人事のための面接ハンドブック⑦ 成功体験の「背景」を聞こう
どうして「この仕事がしたい」のか。何で「この会社なら活躍できる」と言えるのか。
人は言葉で感情や考えを表しながらも、実はその裏側に、自分でも気づけていない本心を抱えている場合がたくさんあります。
そんな前提を踏まえ、前回は面接で『志望動機』を探るときに、人事として気をつけたいポイントをお伝えしました。
続く今回のテーマは『過去の実績』。動機と同じく、表に出てくる現象の背景にまできちんと目を向けて、相手の本質を捉えられるようにしましょう。
すばらしい実績も「表層」でしかない
選考の過程で、応募者の実績を重視することは、中途採用で特によくあるケースだと思います。
相手の持つ力が、自社のどこで、どのように生きるのか。あるいは、どうやったらその人がパフォーマンスを発揮しやすい状況をつくれるか。過去の成果や成功体験から、きちんと見極める必要があります。
ですが、示される実績がわかりやすければわかりやすいほど、「目に見える結果」にお互いの思考が引きづられてしまうことも、人事は理解しておかなくてはいけません。
「過去最高の売上を達成した」
「MVPで表彰された」
こう言われるとつい自社でも同じ期待をしたくなりますが、環境や条件が整わなければ、好パフォーマンスを再現することは難しいでしょう。また、その人のモチベーションの在りかも、「売上」「表彰」など表層の言葉だけでは掴みきれません。
賞をもらえるから頑張った……という場合もあるでしょうが、逆にそこには特に興味がなく、「結果として受賞しただけ」の人もたくさんいるはずです。
事例:「オフィス移転」の成果とモチベーション
具体的に、ある方の実話を例にしてみます。
その人は以前の職場で人事の責任者をしていた際、オフィスの移転計画を任せてもらったことがありました。
レイアウトを考えるところから家具の手配まで、彼はこのプロジェクトに寝る間も惜しんで取り組みました。色んな本や雑誌から「これ試したいな」と思う事例を集めて組み合わせて、とにかく楽しかったと言います。
結果としてみんなが仕事しやすくなり、成果も上がって社内で表彰されることになりました。
——実はこの話、僕自身の体験です。では、面接でこれを単純な『実績』として話すとどうなるでしょう?
「オフィス移転に夢中になって成功させ、社長から賞をもらいました」。でも、僕は別にオフィス設計が好きだから頑張れたわけでも、表彰目的で成功させたかったわけでもないんですよね。
じゃあ、なぜうまくいったのか。
僕は他の何よりも、「今あるものに自分でアレンジを加えて良くする」とか「思いついたアイデアを実際の形にしていく」ことにすごくワクワクする人間です。実はこのときも、誰にも縛られずに、自分の企画を実行できたことがすごく大きかったんですね。
実はこのモチベーション、採用でも全く一緒なんです。「あれ?この切り口で採用戦略立ててる会社ないな?でも、やったらすごくおもしろそう」と新しい企画を見つけて実行しているときが、僕のパフォーマンスが一番高い状態になるんだなと感じています。
「なぜそうなったか?」をきちんと聞く
面接で『過去の実績』の話になると、応募者は「何か示さないといけない」と考えます。すると当然、目立つ成果からアピールすることになる。
このとき人事がやらなくてはいけないのは、「なぜその結果が生まれたと思いますか?」ときちんと聞いてあげることです。
そこで返ってくる回答は本当にまちまちです。「上司のサポートがあって」「仲間と協力し合えたから」「お客さんとのコミュニケーションがうまくいってたので」……。個人的な思いや社会的な意義なども含めて、何かしらその人の立ち返る場所や動機があったからこそ、成果や達成感が生まれたと考えられます。
これが掴めると、その人のエネルギーをどう解放させればいいか、イメージできるようになってくるんです。「じゃあ、こんなシチュエーションでもワクワクしながら働けますかね?」と別の比較条件を提示できれば、より確度も上がりますよね。
面接をしていく中で、時には相手が気づけていない本当の魅力に出会うこともある。だからこそ、応募者が語るエピソードの裏側をきちんと掘り下げられる存在に、人事がなってほしいなと思っています。
(第8回「自社の『想い』の伝え方』に続きます。)
(編集:佐々木将史)
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