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【5/24】気づいたら俺は何となく夏だった

 夜、明かりを消して布団に潜る。耳元でぷうんと羽音がする。湯上りの汗が首に張り付いてべたつく。だんだん掛布団に熱がこもってきて、息苦しくて足で蹴飛ばした。

気づいたら俺は何となく夏だった

  まだ5月じゃないか。GWだってついこの前終わったばかりだ。もう少し心地よい季節でいてはくれないのか。そんなつぶやきも空しく、ギャンギャンジャキジャキとギターが鳴り、脳内向井秀徳は喧しく叫んでいる。

 言わずと知れたスーパーバンド、ナンバーガールの透明少女である。その音は「喧しい」と形容するのが一番しっくりくるような気がする。地響きのように下っ腹にズンズン響くのではなく、内側から脳天を突き刺すようにして響く。しかし曲中で「俺」は夏に置いてきぼりにされてただただ傍観者でいる。夏の街は巨大な金属の塊であり、重く、鋭く、「俺」の周りを音をたてながら高速で回転している。少女はその回転する金属に巻き込まれているのではない。しかしだからといって、「俺」と同じように置いてきぼりにされているわけではなさそうだ。口元には軽く笑みが浮かび、涼しいとさえ感じている風だ。「俺」は汗だくで肩で息をしながら少女を見つめた。するとふいに少女がこちらに顔を向け、目が合った。頭がぼうっとして声が出せない。

透きとおって見えるのだ

 少女の実体が少しずつ金属の回転に吸い込まれるようだった。そしてついには消えていってしまった。少女は存在していたのだろうか。暑さのせいで見えた妄想だろうか。喧騒に圧縮された街はギリギリと音をたてていていつはじけてもおかしくない、といった様子だった。立ち止まった「俺」をよそに、金属の塊は更に回転を速めた。

 寝苦しさのせいで随分とポエミーになってしまった。外が明るくなったらいよいよ押し入れから扇風機を引っ張り出してこようかな。

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