対岸の人が何を見ているかは、ほんと見えていないよね

社長の思いを聞く。納得する。そうだよね、そりゃ、と思う。
同じ会社の従業員の話を聞く。あ、それはそうだなあ、と思う。

その間にいると「どっちも間違ってない」けれど「どっちも間違っている」が起きている。それは通常モード。

とはいえ、わたしには社長の友人（１人企業から１００人規模くらいまでの範囲）がわりといて、ほっとくとそっちに引きずられる。亡夫も数十人規模の会社の経営者で、給与と社会保険の支払いに毎月発狂していたのをよく覚えている。さらにリクルート育ちなもので、そもそもが「おまえはどうしたいんだ？」「社員皆経営者主義」に毒されてもいる。だから、通常モードの私はいつも「で、自分が何をする？」とか「（社長がダメなら）そのことにどう関わる？」「わたしの影響の輪をどう広げる？」となりがち。危ない。変な人（笑）。

でも、幸いなことにそうじゃないつながりも山ほどあって、クライアントさんも違う視点を教えてくれて、だから意識して「…じゃないよ」と考える習性がある。じゃなかったらこの仕事はできない。世の中の大半は社長「じゃない人」なのだから。

でもね、従業員の側の人の不満や要望を聞いていて「たしかにそれはひどい」と思うときもあるけれど、「でもそれって、なんでそうなっているかはわからないんだろうな」と思う。もちろん逆もあって、社長の側の数々の不満や要望を聞いていると「わかるけどさ、でもね」とも思う。

溝は本当に深い。なのに溝があることをちゃんと認識していないのが、大半の人の状態。そして「こんなに困っていると伝えているのに、相手はまったく聞いてくれない」と思っている。

ところで、ちょっと話は飛ぶけど、Twitterをここ数日にぎわせている「学歴より経験で判断」っていうやつ（ご存知ない方もいると思うけれども、そりゃもう荒れている笑）。ある方が「日本の教育はおかしい」「学歴（のような表面）じゃなく、経験してきたことを評価していくべき」みたいに言ったんだそう（聞いてないけど）。で、大火事になっている。燃えている理由は「（ペーパーテストで測る）学歴は庶民が逆転できるチャンスがあるけど、（親の資金状況に左右される）経験は、もうどうしようもないということを、（主張している）こいつはわかってない」ということ。

「パンがないならお菓子を食べればいい」と言ったとか言われているマリー・アントワネット的な炎上かしらね。

これを発言した人がもしかしたら「対岸から見る風景」をまったく認識できていなかったのかもしれないね。多くの燃えてる投稿見ていると、ようは「（評価されるような）経験って、結局お金がなかったらできない。その経験を当たり前のようにできている側の人には、そんな経験しているゆとりのない家の人間が、唯一の逆転チャンスとして（頑張って勉強したら得られる）学歴ってやつを悪気もなく否定してくる」という主張だった。わからなくもない（それがすべてだとは思わないけどね）。

もっと丁寧に話せばよかったんだろうけれど、元ネタの方があまりにピュアに言ってる感があって「お前にはわからん！」みたいになっていて、元ネタの人は本当に何もわかってなかった（経験機会がない人っていう意味がわからなかった）んじゃないかなと、勝手に思っている。まああるあるだよね。こういう人の周りにはにたような環境の人ばかりだったりするから。

社長と従業員の溝はこれとちょっと似ている。
従業員には社長の気持ちは絶対わからない（わからなくて当然）。社長が給料と社保払うためにどれほど胃が痛い思いをしているか、雇用を守るためにどれほど頭を使っているか、業績が落ちたら自分が個人補償している融資が引き上げられ、自宅がとられて自己破産しなくちゃなんないんじゃないかってことに、どんなに胸を痛めているか、とかとかわからないと思う。大企業は別としても、中小企業の社長はすごくリスク取ってるから。

でも社長も従業員の感じている世界はわからない。昔はわかっていたかもしれないけど、もう忘れちゃっている。で、自分と同じように会社を大事に思って命かけて仕事してほしい、と思ったりすることもある（でもそれは無理なので自分なりにこのくらいはせめて、ってラインをもって見ている）。社長が命かけて事業を大きくすれば、その利益は（やりようによっては）社長のものになる。でも、従業員にとって会社は自分の所有じゃないから、忙しくてもうかっても、暇でそこそこでも変わらない。暇でそこそこで同じ給料ならむしろ、そっちのほうがお得だと思う人もいるだろう。悪くはない。それが立場の違いだから。

これは別に営業部と開発部、でも、本社と支社、でも、財務と新規事業部でも同じこと。ましてや自分とクライアント（営業先）であればなおのこと。

もし、あなたがなにかうまくいかない人間関係のなかにあって、どうにかしたいと思うのなら、それはもう、自分のとらえ方、感じ方を一度横に置いてみることからしか始められない。向こう岸にはどんな空気が流れているのかな、あっち側からこっちはどう見えるのかな、を自分から知りに行くしか方法はない。だって、ほんとうにあなたは相手の世界を「全然見えていない」んだからね。

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