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「国際卓越研究大学」制度が、日本の大学の息の根を止める

 私がここに何か書く時はたいてい、怒り狂っている時である。今回もそうだ。冷静かつ客観的に考えると、私のような無名の一般人がここで吠えたからとて、何が変わるわけではない。

 しかし、吠えずにいられない。この危機的事態に、マスコミも含め社会があまりにも無関心だからである。何しろ今やニュースの半分は大谷関連。毎日、打ったの打たなかったのと大騒ぎである。現地には日本のマスコミが大挙して押しかけ、異常事態になっている。

 この国際卓越大学なる新制度によって、日本の大学は文字通り死ぬだろう。国は文学部を潰し教養課程を駆逐し、国立大学を独立法人化し、スーパーグローバル大学を選出して、大学をとことん劣化させてきた。

 笑ってしまうことに、国がグローバル化の名の下に大学の「改革」を進めれば進めるほど、日本の大学は劣化してきた。イギリスの教育機関が発表する大学ランキングで、順位がどんどん下がっているのである。東大さえ、アジアのトップ10からも陥落しそうな勢いだ。世界ではもはや50位くらいである。

 大学が独立法人化されたのは2003年、小泉政権時代である。独立法人化とは、平たく言えば「国の補助金をあてにせず自分で経営せよ」ということだから、大学には大きな負担となった。なぜなら大学は企業ではないからだ。

 さらに驚くべきことに、「投資で資産を増やせ」という指示もあった。私は当時、学芸大学の関係者と夕食をしたことがあったが、副学長はじめ教授たちがお金の話ばかりしていたのを覚えている。明日は銀行との打ち合わせだと言っていた。教育どころではない感じだった。

 また、教授会の力を弱め学長の権限を強めて、学長の一存で全てが決められるようにもなった。これは小中高でも行われてきたことである。これで大学の自治と民主主義は一気に弱まった。

 以後、大学への攻撃はどんどん強まっていく。安倍政権になってからはやり方が露骨になり、文学部や教養課程が圧力を受けるようになった。安倍元首相は勉強が大嫌いだったことで有名である。

 そのためか政策全般が反知性的で、大学の解体に熱心だった。要するに、すぐビジネスに結びついて利益を上げるもの以外には関心がなく、大学のビジネススクール化を求めたのである。

 稼げないくせに生意気で、政府に批判的な人間が育ちそうな文学部や教養課程など、邪魔でしかなかったのだろう。最悪だったのは、2012年に下山博文が文科大臣になったことだ。

 近年の日本では、知的な人間が文科大臣になったことがない。そもそも大臣と適性が無関係なのである。それにしても文科大臣の人事はひどい。

 下山博文は塾の経営者出身であり、この時期にベネッセなどの教育産業が文科省と癒着した。のちに大騒ぎになった大学入試共通テストの民間試験導入も、この時期に下地ができていたのである。

 次にスーパーグローバル大学だ。これも下村大臣時代に始まった。グローバル化の名の下に、英語での授業や外国人留学生を増やし、世界に出せる人材を育成するというものだ。これに選ばれれば補助金が増額される。

 聞いただけで恥ずかしくなる話だが、大学は必死になった。「授業の三分の一を英語でするように」する目的は、日本人学生の英語力を上げ、外国人留学生を呼び込むためだった。だが、どちらも見事にコケた。

  しかし国は暴走を続ける。そのトドメが今回の国際卓越研究大学である。これまた恥ずかしい命名で、こういう言葉を平気で言っている時点で失敗は目に見えている。しかも今回は身も蓋もないほど露骨に、「いますぐ役に立つビジネスチャンスを作れ」「とっとと稼げ」と言っているのである。

 4日、この国際卓越研究大学に応募したのは、東大をはじめとする旧7帝国大学を中心とする10校だと発表された。そういう大学に選りすぐりの大学に、「今すぐ稼ぐ」ことを求めるのである。もはや研究どころではない。

 そんな国の無理難題に、どうして名だたる大学が手を上げるのか。理由はただ一つ、お金がないからである。何しろ小泉政権に始まり、安倍政権で確立された大学「改革」において、大学に出す補助金は減らされる一方だった。

 独立法人になって、自分で稼ぐことを要求された国立大学はずっと苦しい。ついには、類人猿の研究で世界をリードしてきた京都大学霊長類研究所の有名教授が、研究費を捻出するために不正を行うという悲劇まで起きた。

 ノーベル賞を受賞した山中教授のプロジェクトもお金がなくて、いつも資金援助を呼びかけている。こんな馬鹿なことがあるだろうか。のみならずコロナ禍、和泉補佐官と厚労省の女性技官が山中教授の元を訪れて、補助金の打ち切りを通告していた。

 どうでもいいが、この二人は不倫関係にあり、通告後に手を繋いで清水寺を散策していたことがバレた。おかげで、山中教授への補助金打ち切りも明らかになったのである。

 こういう状況にあるため、大学は補助金が欲しくて国の言いなりになっている。国がアホらしい施策を打ち出す度に、振り回されているのだ。そして、いつの間にか日本の大学はすっかりおかしくなった。

 特任教授という、企業の寄付金で成り立つ講座を持つ教授が増え、グローバルだのビジネスだのと、まるでビジネススクールのような科目が目立つ。経費削減のため、私立は非正規の不安定な講師を大量に雇用している。

 早稲田でさえ非正規が半数を超えている。低収入で、来年は仕事があるかどうかわからない立場に置かれて、まともに研究ができるわけがない。大学の研究力は恐ろしいほど低下しているのだ。国際卓越研究大学の認定は、日本の大学没落を決定づけるだろう。ノーベル賞とも無縁になる。

 ちなみに、「今や私立の半数が定員割れで経営危機だ」と伝えられると必ず、「Fラン大学を潰せ」という声が出る。確かに大学の数は異常に多い。増える一方である。しかし、Fラン大学は少子化がはっきりしてから、文科省がどんどん認可したものなのだ。

 なぜそんなことをしたのか。おそらく定年後の天下り先確保のためだろう。少子化で大学が減れば、有力な天下り先がなくなる。だから少子化が進めば進むほど大学が増えたのである。何もかもが馬鹿らしくて話にならない。

 こういう大学の危機に、社会はもっと関心を持ってほしい。マスコミが伝えないのもおかしい。視聴率が取れないからか、政府への忖度なのか、その両方なのか。
 
 最後に、国際卓越研究大学を選出するメンバーの一覧を添付する。議長は岸田首相、あとは主に閣僚と財界人。アリバイ的に大学人が入っているだけ。





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