金融の民主化と分権化—フィンテックCEO17名の粗削りなビジョン(前編)
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金融の民主化と分権化—フィンテックCEO17名の粗削りなビジョン(前編)

本日(2017年3月23日)、「成功企業に学ぶ実践フィンテック」(日本経済新聞出版社)が発売されました。メガバンクの社長や元金融庁長官が推薦し、元金融担当大臣が「あとがき」を書いていることに驚いて、本屋さんで思わず手を取った方も多いのではないでしょうか。

本書は、フィンテック企業を経営する17名(注)のCEOが自ら語るという点で、これまでのフィンテック書籍とは、まったく趣を異にしています。

(注)本の帯には「16名」と書いてありますが、注意深く読んでみると、実は17名であることがわかります。

 経営者17名(私もその一人です)が執筆しているため、やもすれば壮大なポジション・トーク(自らに都合のよう方向に導くことを企図した言説)に陥いるリスクが常にあり、本書はその点を割り引いて読む必要があります。

西部劇のように率直に語られるビジョン

 しかし、経営者17名が自らを語る姿は、アメリカの西部開拓の時代に、幌馬車一つで荒野に乗り込み、家族の生き延びる術を必死に探り出し、やがては村づくり、街づくりを必死で行う様にも似ています。大企業と異なり、スタートアップには資金も人材も時間もありません。余裕がないだけに飾ることなく率直です。

 例えば、オンライン決済サービスとEコマースプラットフォームを運営するBaseの鶴岡CEOが、世界のフィンテック界の巨人であるペイパルとの協業と関係解消の経緯を語る率直さは、一方当事者のストーリーであることを割り引いてもなお、読み手の心を打つものがあります。

 また、指紋認証によって現金をATMから引き出せるテクノロジーで知られるLiquidの久田さんが、一貫したビジョンを持ちながら事業をピボットさせていく様子も赤裸々に語られています。一見、華やかに見えるフィンテックですが、舞台裏では、企業ごとに無数のhard thingsが日々起きています。

「IoT―スマホのようにユーザーがアクションを行って主体的にサービスを利用するのではなく、より自然な環境で、センサーが能動的に情報取得を行い、サービスを利用していくことを意識せずに活用できること―の必要性を感じました。」(147ページ)
「アプリ開発は参入障壁が低く、生体認証アプリなどの開発を手がけそのまま続けた場合、自分たちの居場所がなくなってしまう可能性がありました。一方、要素技術は誰でも開発できるものではないため参入障壁が高く、年齢を重ねる中で自分たちの生き残っていく道は、要素技術開発にしかないと考えました。」(149ページ)

freeeとマネーフォワードのビジョンの違い

 また、日本のフィンテックを代表する企業として紹介されることの多い、freeeとマネーフォワードも、本書では創業者の佐々木さん(freee)と辻さん(マネーフォワード)がビジョンを率直に語っており、現時点での事業領域は重なっているものの、実は目指している方向がまったく異なることが明確に伝わってきます。

 「株式会社マネーフォワードは、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションを掲げています。我々のサービスを通じて、個々人のお金に対する悩みや不安が軽減され、夢が実現する社会を、さらには日本国内の「お金の流れ」が変わることで、より世の中が活性化し、新たなチャレンジを生み出しやすい環境づくりに貢献することを目的として事業を開始しました。」(76ページ)
「「スモールビジネスに携わるすべての人が、創造的な活動にフォーカスできるように」freee株式会社は創業以来このビジョンを掲げ、クラウド会計freeeを中心としたクラウドプロダクト群を中小企業・個人事業主向けに提供しています。」(本書231ページ)
「freeeはバックオフィス業務を自動化・効率化することで、スモールビジネスの本業へのフォーカスを支援していますが、そのスコープにはいわゆるファイナンスも含まれます。」(本書237ページ)

 このように、マネーフォワードがお金に関する「情報の集約と可視化」さらには「課題解決」にフォーカスしており、ファイナンスの領域での事業拡大を目指しているのに対して(本書84ページ)、freeeはスモールビジネスのバックオフィス業務(会社設立、経理、労務から内部管理まで)をクラウド化することによって、バックオフィスではなく本業に時間を使えるようにすることを志向しています。

 クラウド会計における双璧として知られている両社ですが、ビジョンが異なっており、5年後にはまったく異なるビジネス領域に展開している可能性が高そうです。

 また、プロダクトを比較しても、ビジョンの違いが、クラウド会計「freee」と「MFクラウド会計」のUI/UXの違いとして、すでに明確に現れていることに気付いている方も多いでしょう。「freee」は会計を知らない人にとって使いやすいように、「MFクラウド会計」は会計の知識がある程度ある人にとって使いやすいようにデザインされている印象を受けます。その違いの背景にビジョンの違いがあることは明白です。

今、この瞬間を

 このように、一口に「フィンテック」と言っても、創業者のビジョンは一人ひとりの人生や価値観を反映して、まったく異なります。そのようなビジョンがスタートアップ期に特有の粗削りなまま、赤裸々に語られています。

 数年すれば、フィンテックの黎明期は過ぎ去り、一人ひとり、より洗練されたコミュニケーションを身につけ、粗削りさは率直さと一緒に消えていくに違いありません。その意味では、まるでアメリカの西部開拓のような、今、この瞬間にしか聞けないフィンテック経営者たちの肉声を凍結・保存した本書には、当事者たちのポジション・トークをはるかに超えた大きな価値があるように感じました。(念のため、私も執筆者の一人であることを、もう一度申し上げておきます。)

 書評の後半では、本書のもう一つのテーマである、金融の民主化と分権化について、議論したいと思います。

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「誰もが安心して手軽に利用できる次世代の金融インフラを築きたい」という想いから、プログラミングを一から学び起業。働く世代向けに全自動の資産運用サービス「WealthNavi」を提供中。財務省→マッキンゼー→ウェルスナビ。 著書に『これからの投資の思考法』(ダイヤモンド社)