見出し画像

人事のための面接ハンドブック⑪ 「条件」の伝え方と聞き方

『面接ハンドブック』では過去3回に渡って、人事から求職者に自社の「想い」「魅力」「事情」を伝える方法を書いてきました。

⑦までで書いた「応募者の話」を含めて、これでお互いについての情報を一通り交わし合ったことになります。

でも、実はまだ残っている大事な話があるんです。それが、給与をはじめとする「条件」のすり合わせです。

募集要項を踏まえて、実際にどのくらい出せそうなのか、もらえそうなのか。デリケートな話なので先送りしたくなりますが、ここも互いの期待値をきちんと調整しておくことが、後々のトラブルを避けることにつながっていきます。

(前提)安く雇いたい…の気持ちは捨てる

求人募集をする際、特に中途採用では、月収や年収に一定の幅を持たせているケースが多いと思います。「未経験者を想定して基本給20万円〜」としていても、「この人が来てくれるんだったら月40万円出してもいい」という場合だってあるでしょう。

募集要項にどの幅で記載するかは難しい問題ですが、その幅が広ければ広いほど、条件のすり合わせは難しくなります。働き手としては「少しでも給料が高いとうれしい」という気持ちがある一方で、企業としては経営を安定させるために「できるだけ人件費を抑えたい」という考えがあるからです。

人事も当然、会社としてある程度決めた範囲内で面接を進めていくわけですが、このとき前提として注意すべきことがあります。それは「なるべく安く採ろう」という考えを捨てることです。

きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、このマインドを持って面接に臨むと、応募者との「駆け引き」になりがちです。でも、そういった労使の立場で始まる関係性は、働くうえであまりポジティブには作用しません。

もしそこで「何だか安く扱われたな」といった気持ちが残ると、必ず後から不満やトラブルになって返ってきます。そうならないために、「低いほどいい」という発想を意識的に排除しておく必要があると考えています。

(1)面接を通じて、人事側の「想定額」を伝える

僕の場合、面接のラスト5分ぐらいをこの「条件」のすり合わせに当てるようにしています。ここでは仮に、上で書いた【基本給20〜40万円】で募集要項を打ち出していたとしましょう。

人事としてはまず、それまでの面接のなかで「この方だったらこれぐらいだな」という“落としどころ”を想定します。参考にするのは、自社の基準値と、社内を見たときの実績値

「今までのお話から、うちの基準に照らし合わせた場合、基本給はだいたい【27〜30万】ぐらいになると思います。◯◯さんのキャリアを踏まえて、例えば入社*年目の、このぐらいの社員と同等の活躍を期待したいからです」——などと、一旦人事から客観的な情報・想定額をはっきり伝えます

(ただし、社内比較をするときには、給与に「下方硬直性」があることへの注意が必要です。思ったほど成果が出なくても、正当な根拠を示さないまま基本給を引き下げるとトラブルになりかねません。

そのため、【最初は25万円スタートで、1年の試用期間を経て27万円に上げる】という提示をする方法もあります。)

(2)相手の「事実」を聞く

次に相手の話をヒアリングしていきます。このとき、主観的な情報である【希望額】が話の中心にならないようにします。【希望額】を軸にすり合わせようとすると、その通り添えないときにただ不満だけが残ってしまうからです。それはお互いにとって不幸でしかありません。

むしろ必要なのは、「今の収入」という客観的情報です。転職の際は『源泉徴収税額表』が必要になる旨を伝えれば、嘘をついて多めに申告されることも避けられます。

相手の実績がわかれば、自社の基準とを比べ、問題がなさそうかを確認し合います。賞与や各種手当、補助、保険まわりの条件などもここで提示しておきましょう。特に賞与などが業績に応じて大きく変わる(無しの年もあれば6ヶ月の年もある)など、不確定要素がある場合は必ず伝えることが大切です。

(改めて)相手の気持ちに立ってコミュニケーションを

実際に数字を出し合った結果、過去の実績より高くて喜ばれる場合もあれば、どうあっても以前ほどの条件提示ができない場合もあるでしょう。面接で大事なことは、それらを含めて譲れない部分を可視化し、期待値を調整しておくことです。

お金の話はデリケートなので、先送りしたくなる気持ちもあるでしょう。けれど、グレーのまま最終面接まで行き、内定とともに「いくらでお願いします」といきなり通知すれば、多くの場合で不満が残る。実際、そこに起因するトラブルをたくさん聞きます。

納得したうえで働かないと、いい仕事はできません。今回書いたことは少しテクニカルな話に見えるかもしれませんが、一番お伝えしたいのは「相手に気持ちよく働いてもらうには?」の視点を持つことです。客観的な情報をもとにしつつ、人事として丁寧な対話をしていただけたらと思います。


(第12回『面接の最後に』に続きます。)


北川雄士/Yuji Kitagawa

滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(TwitterFacebook

(編集:佐々木将史

しがと、じんじ。について

“滋賀ではたらく魅力を再発見する”『しがと、しごと。』プロジェクトの一環で運営される、ローカルで採用活動に取り組む人事担当者のコミュニティです。

※ 興味を持たれた方は、こちらのフォームからお気軽に問い合わせください。活動情報などをお送りします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?