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【ハーブ天然ものがたり】サフラワー/べにばな


「自然のちからリスペクト」
魔術から化粧品、厨房から医薬まで。
所感まじりに綴る、ハーブ今昔物語。


柳は緑、花は紅


「自然そのまんま、人工的な手出しは無用でござんす」

天地のことわりがそなわっている、花鳥風月が織りなす色彩は、日本人の情緒を豊かに育んでくれるメンターだと思います。

柳は緑、花は紅、色は光の自己表現。
光は創造力によって降下し、分光して、まず初めに「虹」という色を創りだしました。

サフラワーの原産地はエチオピア説が有力で、ナイル川流域で栽培が盛んだったそうです。
地中海からエジプトを経由し、日本にはシルクロードを渡って5、6世紀に渡来したといわれています。
古くから紅色、黄色の染料として使用され、平安時代に栽培が盛んになり、口紅などに使用されてきました。

平安時代には末摘花すえつむはなと呼ばれていたそうで、ベニバナを摘むとき、茎の先端についた花を摘むことから呼称されたそうです。

源氏物語に登場するシコメ役の末摘花は、鼻が赤いという理由で命名されていますが、ベニバナは「くれなゐ」とも呼ばれ、若く美しい女性を象徴する花でもありました。

学名はCarthamus tinctorius
アラビア語、ラテン語由来で「染める」を意味することばです。

高さ1mほどに成長し、日本では6月に開花を初めて7月に見ごろとなります。
咲きはじめは鮮やかな黄色ですが、だんだんオレンジから、赤味を帯びていきます。

ベニバナに含まれる色素のうち、黄色色素は水に溶けやすく、赤色色素は水に溶けにくいので、水に何度もさらしては、赤と黄色の色素を分離し、最終的にのこった赤色色素の花弁にクエン酸の酸性液体などを少量混ぜて、さらに紅色発色をよくします。


粋筋御用達いきすじごようたしべに


時代劇などで目にする貝殻や陶器の小物入れにおさめられたべに
江戸のころ、ベニバナでつくられた口紅は、赤色色素の含有量が少量なので、かなり高価なものでした。
一刷毛分にベニバナ千輪が必要だったとか。

江戸時代に小町紅と呼ばれる、トップブランド口紅があったそうです。
もちろん一般庶民が購入できるようなしろものではありません。
御殿におつとめする女中さんとか、豪商家系の女性とか、花柳界の遊女たちとか、いわゆる粋筋いきすじの人々御用達ごようたしべに

良質なべには、容器の内側に紅を塗って自然乾燥させると、紅色ではなく赤の反対色である笹色(玉虫色)の輝きを放ったそうです。
それが目利きに使われる方法になりました。


色は人生のブースター


「色」という文字で表現される言葉はたくさんあります。

「色めく、色めきたつ、色をなす、色あせる、色をうしなう」
気分や感情の変化が手に取るように感じられます。

「色をつける、色目をつかう、色眼鏡、色事、色仕掛け、色好み」
贔屓や忖度、交渉、かけひき‥・まったくもって、人生は色々です。

「色男、色女、色情、色欲、色町、色っぽい」
セクシャルな側面を表現するのに、やはり色は欠かせません。

「色相世界、色即是空、空即是色」
この世もあの世も光からはじまり、分光して色になりました。

光は7つの色「赤、橙、黄、緑、青、紺、紫」へ、そして人が感知できる色彩表現となり、感覚や感情に知らぬまに作用します。
特定の色を目にした瞬間、互いにエネルギー交換をするような感じです。
例えばある感情や感覚を表現したいとき、特定の色を選んで気持ちを色と共鳴させる、なんてことを、毎朝の洋服選びでやっているのではないかな、と。

力強さ、押しの強さを表現する赤
潤い、フレッシュ、あたりの柔らかいオレンジ
太陽のように明るく、楽天的に広がる黄色
暖色ー寒色の橋渡し、調和、調整、異質なものを結ぶ緑
広く浅く公平な姿勢の青
専門的で深みのある紺
ラジカルで突破力のある紫


私たちの暮らす地球次元は二極化されていますから、光あるところにはかならず影があり、それは白と黒で表現されます。

白も黒もすべての色を総合したものですが、白は潔癖な完全性や純化された統合を示すので、神聖でありつつ排他的。
黒はすべてを飲みこみ、すべての色付けを消去するので没個性で黒子(くろこ)的です。

色にはとてもつもない影響力があると感じています。
特定の記憶と結びついて、個人的な感情を刺激することもありますが、それ以上に色の広がりや可能性を積極的に取り入れることで、ポジティブな自己催眠、自己ヒーリングも可能になると実感しています。


着る服や、シーツの色、絨毯、カーテン、家具の色。
いつも目にしている色は、わたしたちの基本的な感情を決定して、ビーコンのように、常になにかを発信し続け、色々な出来事を引き寄せては、人生に色どりを与えてくれる。
色は無自覚のうちに、気配、印象、人となりを作り出し、その雰囲気に、周囲の人は本能的に反応しているように思います。


黄金と同価値の紅(べに)


いまではサフラワーは、一般的なハーブとして広く普及していますが、平安時代には朝廷への献上品目のひとつ。
6世紀頃の古墳から花粉が出土されており、当時は黄金と同じくらい貴重なものでした。

BC2500年頃の古代エジプト遺跡から発見された麻のリボンの黄、または淡紅色の布は、ベニバナで染められたものとして確認されています。

2700年以上前のサッカラ遺跡からも、ベニバナの花弁と、紅色色素が出土しており、天然の染料として、また着色のための化粧料として、長い歴史があることを物語っています。

現在の主な生産国はインド、米国、メキシコ、アルゼンチンなどで、栽培の多くは紅花油(サフラワー種子油)の採取を目的としています。

日本におけるベニバナの栽培は、江戸時代に急速に発展し、最上地方(山形県)で栽培されたものの発色が良いと評価されたことから「最上紅花」として有名になりました。
明治以降、価格競争で輸入品にかなわなかったことや、合成染料の台頭により、栽培面積は減少していきました。

ベニバナの紅、藍のインディゴブルー、紫根のムラサキ、つゆ草の澄んだ青など、植物から生まれる色には、精油と同じで精霊のスピリットが宿っているように思います。
染め上げた布にはそのまま、日本の土地神様が宿るのかもしれません。


花も種子も、使いどころ満載です


サフラワーのドライハーブティは鮮やかな黄色で、血行促進によいとされています。
お味はあっさり系なので、ブレンド相手を選びません。
スープに入れて、色味を楽しむこともできます。

世界一幸せな国で有名になったブータンで、広く愛飲されているお茶、ツェリンマ茶にもベニバナの花弁が使用されています。

漢方では紅花コウカといって、血行促進、うっ血を取り除くときに処方されます。

キク科植物なので、アレルギーのある人には注意が必要ですが、血行促進作用がある生薬として日本薬局方にも収録されています。

ベニバナから作った生薬を身体のツボに塗る紅灸べにきゅうというお灸の方法もあるとか。
成分に紅花の記載があるものに、葛根湯、通導散、あと養命酒にも載っていたかと思います。

種子からは紅花油・サフラワーオイルが採れます。
リノール酸を多く含み、ポリフェノール成分も多様に含まれます。
血管年齢の改善効果によいとされるリノール酸やポリフェノールなどの研究も、日進月歩で進んでいます。
種子ポリフェノールのひとつ、クマロイセロトニンはとくに有名で、血管年齢を若くするサプリメントとして日本でも発売されています。

*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。

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お読みくださりありがとうございました。
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