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【ストーリー考察】新作ポケモンSVに込められた7つのメッセージ|現代社会に向けて

大学教員をしている「しがない」です。
心理学が専門です。臨床心理士 / 公認心理師としても働いています。

2月27日は,ポケモン赤 / 緑が発売された記念日,ポケモンデーです!
それに合わせて,新作ポケモンについての考察記事を書きたいと思います(僕の専門が,心理学なので,その視点が多めになっています)。

新作ポケモン《スカーレット / バイオレット》(以下,ポケモンSV)は,間違いなく歴代最高傑作です。

特に,そのストーリーが秀逸でした。すでに多くの方が指摘されているように,展開がドラマチックなのもよかったのですが,僕は少し異なる点で素晴らしいと感じました。

それは,この新作ポケモンSVが,「現代の学校や家族をめぐる心理・社会的なテーマの数々を,ものすごくリアルに描き出している」という点です(リアルすぎて,現場で対人援助に関わる人たちが,ストーリーに関わっているんじゃないかと疑いました)。

そのテーマは,大きく7つに分けることができます



■ 新作ポケモンSVが焦点を当てた心理・社会的なテーマ
① 性の多様性|セクシャル・ダイバーシティ
② 働き方の多様性|本業と副業
③ 社会人の学び直し|リスキリング
④「いじめ」の捉え方|システムという視点
⑤ 才能にまつわる問題|ギフテッドを中心に
⑥ 現代の親子関係|ワーク・ライフ・バランス
⑦ ゲームとの付き合い方|プレイヤーに向けて

(合計1万8千字?!原著論文より長いので,気になるテーマだけでも… )



それぞれのテーマについて,ゲームをプレイする子どもや大人たちに向けた「ポケモンからのメッセージ」が込められているように感じました。クリア後,「ポケモンはここまで踏み込むんだ」と感動しました。

「ポケモン」というコンテンツは,現在ディズニーを超えるほどの影響力を持っています(総収益が世界で1位)。製作陣たちの方々は,その影響力の強さを「文化を創り出す立場や責任」として,新作ポケモンSVで真正面から取り組んだのではないかと感じました。ポケモンほど影響力のあるコンテンツが,こういったメッセージを発信すると,本当に世界が変わると思っています。改めてポケモンが好きになりました。

発売からしばらく経ちましたが,こんなに素晴らしいゲームについて,誰も深く考察していなかったので,残念だと感じていました。
「いまさら?!」なタイミングでの考察記事ではありますが(大学の講義が終わり,研究もやっと一段落した時期なんです … ),よかったら最後まで見ていってください!
世界の見方が,きっと変わります。


この記事の想定読者。①新作ポケモンをプレイした人,②子供がポケモンをプレイしていて自分ではプレイする予定のない保護者の方(ポケモンの奥深さを知ってほしい))
プレイする予定がある人にはネタバレになるので注意!!


==  注意!この記事はネタバレを含みます  ==


1. 性の多様性|セクシャル・ダイバーシティ


ポケモンSVには,「性」をテーマにしている描写がいくつかあります。そこからは,「性別にまつわるステレオタイプから自由になろう」というメッセージを読み取ることができます。ステレオタイプとは,「社会に広がっている固定観念(先入観・偏見)」のことです。

性別にまつわるステレオタイプには,「男性と女性という2分法的な考え方」だったり,「性別に紐づいた期待される役割やイメージ」などがあります。ポケモンSVは,登場人物の設定やゲームシステムを通じて,このストレオタイプに挑戦していると考えられます。

ストーリーの中で,性自認などの深いテーマにまで踏み込んでいるわけではありませんが(非常に繊細で難しい問題です),「誰しもが,性別に関する固定観念に囚われずに,自分を自由に表現できる権利がある」というセクシャル・ダイバーシティ(性の多様性)の基本的な姿勢を伝えようとしているように感じました。

そのように感じた根拠を3つに分けて,説明していきます。


1-1. 一見、「女性」か「男性」かわからない登場人物たち

ニュートラル(中立的)な見た目の登場人物①。ボタン,グルーシャ。

未プレイの方には,実際のキャラクターを見ていただけるとイメージが湧くと思います。こちらに2人のキャラクターを挙げさせていただきました。

外見上は,どちらの性別にも見えます。生物学的な性は,左の「ボタン」が女性,右の「グルーシャ」が男性です。ちょっとびっくりしたと思います。


中でも,最も象徴的なキャラクターは,四天王の「チリ」だと思います(四天王とは,バトルの実力を評価する試験官みたいな人です)。

ニュートラル(中立的)な見た目の登場人物②。チリ。生物学的な性は,女性。男性用のシャツを着用。ネクタイぽいものを着用。黒ズボンにサスペンダー。コテコテの関西弁で,ストレートに意見を言う性格。

中立的というより,「あえて男性に見えるように寄せている」と感じられます。生物学的な性は「女性」ですが,男性が着用することが多い洋服を着ています(シャツのボタンが右側についていることから,男性向けのシャツを着ていると推察されます。これ見つけた人すごい!)。
また,これは僕だけのステレオタイプかもしれませんが,コテコテの関西弁で,意見をさっぱりストレートに言うキャラクター像は,他の創作物では「男性」として描かれることが多かったように思います。

初めて「チリ」が出てきた時,女性なのか,男性なのかわかりませんでした。ストーリーが進むと,周りの人が「彼女」と呼んだり,自分自身を「チリちゃん」と表現するので,女性であることがわかります(つまり,性自認も女性の可能性が高い)。

チリが女性とわかった時には,「なんで男の服着てるの?」と思った人も多いと思います。ですが,別にネクタイもサスペンダーも女性が着てはいけないものではありません。そういう風に考えてしまうのは,「性」に関するステレオタイプ,つまり固定観念に囚われているからです。チリというキャラクターの存在は,そうした性に関したストレオタイプが僕たちの中にあることに,気づかせてくれます。

(少しメタ的な次元の話になりますが,チリというキャラクターを見たときに,「女性なのか?男性なのか?」と,二分法的に相手の性を定義しようとすること自体が,ステレオタイプの影響を受けているんですよね … )

そうした中,チリというキャラクターは,「女の子でも男の子でも,ストレオタイプに縛られず,好きな格好したらええやん」という考え方を具現化した,ロールモデルとして描かれているのではないかと思います。
(このチリちゃんは多くのファンに愛されています。このキャラクター性が広く受け入れられたのは素晴らしいことと思います)


1-2. 性別を気にせずに自分の見た目を選択できる

性別というカテゴリーなく自由に見た目を選択できる

ゲームを始めた際に,デフォルトとして設定されている「女性的 or 男性的」な見た目から選びますが,どちらを選んでも,同じ髪型や目や口の形のレパートリーから,自分の見た目を表現することができます。女性 / 男性というカテゴリーはなく,ボーダレスに自分の外見を選択できる仕様になっています。少しわかりづらいですが,右側の画像にあるように,性別を気にすることなく,どの見た目も自分で選ぶことができます(肌の色以外)。

ここ最近のシリーズでも,性別を明示的に選ばせることはなかったのですが,見た目の自由度は今作ほど高くありませんでした。今回の仕様変更は,先ほどと同じように,「性別に関する固定観念に囚われずに,自由に自分を表現できる権利がある」という考え方を実現したものと言えます。自分が投影したい「性」を,抵抗なく選択できるシステムになっているのは,今作の際立った特徴です。

最初の選択で,女性らしい見た目を選んだ場合,ウエストがくびれて,胸が少し膨らんで見える体型になります。これは,ゲーム中に見た目を変えても,変わらない仕様になっています。「自由に自分を表現できること」と矛盾するように見えるかもしれませんが,生物学的な理由によって生まれる差異は実際にあるのだから,それは否定しない上で,「表現の自由はある」ということを伝えたいのではないかと思います。


1-3. 性役割からの解放

教科ごとの担任の先生。家庭科の先生:サワロ。体育の先生:キハダ。

ポケモンSVは,学校を舞台の中心としています。教科担任制が採用されているのですが,ここにもポケモンからのメッセージが垣間見えます。

体育というと「男性の先生」,家庭科というと「女性の先生」というイメージがあると思います。このように性別によって期待される役割(または抱かれているイメージ)を,「性役割」といいます。それに対して,ポケモンSVでは,体育を女性が,家庭科を男性が担当する形になっています。性役割を逆転させているんですね。

そして,このうち家庭科を担当する「サワロ」先生には,性役割に関するエピソードもあります。

サワロ先生の見た目は,男性イメージを色濃く反映したものになっています(ヒゲなどの体毛,大柄で逆三角形など)。一方で,かわいいものや甘いものが大好きという一面も持っています(女性と結びつきやすいイメージ)。

サワロ先生は,そうした一面が,生徒たちに知られてしまうと,現在向けられている男性的なイメージが崩れてしまい,幻滅されてしまうのではないかと葛藤していました。
最終的にバレてしまうのですが,生徒からは「ギャップでいいねー!」といってもらい,その葛藤から解放されるという様子が描かれていました。「性役割から自由になってもいい」ということを示すストーリーとして読み取ることができます。

メインのストーリーには関係ないイベントなんですが,こういった細部にもメッセージが込められていて,さすがだなと思いました。

性役割に関する葛藤からの解放。「あまいの好きなんだ!ギャップでいいねー!」→「期待されるイメージをくずさぬように努力してきたが…」→「そのような考え方もあるのだな…」→ 「狭い世界が少し広がったような気さえする」
めっちゃいい子!
ただ,ギャップがあると感じること自体が
ストレオタイプの影響をうけt … 


1-4. このテーマのまとめ

性別に関するステレオタイプにとらわれずに,自分を自由に表現できる権利がある。

特に,日本では,性に関するステレオタイプが,依然強く残っています。学校においては,他人と異なる「性」の意識が,いじめのきっかけになることも少なくありません。また,次にテーマとして扱う「働き方」にも影響を及ぼしており,性役割意識の強さが,女性の社会進出を阻害していると指摘されています。

ポケモンSVは,こうした状況に対して,最も根本的で大切なメッセージを伝えたかったのではないかと思います。


2. 働き方の多様性|本業と副業


ポケモンSVは,働き方の多様性もテーマとして扱っていると考えられます。これに関して,「いろんな仕事や働き方を選ぶことができる」というメッセージを感じました。これは,ジムリーダーの設定から読み取れます。


2-1. 本業と副業を両立するジムリーダーたち

多種多様な本業を持つジムリーダーたち。カエデ:パティシエ。ハイダイ:料理人。
ハイダイさんは美容師になんて注文してるんだろう …

ポケモンは初代から,「ジムリーダー」がいて(名前が変わったときもありましたが),中間ボスのような役割を任されています。
ポケモンSVでは,そのほとんど全員がジムリーダーとは別の本業を持っているという設定で描かれていました。これって,自然に見えて,今までのシリーズでは,あまり見られなかった設定なんですよね。

歴代のポケモンシリーズでは,ジムリーダーが職業不定で描かれることが基本でした。前作ソード/シールドでは,プロのスポーツ選手のように描かれていましたが,それ以外のシリーズでは「ジムリーダーで生計を立ててるのかな … ?」と思うキャラクターが多かったのです。

ポケモンSVでは,それぞれのジムリーダーが本業を持ち,副業としてジムリーダーをしている設定で描かれていました(ジムリーダーの仕事に査察が入るなど,「仕事感」が強調されていました。「ブラック / ホワイト」でも,ジムリーダーが他に本業を持っている設定でしたが,「ジムリーダー」の仕事感を強調し,副業であることを明示的にしているのは,今作ならではの特徴だと捉えられます)。

それも,下記のように多種多様なお仕事だったんですよね。

カエデ|パティシエ
コルサ|芸術家
ナンジャモ|動画配信者
ハイダイ|料理人
アオキ|運営・事務
ライム|ラッパー(ミュージシャン)
リップ|メイクアップアーティスト
グルーシャ|元プロのスノーボーダー

以上のようなジムリーダーの設定から,本業の種類や副業をするかしないかを含めて,「自分自身で,自分の仕事や働き方を選んでもいいんだ」ということを,ポケモンSVは伝えようとしているんじゃないかと思いました。


2-2. このテーマのまとめ

いろんな仕事や働き方を自分自身で自由に選ぶことができる。

現在,日本では副業が当たり前になりつつあります。今までは禁止しているところが多かったですが,大企業を中心に,様々な企業で認める動きが出ています。そうした中で,主に子どもたちに向けて,「色んな働き方があっていいんだよ」ということを伝えたかったのではないかと思います。


3. 社会人の学び直し|リスキリング


ポケモンSVでは,社会人の学び直しについても触れられていました。このテーマには,「いつからでも学び直し,新しいことに挑戦することができる」というポケモンからのメッセージを感じました。


3-1. 学び直す大人たち

「学び直し」は,以前まで,生涯学習の文脈で語られることが多かったですが,最近では,仕事のために必要なスキルを身につけ直すこと =「リスキリング(re-skilling)」という言葉で表されることが多いですね(最近,岸田首相が「育休中の女性にリスキリングを」という方針を示して,炎上しましたよね)。

大人たちも学生として通っている。
「ポケモンのことを学び直してどうするの?」という問いは置いておいて … 

上記の画像に映っているような大人たちも,主人公と同じ学校に通いながら,「学生」としてポケモンバトルを仕掛けてきます。これには,違和感を覚えた方が多いのではないでしょうか。

特に日本では,学び直しの文化が欧米に比べると薄くなっています。例えば,大学院での社会人学生の割合は,欧米に比べるとかなり低い値に止まっています。また,企業での研修費(従業員の能力開発にかける費用)も,先進諸国に比べ,とても低くなっているというのが,社会課題として指摘されています。日本では,「学び直す」という文化が希薄になっているのです。

それに対し,ポケモンSVは,「大人になってから,学び直すために学校に通うこと」が当たり前になっている世界を描写しています。新しい文化として提示したんですね。


医務室の保健師である「ミモザ」は,その中でも象徴的な存在として描かれています。

学ぶことを一度は挫折したミモザ①。「あたし,学校の先生になりたかったんだー」→「何度やってもダメで,医務室でくさっちゃった」

ミモザは最初,養護教諭(保健室の先生)を目指していましたが,試験に合格することができず,学校保健師として働くことに落ち着いたことが語られます。そのことを,「何度やってもダメで,医務室でくさっちゃった」と言います。この「くさっちゃった」という言い方が,子ども向けのゲームとは思えないほど,生々しい表現で,すごいなぁと思いました。

最初はこのように語っていたミモザ先生ですが,主人公が身を削って冒険している様子を見て,少しずつ心境に変化が生まれていきます。ストーリーの後半になってから,ミモザ先生に話しかけると,養護教諭の試験に向けて,また勉強を始めたことが語られます。


学ぶことに一度は挫折したミモザ②。「ちょっとねー勉強してんの」→「誰かさんが宝探しがんばてるのに,影響されたとかじゃないからね!」→「いや,ちょっとは関係あるかもだけど!」→「だから,ちょっと感謝してたり」

生徒を子どもとしてではなく,一人の人間として尊敬し,多少ツンデレながらも,正面から感謝を表現できる姿は,本当に素晴らしいと思いました。同じ教育に携わる身として,大切にしたい姿勢だと実感させられました。

一度は諦めた夢をまた追いかけようとするミモザ先生の姿に,心が動いた人も多いと思います。
結果は,無事,養護教諭の試験に合格(これが,主人公に伝えられたときの効果音も,製作陣の遊び心が感じられていいんですよね笑)。

このミモザというキャラクターからは,「学び直して,リスタートしようとする人の背中を押したい」という製作陣の想いが感じ取れます。社会人の学び直しを,前向きに捉えようとする姿勢が伝わってきますよね。


3-2. このテーマのまとめ

いつからでも学び直し,新しいことに挑戦することができる

これは,主に大人たちに向けたメッセージだと思います。この記事も,皆様にとって,新しい学びへのきっかけになればいいなと思います。


4.「いじめ」の捉え方|システムという視点


ポケモンSVは,舞台である学校ならではのテーマとして,「いじめ」の問題についても焦点を当てています。『スターダスト・ストーリート』として,メインの物語の一つとして描かれています。

スターダスト・ストーリートは,「スター団」と呼ばれる「学校を無断欠席して,やんちゃをしている生徒の集まり」を中心に描かれる物語です。

歴代ポケモンシリーズは,初代の「ロケット団」の頃から,悪役と想定される 〇〇団という存在がありました。その位置付けは,シリーズを経るごとに変わってきています。すごくざっくり捉えると,「普通に悪者」→「悪者だけど,自分達が信じる正義を持っている」→「悪者っぽかったけど,実はいい人たち(前作)」と変遷してきています。

そうした中で,ポケモンSVでは,「表面的には悪者に見える人にも,実はそうせざるを得ない事情があった」という位置付けで描かれています。このスターダスト・ストーリートは,それを「いじめ」をテーマとして,緻密に描き出しています。ここには,「問題を解決するためには,その人が抱える事情や背景にも目を向ける必要がある」というポケモンからのメッセージが込められていると考えられます。


4-1.「スター団」が必要になった理由

学校のトラブルメーカーと称されるスター団

スター団は,ガラが悪い見た目をしています。実際に,大事件も起こしています。学校に改造したポケモンで乗り込み,他の学生を威圧したことで(示威行為しいこういと言います),恐怖を感じた学生を自主退学に追い込むという事件を起こしていたのです。

スター団には,バリケードを張ったアジトが5つあり,そのそれぞれに「危険なリーダー(ボス)」がいるという設定になっていました。そして,スター団のボスは,ポケモンバトルに敗れると,ボスを降りなくてはいけないという決まりがありました。

主人公は,カシオペアと名乗る人物(のちに,スター団の創始者 = ボタンであることが判明する)に依頼され,ボスをポケモンバトルで倒していくことで,スター団の解散に協力します。ここまでは,歴代シリーズにおける「悪役の悪事を止めるために戦うストーリー」だと見受けられます。

しかし,物語が進むにつれて,どうしてスター団が生まれたのか,どうして事件を起こさなくてはならなかったのかが,分かってきます。

「スター団」が結成されたのは,いじめが蔓延した学校を変えるためだったことが明らかになるのです。過去のいじめによって引きこもりになった生徒が呼びかける中で,自分も同じようにいじめを受けていたり,学校の現状に問題意識を感じていた生徒が集まり,スター団が結成されたのです。過去に起こした事件は,いじめっ子をびっくりさせるために企てられたものだったのです。しかし,想定以上に恐怖を感じた いじめっ子たちが退学していったので,大事件として語り継がれることになったのです。

こうした背景があったにも関わらず,事件に関する情報が学校の先生により隠されてしまったので,「スター団」=「ガラが悪くて,厄介者の集まり」とされてきてしまったのです。こうした背景が明らかにされなかったなら,本来いじめの被害者であったはずの「スター団」が,いじめの加害者のまま,処分されてしまうところだったのです。


4-2. システムという視点で読み解く

僕は,臨床心理学を専門にしていて,心理職としても支援実践をおこなっています。そうした実践の中で,「システムという視点」を用いることが,問題解決に有効であることが多くあります。

システムという視点では,問題が起きたときに,「個」に原因帰属をせず,「個」が属する環境やコミュニティ全体の「システム」の中で,どのように問題が発生し,維持されてきたのかを考えます。もう少し,具体的にいうと,システムの中の人たちの相互作用から問題が生じると捉えるのです。


ストーリーの中で情報が多かった「オルティガ」を例に,今回の「いじめ」の問題を整理すると,下記のようになります。(ストーリーから読み取れることや,一般的な「いじめ」問題から推察しています)。

このすぐ後の説明をお読みください。

■ 補足説明
・ 不適切な養育 / 我慢|いじめの加害者,あるいは非行少年によく見られる背景要因です。マルトリートメントの訳語です。マルトリートメントとは,虐待とは言えないまでも,望ましくない養育のあり方を意味します。
・ 親が悩みを聞かない / 子どもが相談しない|いじめの被害が維持される要因として見られることが多い問題です。
・ うさばらし / それに対する反応|いじめは,両者の関係の中で維持されます。これは,どっちも悪いということを言いたいわけではなく,問題を維持する相互作用があるということです。いじめは,100%で悪いことです。
・ いじめが当たり前にある文化|ビワの戦い後に,「タナカ」というキャラクターが語った内容から推察されます。
・ いじめに関知しない / 隠匿体質がある|これだけ,いじめが蔓延しているのに,学校は何もしていません。ましてや,教頭先生がこの事件を隠すために,関連するデータを削除するという非常に残念な学校の体質だったのです(ニュースに取り上げられる日本の学校のようです)。

すごくざっくり言うと,「悪いことをした人にも,そうせざるを得ない事情がある」ということになりますが,これは「いじめ」を容認しているわけではありません。問題を解決するためには,いじめが起きてしまう背景を,システムの中での関係性で捉えなくてはいけないということなんです。

ただ単に,「暴走行為をしたスター団が悪い」ということで処分してしまうと,全く見当違いの対処をしてしまうことになるのです。今回の問題では,いじめを始めた生徒の方が変わる必要がありました。もしくは,スター団の生徒も,それに対抗するための違う方略を身につけていれば,大変な事態にならなくて済んだ可能性もあります。
また,大きなシステムに目を向けると,学校というシステムが変わることが一番大事だったかもしれません(実際,スター団が自衛のために問題を起こしたことで,学校の先生陣がリフレッシュされ,学校からいじめがなくなったのです)。

このように,システムの問題として捉え直すことで,問題の本質的な理解が可能になります。ビジネス的に言えば,「イシューから始めよ!」ということですね。

ポケモンSVは,スターダスト・ストリートを通じて,こういった視点の重要性を示そうとしたのではないかと考えられます。


4-3. このテーマのまとめ

問題を解決するためには,その人が抱える事情や背景にも目を向ける必要がある。

このテーマをきっかけに,この視点をお持ちいただけたら,心理職で働く僕としても嬉しい限りです。

実際の支援では,いじめの加害生徒と保護者の関係が重要になることが多くあります。加害者を責めれば問題が解決するというわけではなく,加害者となったお子さんの環境を整えていくという視点がとても大切になります。
この考え方に納得できない方もいると思います。僕もこの考え方を飲み込むの時間がかかりました。でも,いじめ被害者の子のためにも,こうした根本的な問題解決が必要になるのです。


5. 才能にまつわる問題|ギフテッドを中心に


「ギフテッド」という言葉は,少し前からよく使われる言葉になっています。ギフテッドの原義は「天賦の才を与えられた人々」であり,教育の文脈では「平均よりも著しく高い知能を持つ子ども」を指して使用されます(実際は,知能に限らず,能力全般を指して用いられることが多いですね)。

考察に先立って,知っていただきたい用語と背景を説明します。


学校教育とギフテッド。学校教育のフォーカスは,平均域の子供たち

学校教育というのは,「平均」に合わせてデザインされており,その平均に合わない人にっては,苦しい場所になります。今までの学校教育では,「ある能力や特徴が,平均に比べて苦手な子」にスポットライトが当たることが多く,主に特別支援教育等でサポートが提供されてきました。

一方で,「ある能力や特徴が,平均に比べて著しく高い子」の存在は,軽視されてきました。近年になって,そういった子たちもサポートが必要ということがわかってきたので,このような子たちを「ギフテッド」と表現して,光を当てていく風潮が生まれるようになったのです。

「学校教育のフォーカス」を広げていこうとする動きもあり,「インクルーシブ教育」と呼ばれています。このテーマに関するポケモンからのメッセージは,この方向性にも通じるものがあります。

中には,この言葉に違和感を感じてる方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際に,「学校に合わない」=「ギフテッド」として,安直にそれを礼賛する傾向もあったりします。僕も,ギフテッドという言葉は,排他的な印象があるので,あまり好きではありません。

ポケモンSVでは,ギフテッドという直接的な表現を用いてはいませんが,そのテーマを意識したキャラクターが何人か描かれています。このテーマでは,考察をしていきながら,最後に,読み取れるメッセージをまとめたいと思います。


5-1. 卓越した才能を持つ苦しみ

メインキャラクターの一人である「ネモ」という生徒は,ギフテッドを意識して設定された登場人物であるように思います。

ネモは,史上最年少でポケモンリーグ(最高峰のトレーナーが集う王位決定戦)をクリアするという記録を残した,いわばポケモンバトルのギフテッドといえる生徒です。ポケモンバトルの能力が,「平均よりも著しく高い」ということですね。

ネモは,ストーリークリア後の話の中で,「天才ってさ!がんばってるのに,そんな言葉でまとめられるの好きじゃないなー!」と語りますが(この発言内容には,僕も激しく同意です),努力を踏まえても,明らかに卓越した才能だと考えられるので,本記事では,そのように捉えました。

「ギフテッド」ともいえるネモが抱える苦悩が描かれているのが,ポケモンSVのすごいところです。ネモは,ポケモンバトルが強すぎるので,学校内で(大人も含めてですが),相手になる人がおらず,孤独感を感じてきたことや欲求不満な日常を過ごしてきたことが,語られています。

卓越した才能を持つことの苦しみ。「ネモは天才だからーとか,育ちが違うからーとか」→「そしたらなんかみんなとの壁?みたいなの感じちゃって」「ずっと,ずーっと待ってたの!最高の勝負… 始めるよ!」


この苦しみは,ギフテッドのお子さんが,学校で抱える苦しさに重なるものがあります。
ギフテッドのお子さんにとっては,学校の勉強における認知的な負荷が,その能力に見合わないため,退屈で居心地の悪い時間を過ごすことが多いのです。そのような授業を、一日6時間近く受けなくてはいけないという環境が,苦痛で耐えられないと感じるお子さんも少なくないそうです。

また,周りの子とおしゃべりしようと思っても,知能の発達が早いため,話が合わず,孤独感を抱えることがよくあります。

そうした中,不登校になる子もいますし,多動性やエネルギーの高さと組み合わさって,授業妨害に近い行動を取る子もいます。こういったお子さんたちが持つ苦しみは,なかなか理解されず,「学校をなめている」とか「落ち着きがない子」と大雑把にまとめられてしまうことが多くあります。


ちょっと言い過ぎかもしれませんが,ネモも,将来的にそうなっていたかもしれません。有り余ったエネルギーや才能を生かせる人や場所がないことで,才能が枯れていってしまったり,相手をしてもらいたくて,色んな人にちょっかいをかけて,周りの人を困らせていた可能性もあります。

そうした中で,転校生としてやってきた主人公が,自分と同じような才能を持っていたことで,自分の本来の力を思いっきり出すことができるようになったんですね。そうした,自分の才能を発揮できる相手や環境を見つけたことで,孤独感や苦しみが緩和されたのではないかと考えられます
(最後に,負けたにも関わらず,初めて全力を出すことができて,「やったー!!」と喜ぶシーンが印象的でしたね)

先ほども出てきた「ボタン」もギフテッドの一人として,描かれていると思います。独学で勉強しただけにも関わらず,(多分)堅牢なポケモンリーグのシステムをハッキングできるというのは,類まれなる知能を持っているからだと推察されます。そして,このボタンも,「オモダカ」にその才能を買われて,「ホワイトハッカー」として,才能を生かす場を得ます(学校でいじめられたり,不適応を訴えていたお子さんが,プログラミングの才能を開花させて,活躍できる場所を見つけると,たちまち回復していくという事例は,ギフテッドのお子さんのエピソードとしてよくお聞きします。こういったお子さんは,他の子よりも,周りのことが見えすぎてしまい,他の子からすると「余計なこと」も言ってしまうので,いじめの対象にされてしまうことが少なくありません)。
ギフテッドのお子さんに対する支援において,「平均に合わせてデザインされた学校教育」に無理に適合するのではなく,その才能を生かせる環境を整えていこうという方針が選択されることもあります。ポケモンSVは,こういった発想の重要性も示唆しているのではないかと思います。
(下記のリンクのように,かつて東大においても,そういった発想に基づいたROCKETプログラムというのがおこなれていたことがあります)


5-2. 特別な才能とは言えなくたって

ここが,まじで僕が痺れたところです。

ここまでだったら,「特別な才能に恵まれた子たちの苦しみを理解し,その才能を発揮できる環境を整えていこう」というメッセージにも読み取れます。しかし,そのメッセージを裏返して解釈すると,「特別な才能を持っていない人は,どうでもいい」ということにもなってしまいます。ここが,ギフテッドという言葉に対して,違和感を感じる人が多い理由でもあります。

これに対して,ポケモンSVが出した回答は,ジムリーダーと四天王を兼任する「アオキ」というキャラクターの存在です。アオキというキャラクターには,「特別な才能とは言えなくたって,羽ばたくことができるんだ」というメッセージを込められていると考えられます。具体的に見ていきましょう。


チヲハウアオキ。そう,シンプルなのが一番強いんですよ。
今作の登場人物の中で,アオキさんが一番好きです

アオキは,「疲れ切った日本のサラリーマン」のような見た目や,喋り方で登場します。普通,並 … を意味する「ノーマルタイプ」を,自分のようで,親近感がわくと語られます。先ほどの説明で言うと,「能力や特徴が,平均的な人」として描かれているものと捉えられます。

アオキは,ぐちぐち言いながらも,ジムリーダーとしての仕事をそつなくこなします。地元の人が駆けつけて応援にくるほど愛されていることから,長くこの仕事についていることが推察されます。


ハバタクアオキ。「面倒なことに四天王も兼任なんです」「四天王ときは,ひこうタイプを使えと言われた意味」

アオキとは,その後,四天王として再び対峙することになります。登場する際,足のアップから,じわじわとカメラが登っていき,それがアオキだと分かったときには,プレイしていた人はびっくりしたのではないでしょうか。「なんで,同じキャラクターが四天王もしているの?」と。

歴代シリーズの中でも,斬新な設定ですよね。なんで,こんな設定にしたんでしょうか。キャラが思いつかなかったからなのでしょうか。ライバロリさんが動画でよく言っているように,「アオキを2回登場させたら,面白くね?」と,居酒屋で適当に決めたからなのでしょうか。

そうではなく,もし意図的なのだとしたら,「たとえ自分に特別な才能がないと感じている人でも,地道な毎日を続けていくことで,非凡な実力として評価される」ということを伝えるために,アオキを,ジムリーダーの上級職である四天王として設定したのではないかと考えられます。

■ 他の四天王
・チリ|若い。十分エリート。カリスマ性のある雰囲気
・ポピー|幼稚園生ぐらい。おそらくギフテッド
・ハッサク|名門の出身。実は,エリート

他の四天王と比べると,アオキ本人が言うように「個性がない」と感じるのもうなづけます。でも,逆に言うと,この四天王に入っているの,すごくないですか? 四天王を選出しているオモダカは,実力主義的な人なので,アオキの実力がそれだけ評価されているのだと思います。

そして,そのタイプにもメッセージが読み取れます。アオキは,オモダカから「ひこうタイプ」を使えと言われたと明かします。アオキは,その理由を「高く飛べる才能がある人に目を向けろ」ということだと解釈しますが,これは,ミスリードだと思います。
なぜなら,アオキの自己認知は,ネガティブに歪んでいるからです。四天王に選出される実力がある人に,わざわざ「もっと高みを見ろ」と言うでしょうか( … オモダカさんなら言いそう)。

そうではなく,「もう十分羽ばたいているよ」というメッセージなのではないかと思います。普通・標準的を意味する「ノーマルタイプ」を使うジムリーダーから始まり,羽ばたく・活躍をイメージさせる「ひこうタイプ」を使いこなす四天王として再登場させることで,「特別な才能とは言えなくたって,十分,羽ばたくことができるんだ」というメッセージを,ポケモンSVは伝えたかったのではないでしょうか。

学校という文脈に話を戻すと,毎日,学校に行けることだって,十分すごいということです。ポケモンSVは,そういう人たちにも光を当てたかったのではないかと思います。

本記事はあくまで考察なのですが,これに気づいた時,鳥肌立ちました(さむいギャグで雪 … )。


5-3. このテーマのまとめ

特別な才能をもっているかどうかに関わらず,適切な環境の中で,個性を輝かせることができる

以上を踏まえると,このテーマについて,ポケモンが伝えたいメッセージとは,「特別な才能を持っている人も,自分がそうじゃないと感じている人も,適切な環境の中で,個性を輝かせることができる」ということなのではないかと解釈することができます。それぞれが,輝ける環境を持っているということなんです。

「やれ,突飛さだ,奇抜さだ,ケレン味が評価される世の中にあって」,アオキのようなキャラクターをきちんと描くあたり,さすがポケモンと言わざるを得ません。

補足1:四天王のうち,半分の人が他の役職を兼務する形になっているのは,今作の登場人物がすごく多いからという事情もあると思います。前作まででも,四天王の名前は忘れられがちだったので,今作の登場人物の多さなら尚更ですよね。
補足2:長くなってしまうので,割愛しましたが,ジムリーダーのグルーシャとリップが,「才能」について直接的に言及しています。こちらについても,ぜひ改めて考えてみてください。


6. 現代の親子関係|ワーク・ライフ・バランス


ここまで書くのに睡眠時間を削りながら,2週間以上かかりました笑(論文を書け … )。
この章も本当なら,1万字ぐらい書きたいことがあるのですが,短くまとめたいと思います(なお,僕がプレイしたのがスカーレット版なので,その視点で考察しています)。

このテーマは,メインキャラクターの一人である「ペパー」と,その母親「オーリム博士」の物語の中で描かれています。
ここに込められているメッセージを,一言で言うと「子どもの声を聞け!」だと思います。子どもを持つ保護者の方に対する痛烈なメッセージが込められていると感じました。
細かく見ていきたいと思います。


6-1. 仕事に没頭するオーリム博士

ペパー:全然家に帰ってなんてこねえし,遊んでもらった記憶もねえ。天才的なポケモン博士なんどとさ。でも子どもの俺にとっては最悪。

オーリム博士は,ポケモンSVの世界で有名な研究者です。事情は詳しく語られていませんが,スポンサーが離れていってしまったり,部下が辞めていってしまう中で,どんどんと研究に没頭していったことが明らかになります。

ペパーと暮らす家に帰ってくることは,なくなっていきました。ペパーが,覚えている限り,一緒に遊んでもらったことがないと言っているほどなので,ネグレクトと表現して差し支えない状態といえます。

オーリム博士は,最初からペパーの世話をあまりしていなかったのかというと,おそらく違うと考えられます。なぜなら,ペパーがしっかりいいやつに育っているからです。幼少期からネグレクト傾向にあったお子さんは,ペパーぐらいの年齢になると,社会不適応を起こすことが多々あります。それこそ,先ほどの「いじめの加害者」になることも少なくありません。比べると,ペパーは,ある程度健康的で,かつ同級生ともうまくやることができています。

ペパーの父は,オーリム博士が妊娠したことをきっかけに,家を出ていってしまっています。そうした中,オーリム博士は一人でよくペパーのことを見てあげていたのではないかと思います。本当に大変だったと思います。
オーリム博士の愛情は,最後にも語られますし,ペパーが小さかった頃の写真をラボに持っていっていたことからも伺えます。そうすると,オーリム博士が,仕事に没頭せざるを得ない事情があったと見るのが自然です。この見方を覚えていますか? そう,システムという視点ですね。ダウンロードコンテンツで,オーリム博士視点での物語もあったらいいなと思います。


6-2. 大人たちに向けて

主人公たちと冒険をする中で,ペパーは,最終的に親子関係について,自分なりの答えを出し,前に進もうとする様子が描かれます。これは,同じ境遇にある子どもたちを勇気づけるために,そのようなストーリーにしたのだと思います。

それを見て,「じゃあいっか。子どもは仲間達と育つということで」と,大人たちが思っていいかというと,そうではありません。
大人たちには,ペパーの本音の方を聞いて欲しかったのだと思います。


ペパー:オレの母ちゃんすごいんだって,誇らしい気持ちでごまかしてたけど,すごくなくても,やっぱ一緒にいてほしかった。
さりげないセリフですが,ポケモンSV一番のハイライト

「すごくなくてもさ… やっぱ一緒にいてほしかった」
僕には,このペパーの本音が痛切に響きました。長い間,一人でこの葛藤を抱え続けたのは本当に苦しかったと思います。

ここからは,僕の私見が入ります。時代の大きな流れとして,子どもを持つご家庭の「共働き」が増えています。オーリム博士のように,お一人で仕事と家庭を両立しながら,働かれている方も多くいらっしゃいます。
オーリム博士ほどではなくても,保護者の方が,子どもと一緒に過ごせる時間は,昔よりも短くなっています。

そうした中,ワーク・ライフ・バランスのアドバイザーなる人たちが,「子どもは,仕事で頑張っている親の背中を見て育つから」ということを言って,仕事に没頭することを奨励していたりします。僕は,この意見に,ずっと違和感を感じていました。

その意見に,子どもの声は入っているのでしょうか。幼かったペパーに対して,「オーリム博士の背中を見て,育ちなさい」ということができますか? 僕は,そういった意見を聞いて,いつも「なんて無責任な言葉なんだ」と思っています。

保護者の方が聞くべきなのは,そのような人たちの意見ではなく,「子どもの声」だと思います。ポケモンSVは,ワーク・ライフ・バランスというテーマにおいて,ペパーという少年に,子どもが感じている葛藤を代弁させて,それに気づいてもらいたかったのではないかと思います。

大人は自分の生き方を,比較的自由に選ぶことができます。それは,他のテーマでも描かれていることです。しかし,子どもは自分の生き方を,まだ自由に選ぶことができません

そうした中,保護者がまずできることは,「子どもの声に耳を澄ます」ということなのではないでしょうか。結果的に,一緒の時間を過ごすことが難しくても,「限りある時間をどう過ごすか,一緒に決めていくことが大切」であると,心理支援を行いながら,日々感じています。

ポケモンSVは,ゲームという媒体を通じて,子どもを置いてゲーム(遊び)に没頭している人に,特にこのメッセージを届けたかったのではないかと思います。
(子どもがいないのに偉そうなこと言ってすみません … )


6-3. このテーマのまとめ

子どもの声に耳を澄まそう

大人に向けた,シンプルだけど,力強いメッセージだと思います。


7. ゲームとの付き合い方|プレイヤーに向けて


最後のテーマです。ゲームの全体のストーリーを通じ,僕がメタ的に感じ取ったメッセージです。最後のまとめとして読んでいただけたらと思います。


7-1. 仮想世界から現実世界へ

ポケモンSVは,ネモに焦点を当てた「チャンピオンロード」,ペパーに焦点を当てた「レジェンドルート」,ボタンに焦点を当てた「スターダスト・ストリート」の3つのストーリーから成り立ちます。

この3つのストーリーは,それぞれのキャラクターが抱える問題や苦しみが解決されるというという筋立てになっています。そして,そのストーリーに共通点があることに気づきましたか?

全て,「人(主人公)との関わりによって,問題が解決されている」ということです。ネモもボタンも,そしてペパーも,人と出会い,時間を一緒に過ごす中で,抱えていた問題や苦しさを乗り越えることができたのです。

もちろん,一人で過ごす時間も大事ですし,世の中には関わらない方がいい人もたくさんいます。だからといって,自分の世界に閉じこもっていても,どんどん苦しくなっていってしまうというのが,今の世界でもあります。


この時のBGMがあまりにも良すぎる

そうした中,「外に出てみよう。人と関わってみよう」と,ポケモンSVの製作陣の方々が言っているように思いました。最後の場面で,コライドンが,一人になろうとするペパーの背中を押す場面が,このメッセージを象徴的に表しているように思います。



©Pokémon. ©Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

こちらは,株式会社ポケモンの企業理念です。
ゲームは,「子どもだまし」だったり,「ゲーム依存」だったり,ネガティブに捉えられることが多いです。実際,そういったゲームがあるのも事実です。
しかし,ポケモンは,この記事で扱ったような,(教育的な)メッセージを発しながら,「ゲームという媒体から,現実世界を豊かにする」ことに挑戦しているコンテンツだと思います。

ポケモンと一緒に,もしくは,ゲームを置いて,現実世界の「宝探し」に出かけよう。このメッセージを,この記事の結びとさせていただきます。


7-2. このテーマのまとめ

ポケモンと一緒,もしくは,ゲームを置いて,現実世界の「宝探し」に出かけよう


8. 最後に


ここまで読んでいただきありがとうございました!
最後に,僕が読み取った7つのメッセージをまとめました。

①性について,自分を自由に表現できる権利がある。②いろんな仕事や働き方を自由に選ぶことができる。③いつでも学び直し,新しいことに挑戦することができる。④その人が抱える事情や背景にも,目を向ける必要がある。⑤適切な環境の中で,個性を輝かせることができる。⑥子どもの声に耳を澄まそう。⑦現実世界の「宝探し」に出かけよう。
おつかれさまでスター!


ポケモンという非常に大きな影響力を持つコンテンツには,今後もどんどんこのようなメッセージを発信していただきたいなぁと思います(勝手にメッセージを読み取っているだけかもしれませんが … )。
今作のストーリーは,子ども・大人問わず,多くの方に勇気を与えたと思います。

読んでくださった方に,新しい視点が一つでも増えたらいいなと思い,この記事を書きました。
それが僕からポケモンへの恩返しになったらいいなと思います。

では,またどこかで!

ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。


ポケモンSVの製作陣の方へ
本当に素晴らしいゲームをありがとうございました(勝手なこと書いてすみません… 勝手なこと書くのも考察の醍醐味ということで … )。
またひとつ,僕の宝物が増えました。


しがない|大学教員
@shiganai_1235
心理学に関する授業資料や研究に関する記事を趣味として書いています。また,定期的にこういった考察記事も書いていけたらなと思います!心理学に興味がある方は,ぜひフォローしていただけたら幸いです📕


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