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【邦画】PERFECT DAYS(2023)

監督:ヴィム・ヴェンダーズ
出演:役所広司、柄本時生など
上映時間:2時間4分

役所広司主演作品「PERFECT DAYS」鑑賞しました。ドイツと日本の合同制作で、カンヌ国際映画祭では役所広司が主演男優賞に輝いています。インドの「Red Lorry Film Festival」という海外映画祭で公開されいたので見に行きました。超満員でした!

東京のスカイツリーが見える下町のアパートで独り暮らしをする中年男性の平山(役所広司)は「THE TOKYO TOILET」という渋谷区のトイレを刷新するプロジェクトのトイレ清掃員として働く無口な男。毎朝夜明けに近所のおばちゃんのほうき掃除の音で目を覚まし、家で育てている植物に水をやり、自販機で缶コーヒーを買い、車に乗って古いレコードを聴きながらトイレ掃除に向かい、仕事を丁寧に行い、自宅に戻り、自転車で浅草に行き、行きつけの飲み屋で一杯ひっかけて、本を読んで寝る、といった生活を過ごしている。

トイレ清掃員として働くので、周囲にはよく思われないこともあるが平山はそれを気に掛ける様子もない。タカシ(柄本時生)というテキトーに仕事をこなす若者と一緒に働いており、彼に振り回されることも多々。でも仕事終わりに公園で木の写真を撮ったり、飲み屋で一杯ひっかけたり、本を読んだり音楽を聴いたりと、いいこともある。

ドイツ人監督ということで、ハリウッドやインド映画のような大きい動きではなく、静かに魅せるヨーロッパっぽい作品。特にカンヌに出品されるのが納得できる出来です。

この映画の凄いところは、「トイレ清掃員の日常の切り取り」に完全にフォーカスし、ドラマチックな脚色を一切施していないところ。平山の日常はルーティーン化されているので、映画的には伏線になりうるポイントがたくさんあるのですが、どれも伏線じゃないんです。それが平山の「日常」をリアルに表現しています。だって日常生活に伏線なんかないですもんね。

平山が無口であるというのもこの作品の特徴。平山のセリフは極めて少なく、彼から得られる情報はほとんどが「非言語情報」です。でも実は非言語情報こそが最もその人を表していて、言葉はそのサポートに過ぎません。だから演技は英語で「ACTING(行動)」なんですね。そういう意味でもこの作品は映画としてすごく理想的です。

これはすごく難しいことなのですが、それを実現させているのが役所広司の演技。いやはもう圧巻です。何も言葉を発していないのに、彼の思考や人間性は、言葉を介しているかのようにハッキリと伝わってきます。そしてそれらが凄く魅力的なんです!平山の役は日本広しと言えども、役所広司がベストチョイスであることは違いありません。

音楽も素晴らしい!毎朝仕事に向かう車内で平山がかけるレコードが、どれもセンスが良く、かつ平山の心情も見事に表しています。映画における音楽の重要性を再認識しました。

これは個人的なことですが、平山の活動場所が僕の東京での生活圏過ぎてアツかったです!浅草は2年ほど住んでいて、人力車も4年ほど引っぱっていました。銀座線の地下飲み屋街や桜橋など、思い入れのある場所が舞台になっていて、ノスタルジックな感情が起き、浅草の素敵な場所が引き出されているのが嬉しい気持ちで胸がアツくなりました。

インド人観客の反応もすこぶる良かったです。映画鑑賞後に拍手が起こるのは初めて見ました。笑いどころはしっかり受けていたし、みんな食い入るように見ている様子も印象的でした。日本人がスクリーンでインド人観客を惹きつけている姿には、心が震えました。俺もこうなりたい!!

「PERFECT DAYS」は浅草の下町で独り暮らしをするトイレ清掃員・平山の「パーフェクトデイズ」を切り取った映画。これこそがパーフェクトデイズなんだと、実感できます。個人的にはブルーハーツの「情熱の薔薇」の1フレーズを思い返しました。

「なるべく小さな幸せと、なるべく小さな不幸せ、なるべくいっぱい集めよう、そんな気持ちわかるでしょ」


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