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推しコピーから、言葉を考える。【プランナー 言葉の雑談vol.1】

わたしたちは日々、言葉を話します。

物事や感情に、あれでもない、これでもない、と言葉をあてはめて、相手に届けます。そのままちゃんと届くこともあれば、全然伝わらないときもありますが、それでも、それでも、言葉を紡ぎます。

SHIFTBRAINのプランナーは、そんな不確かで、でも不可欠な「言葉」を扱いながら、クリエイティブの芯となる企画をつくる役割を担っています。

業務からは少し離れて、言葉ということについて、考えたり、語ったり、遠くから眺めてみたり。そんな時間があっても面白いんじゃないかと、チームでnoteを始めることにしました。


プランナーチームのメンバーはこんなかんじ。

ジョン:人を褒めるのもいじるのも天才。テニスがすき。(今回は熱のため欠席)
うらかわ:日本寂しがり屋コンテストで3連覇。本がすき。
しばげん:酒の奴隷。写真がすき。
今泉:日本をうろうろしながら暮らす。キャンプがすき。
※社内の、他己紹介のコーナーから抜粋

申し遅れましたが、SHIFTBRAINプランナーの今泉です。第一回は、プランナーみんなの「推しコピー」を持ち寄って、あれこれと話をしてみようと思います。


今泉:ジョンさんおやすみでSlackでもらっていたので、ジョンさんのから見てみましょうか。

ひとりの商人、無数の使命。 (伊藤忠商事)
対外的な約束はもちろんなんだけど、それ以上に社員が奮い立つ言葉になっているのが好き。最近自分が思う、いわゆる「コーポレートブランディング」のお手本というか、理想のコピー。

一瞬も 一生も 美しく (資生堂)
まずレトリック的な話をすると「ずっと美しく」って言われるよりも100倍いい。あと、このコピーは資生堂くらいの実績と信頼と規模感があってこそ成り立つような気がしてて、だからこそ納得できるし、期待もしちゃう。フォントも、まさに美しい。

25年間 踏ん張りましたが、『ガリガリ君』を10円値上げいたします。 (赤城乳業)
謝罪ばっかりの世の中で、すごくうまい謝り方だなと思った。これで怒る人は0人だと思うし、むしろ10円多く払うからこれからもガリガリ君をよろしくお願いしますとすら思った。

大変申し訳ございません。まだ何もしてませんが、先に謝罪しときます。私たちは間違えます。 (WACK)
すごい謝罪の二つ目。本当は謝る気なんてないのかな?わかんないけど、個人的には今の謝罪ブームを嘲笑ってるように思えて、いかにもWACKらしいというか、我が道を行く感じがするし、次は何をするんだろうって期待を抱いてしまった。

今泉:選ぶコピーに個性が出そうですよね。ジョンさんのはプライドというか、強い意志みたいなものを感じます。面接のときから、ジョンさんとうらかわさんの違いとして感じてたことでもあるんですけど、やっぱりそのままそうなんだみたいな。

うらかわ:そうなんだ(笑)。

今泉:面接の時の課題でお二人それぞれに仕事観を伺った時、ジョンさんは「コピーを舐めるなよ」ということをおっしゃってたじゃないですか。うらかわさんがおっしゃっていた「人間讃歌」と対照的というか。

うらかわ:確かに。真逆かもしれないね。

今泉:その印象を、そのままこの4つのコピーに対しても感じました。何かとの約束、宣言みたいな、そういう感覚なのかな。

うらかわ:もう10年以上も前になるけど、僕がジョンさんと出会った時に思ったのは、抽象度が違うなということ。僕はどっちかというとマス出身だから、解像度が低いというか。ジョンさんのコピーは中心に何があるかを大切にしていて、その人たちの想いや意志を言葉にしていく感じなんだよね。血筋的なものもあるだろうけど、その人のキャラや何を見てきたかによっても違うじゃないですか。それが新鮮だったんだよね。


力強く引っ張ったり。やさしく後ろから支えたり。

今泉:やっぱり人によって全然違うんですね。

うらかわ:でも好きなコピーとかは似てるし、違いはあれど根っこは同じなんだろうなとも思う。

今泉:根っこというのは?

うらかわ:僕はよく「運動性」って言ってるんですけど......言葉で何かを定義したときに、運動力ができると思っていて。ジョンさんのはっきりした牽引力のあるちから。僕はどちらかというと後ろからものを押しているかんじというか。

今泉:ああ、わかるかもしれない。

うらかわ:大きな荷物を前に持っていく時に、前に立ってぐっと引っ張っていくときもあれば、後ろからぐぐぐっと押してく場合もある。その動かし方は色々あって、その手段が違うのかなって思うんですよね。

今泉:なるほど。運ぶもの自体は元から存在していて、言葉はそれをなんらかの方向に動かす最初の動力みたいなイメージなんですか?

うらかわ:僕たちの仕事では、言葉をつくった後に必ず何かをつくるじゃないですか。グラフィックだったり動画だったり、はたまた自分たちの預かり知らないところでそれを元に何かがつくられたりする。運動性があると、どっちの方向に動いていくかもわかるから、その後につくるものが迷わなくてすむんですよね。ある程度迷わないけど、自由度もある、だから僕は必要だなあと思います。

日常に生きる人々を動かすための、非日常。

今泉:仕事におけるコピーと、普段使っている言葉というものの違いはどう思います?

うらかわ:例えば看板とかになっていると、日常言葉には感じないよね。かっこいいこと言ってるなーみたいな。

しばげん:たしかに。句読点の使い方とかも独特ですよね。

うらかわ:学生のときに、笑う世間は鬼ばかりは面白いからみろって言われて、みたことがあったんですけど……日常じゃありえない超長台詞をずらずらずらずらーって喋るじゃないですか。日常の会話だと、ちょっと話したら「うんうん」とか、「それは」とかって相手も入ってきたりするから、最初は嘘じゃんって思ったんだけど、あれはあの長いセリフじゃないとできない心の動かしかたがあるんだろうなって思ったんです。

うらかわ:日常に生きる人たちの感情を動かすのに、日常的である必要はないというか。コピーは、句読点の数をあえて増やしたり減らしたり、リズムをとったり、極限まで省略するとか、多分パッとみた時の理解度の速さを大切にしていると思うんですよね。この形式をとるのが一番最適であろう、みたいな。

今泉:たしかに日常の中の言葉と、動かすことを意識したコピーはちがうものなのかもしれないですね。そもそもコピーって色々あるなあと思っていて。私は今回、広告的なコピーのほかに、詩とか曲の歌詞とかドラマのセリフとかそういうものもあげているんですよね。

うらかわ:うんうん。どんなのあげてるんですか?

思い出を脳の半分に入れなさい。
そこに閉じ込め、忘れなさい。
脳のもう片半分に
それを探させなさい。
(オノ・ヨーコ/グレープフルーツジュースより)

「泣きながらごはん食べたことあるひとは、生きていけます」
(坂本裕二/ドラマ「カルテット」より)

誰かの不機嫌も、寝静まる夜さ
バイパスの澄んだ空気と、僕の町
(キリンジ/エイリアンズより)

今泉:運動性とも近いと思うんですけど、私の記憶に残っている言葉って、身体的な質感みたいなものが広がるもののイメージで。固有の体験は厳密な意味では人と共有できないんだけど、ある言葉がキーになって同じ感覚が広がるというか。

そこにずっと、残り続けるもの。

うらかわ:去年コピーを教えてたことがあって。好きなコピーをあげてみようっていう課題を出したんですけど、その中で広告的なコピーライティングじゃないもの、例えば本の帯の言葉とかが入ってきてて。僕は、はっきり切り分けて認識していたので、意外だったんです。

うらかわ:なんでなんだろうなあってずっと考えてたんですけど、おそらく言葉の断片で残っていくもの、運動性が強い言葉、牽引されたり後ろから押されたりした言葉って、ずっと残っちゃうんじゃないのかなと。

今泉:残るというのは、その言葉をみた人の中に残るということですか?

うらかわ:そう、みた人の中に残る。それは商品の広告だったり、プレゼンテーションするための言葉だったり、物語を突き動かすための言葉だったりすると思うんですけど、その運動性がその人の中に入り込んで、その人自身を動かすための原動力になっているんじゃないかな

今泉:それは広告的なコピーだけじゃなくて?

うらわか:そうなんじゃないかなあ。

今泉:うらかわさんの中で明確に切り分けられてたというのは、どう切り分けられてたんですか?

うらかわ:広告で見た言葉しかコピーとは言わなかったんですよね。でも、ネットのコピーってどれがコピーなのかが判別できないなと思って。例えばYahoo!ニュースの見出しって短くまとめられているじゃないですか。秀逸なものも結構あるし。ここまでがコピーでここからはコピーじゃないって区分けするのはもったいないんだろうなって思いました。

今泉:人の中に残って、運動性を作り続けるものがコピーなんですかね?

うらかわ:そうなんじゃないかなあ、俺はですけどね。

シンプル。だから、強い。

今泉:うらかわさんの推しコピーも教えてください。

うらかわ:僕の好きなコピーライターさんは、岩崎俊一さん。 

年賀状は贈り物だと思う。
たった一枚の、小さくて、うすい紙。
それが年賀状です。
そこには何も入らない。
指輪も、セーターも、シャンパンも入らない。
でも、そこには、あなたを入れられる。
あなたの気持ちを、あなたの言葉を、
あなたの表現を入れることができる。
だから年賀状はすばらしい。
そう思いませんか。
大切な人のもとへ。
一年で、いちばん初めに届けられるプレゼント。
(郵便事業)

やがて、いのちに変わるもの。
人が泣いています。人が笑っています。
人と人が出会い、人と人が恋をし、結ばれ、
子供が生まれ、育ち、ふたたび新しいドラマが始まってゆく。
人は歌い、人は走り、人は飛び、人は踊り、
絵を描き、音楽を生み、壮大な映像をつむぎ出す。
食べものとは、そんなすばらしい人間の、一日一日を作っているのです。
こんこんと湧き出す、いのちのもとをつくっているのですね。
私たちがいつも胸に刻み、大切にしているのは、その想いなのです。
どこよりも安全なものを。どこよりも安心で、健康で、おいしいものを。
やがて、いのちに変わるもの。
それをつくるよろこびを知る者だけが、
「限りない品質向上」を目指せる者であると、
私たちは心から信じています。
(ミツカン)

うらかわ:抽象的なコピーが多いんですよね。ボディコピーがすごくうまくて。何がいいって文章が簡単なんですよね。文章を目で追っているときも、難しい漢字や言葉を使ってないから、突っかかりがないんです。抽象的だけど、運動性の部分で言うと幅が広いんですよね。言葉で『空間』を作っているというか。岡康道さんも好きです。

泣きたくて 30
S:南アルプス少女
祖父:あれ…泣いてんのか?
母:泣きたいのよ
少女:やーめた
祖父:終わったのか?
母:かんたんでいいな
NA:山の神様がくれた水、
サントリー南アルプスの天然水
(サントリー/南アルプスの天然水)

うらかわ:こんなのよくわかんないじゃないですか。でもしっかり読んでいくと無駄なことが一切書いてないじゃない。広いちからを感じるというか。そう言うのが好きなんだろうな。抽象的なものが好きなのはそういうことだと思うんですけど。

人を、信じてる。

今泉:言葉が一個の箱みたいなものをつくって、その中で、みんな好きなように、自由に遊んでねみたいなことですか?

うらかわ:そうですね……余白が大きいものが好きです。その後何か作るとき、余白になるということもそうですけど、読み手を信じているというか。

うらかわ:落語家の立川志の輔師匠が言っていることで、すごい好きだなと思うことがあって。「落語家ってのは大したことない。この芸術・芸能はみんなが持っている想像力があって初めて成立するんです、喋っている自分より皆さんの方がすごいんですよ」ってよく言うんですよ。それってとても聞き手を信用しているということだと思っていて。

今泉:相手を信用している……。

うらかわ:相手をちゃんと信用して、ある程度余白を作っていくことはすごく勇気のいることで。コピーも書きすぎちゃったりするんですよね、普通。それをしないと言うのは、理想とする物づくりのあり方だと思うんです。

感覚のzipファイルを解凍するような。

今泉:推しコピーの話から、どんどん違うこと聞いちゃった(笑)。しばげんさんどうですか?

しばげん:うらかわさんと通じるのかもしれないんですけど。コピーでいいなって思うのって、その場面が想像できるコピーなのかなって。

泣いたのは、わたし。泣き止んだのも、わたし。
(LUMINE ルミネ)

あなたの知らない服を着て、わたしは、元気でやっています。
(イーハイフンワールドギャラリー/クロスカンパニー)

しばげん:登場人物も勝手に想像して、どういうことがあって泣いて、どうやって泣き止んだのか、全て勝手に想像して、いいなって思います。僕、aikoが好きなんですけど、aikoの歌詞にもそういうのが多くて。

しばげん:明確に伝えたいものがある訳ではないのかもしれないんですが、想像力のある人が勝手に解釈していいと思っているかんじというか。だから、逆にそれがいいなと思った理由も説明しにくいですけどね。なんでこれがいいなと思ったかというと、自分の補完したストーリーも説明しなきゃいけないっていう……(笑)。

うらかわ:藤本タツキさんのルックバック読んでさ、あれはさ、強烈な物語の持つ運動性に引っ張られるよね。自分の中にある具体的な苦しかったこととか青春とか、何かをぐーって引っ張ってくるから。みんなそのエピソード込みで感想を言わないと伝わらない。それってすごいことだと思っていて。強烈にその人の何かしらを引っ張ってきていることだから。

今泉:感覚の解凍装置みたいな。言葉によって、今この瞬間は感じてないけどどこかにあった感覚的なことが、全部解凍されてインストールされるっていうか。

しばげん:こないだこのnoteの企画書書いてくれてたじゃないですか。「感覚のzipファイルを、言葉というパスワードで解凍する」、それすごいなって。

今泉:言葉自体はただの音の集まりで、本来の質感みたいなものは全然含まれてないはずなんだけど、その紡ぎ方によっては、なんかもうとんでもなくリアルな感覚が広がるのがすごいなーって思うんですよね。同じ言葉をみて、全然違う風景を思い浮かべることもあるんだけど、そこに伴っている質感は同じというか。

おわりに。

推しコピーを紹介し合いながら、言葉の持つちからみたいなことまで話が膨らんでいきました。みんなの色がでていて、おもしろかったなあ。

いつの間にかみんなを巻き込んで、ぐんぐん進んで広がっていく。
クリエイティブ慣性の法則。
そのいちばん最初のエネルギーが、コピーなのかもしれません。

また、みんなで話します。


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Illustration: Wataru Urakawa
Photographer: Gen Shibano


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