失うことも。

「もっと」を求められ、応える日々を続けているうち、小野さんは、結果を出せない自分を無価値であると感じるようになっていきました。

SNS投票で決めた旅の先にあった、運命的な出会い

趣味のマラソンで仕事の悩みを打ち消そうと考えたりもした小野さんですが、その悩みは、2022年には自死すら考えるほど深くなっていました。そんなある日、親友からメッセージが届きます。

「得度したったww」

無宗教だった当時の小野さんにとって、得度=出家は、人生の大きな決断であるという認識でした。しかし、「何となく出家した」と言い放ち、ビールを飲み、お肉を食べる親友の、その「ゆるさ」に衝撃を受けます。

ちょうどそれは、仕事との折り合いが、いよいよつかなくなっていた頃でした。

そして2022年8月、「17LIVE」のCEOを退任し、無職となった小野さんは、
得度したその親友と一緒に世界を旅することに。SNSで行き先の投票を行い、片道切符のインドへの旅に出発します。

行き先が決まり、情報収集をしていた一行は、インド仏教の中心人物である佐々井秀嶺(ささいしゅうれい)さんの存在を知りました。

佐々井さんは、ヒンドゥー教によって失われた仏教の聖地を取り戻すこと、そして、最下層にある人々の人権を取り戻すことを目的に、55年に渡り、インドで活動を続けてきた人物。

インドではヒンドゥー教を信仰している人が人口の約80%を占めているために、アウトカーストと呼ばれる、水すら自由に飲むことのできない最下層の人々が、今もいるそうです。

誰に対してもオープンで、とてもお茶目な佐々井さん。しかし、彼の法要にはダライ・ラマも訪れるというほどの偉人です。

縁あって佐々井さんと面会できた小野さんは、全くビジネスに関係なく、利他のために生きる姿を目の当たりにして、これまで宗教に対して抱いていた、「心の弱い人がすがるもの」という概念を打ち砕かれます。

佐々井さんからたびたび「お前は得度する」と予言されながらも、小野さんは簡単にできるものではないと悩みました。

ですが、インド旅を続けているうちにさまざまな出来事が起こり、もう出家するしかない!という境地に至ります。

2022年10月3日。小野裕史さんは、髪を剃り、衣をいただき、佐々井さんから直接、龍光という新しい名を授かりました。

佐々井さんからの偉大な贈り物

得度したその日は、年に一度の大改宗祭というインド仏教における大イベントの初日。翌日には壇上に上がり、ボウズレベル80~90しかいないパーティーに、レベル1の状態で参加することになったと、小野さんは笑います。

2日目の夜に開かれた世界仏教徒大会では、日本の仏教徒の代表として最前列に座らせられるなど、佐々井さんの導きによりハードモードで修行が進みます。

しかし、御年87歳の佐々井さん。疲労から高熱に倒れ、病院へ搬送されてしまいました。

高齢であること、これまでにも死に近付く経験をされていることから小野さんは、佐々井さんと再び会うことは叶わないかもしれないと思ったと言います。

幸いにも佐々井さんは退院され、寺に戻ることに。その情報を聞きつけ、会いに行った小野さん一行は、起き上がることもできず、声も苦しげな状態の佐々井さんと面会します。

煩悩(ぼんのう)を捨てたはずの小野さんでしたが、実は得度の際、佐々井さんが、「お前の衣は古いから、俺と同じ良い衣をやる」と言っていたことが頭をよぎります。

せっかくもう一度会えるなら、ぜひとも衣をいただきたいと、床に伏す佐々井さんにその言葉を覚えていますか?と聞くと、使いの者に指示し、きれいに包まれた新しい衣を用意してくれました。

それだけでもありがたいことと感じていた小野さんに、佐々井さんはさらなるギフトを授けてくれます。それは、たった一人の小野さんのための、長いお祈りでした。

まだまだ欲を捨てきれないボウズである自分を反省しながらも、インド仏教界の重鎮である佐々井さんが、つらい体を押してまで、自分だけのために祈りを捧げてくれた。そのとき、小野さんは、佐々井さんの懐の広さ、偉大さを、改めて知りました。

欲まみれのビジネスマンであった自分が、何者でもないボウズとして生まれ変わるためのチャンスをくださった。そんな佐々井さんへの気持ちがあふれたのか、この話をするとき小野さんは、目をうるませながら、少し言葉に詰まる様子も。

何かを求めるのでなく、むしろ与えてくれたことがこれまで求められ、それに応え続けてきた小野さんにとって、大きな救いだったのではないでしょうか。

風景は自分(セカイ)につながる

そんな経緯で得度し、いまや「さまようボウズ」として、宗派や宗教を超えた偉人の知恵を学んでいるという小野さん。

講演会のこの日、しがトコメンバーは、朝5時に小野さんと合流し、琵琶湖で瞑想の時間をご一緒させてもらっていました。

午後に行われた講演会では、その時間を思い出すような話も。それは、
「僕らが目にする世界のあり方は、僕らのココロが見せている世界」であるということ。

風景が濁って見えるとき、それは自分の心に濁りがあるときなのかもと、小野さんは説きます。禿げてしまった山、砂漠化した土地、ヘドロのような海や川。

そういう風景を見たときに思わず目を背けたくなるのは、それが私たちの心のにごりを映したものだからかもしれません。拡大や成長、そして「自分だけ」の評価のために、他を蹴落とすことすら暗に求めるこの社会。

しかし、私たちが「成長」と呼ぶテクノロジー開発のために伐採される木、絶滅する動物がいることも、同じ地球に起こっている事実です。さらに小野さんは、「自分だけ」のものなどなく、あらゆるものは繋がっているのだと続けます。

土地、お金、そして自分の体さえも、地球から借りているだけのもの。借り物のこの体は、多くの微生物や、食べ物となる動植物と交わりながら生きています。

そして、死んだ後には土に還り、今度は生物たちの食べ物に……。

本当は「自分だけ」のものが一つもないのだとしたら、本当は「自分」というものすらないのだとしたら、私たちが「成長」と思っているものは、一体何なのでしょうか。

この世での本当に大切な仕事は、自分や仲間、コミュニティーのために助け合うこと。その対価として、お金や食べ物をいただいているのだと、
小野さんは穏やかに語ります。

この日、琵琶湖の日の出は美しく、そこで行った瞑想もまた、心の美しさ、清らかさを思わせるものでした。

自分の心を通し、世界に繋がっていくのが風景なのだとしたら、どんな風景を見続け、残していきたいのか、私たちも、小野さんと一緒に考えてみたいと思いました。

(取材・しがトコ編集部 文・大関梨紗 写真・山本陽子 編集・しがトコ編集部)

「風景は自分(セカイ)につながる」講演会の動画はこちら

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