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【邦画】三度目の殺人(2017)

監督:是枝裕和
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、満島真之介、吉田鋼太郎など
上映時間:2時間4分

「三度目の殺人」鑑賞しました。是枝監督初の法廷ドラマで、弁護士役には福山雅治、容疑者役は役所広司、被害者の娘役に広瀬すずと、このメンバーの時点で何かケミストリーが起こる気がしてなりません。

弁護士の重盛(福山雅治)は同僚の摂津に頼まれ、ある殺人事件の弁護を務めることに。その事件とは前科持ちの三隅(役所広司)という男が、出所後に働いていた食品工場の社長・山中を殺して財布を盗んだというもの。重盛は当初強盗目的の殺人ではなく、殺した後に財布を盗んだと供述させて罪を軽くする戦略をとる。しかし数日後、三隅は週刊誌に「社長の妻・美津江に頼まれて殺害した」と告白し、証拠となるメール文も公開した。それにより重盛は主犯が美津江であるという筋で攻めるように戦術変更する。

二度目の公判の後、殺害された山中の娘・咲江(広瀬すず)が重盛の法律事務所を訪れ、自分は山中から性的暴行を受けており、そのことを知った三隅が私を救うために殺したんだと重盛に伝えます。そして咲江はその旨を法廷で証言することを約束します。そのことを刑務所にいる三隅に伝えると彼は彼女の証言を否定し、さらには「自分は実は殺していない」と新たな証言をする。

過去に見てきた是枝監督作品の中で最高傑作かもしれません。サスペンス映画なのですが、ただのサスペンスではなく、とてつもなく重く深いテーマを取り扱っています。それはズバリ「人は人を裁くことができるのか?」つまりは「死刑制度」についてです。心に深く残る言葉が作中でいくつも出てきました。

「人を殺すことができない人間とできる人間の間には深い溝がある」
「世の中には死んだほうがいい人間がいる」
「人間の意思とは関係なく命は選別されている」

僕も現在稽古中の演劇で「死」がテーマの脚本に取り組んでいるのですが、「死」に関しては明確な答えはありません。なぜ死ぬのか?死んだらどこへいくのか?不明瞭だからこそ怖く、その不安を和らげるために「天国」などの宗教的死生観が存在しているのです。そんな経緯があるからこそ本来ほじくり返すのは怖いのですが、その問題に真っ向から挑んでいるのがこの作品です。

特に「死んだほうがいい人間なんていない」と言う部下の川島を重盛が否定するシーンで、グッと心を掴まれました。芸術作品はこうでなくちゃ。綺麗事なんかで終わらせていてはつまらないものです。このように観る側に考えさせる余地を与えてくれる作品、僕は大好きです。

重盛と三隅の関係性もおもしろい。まず重盛の父は元裁判官で、三隅が一回目の殺人を行った際に、情状酌量をして死刑にしなかった過去がある。重盛はそんな父に憧れて裁判官を目指すもなることはできず、今の弁護士という地位に落ち着いている。三隅も人の命を裁くことができる裁判官にあこがれを持っている。

そして二人とも娘がいて、重盛は仕事が忙しく娘と交流する時間を作れずに娘がグレてしまい、三隅の娘も犯罪者の娘として生きなければならない環境下で同じくグレてしまう。二人とも愛する娘の子育てに失敗しているのである。そして前述のとおり「死んだほうがいい人間はいるのか」という問いに対しても二人の意見は合致している。

このように二人には立場は違うものの大きな共通点がある。その共通点があってこそ、面会所でガラス越しに二人が重なり合う演出があるのです。あの演出は本当に痺れました。

十字架も興味深い。後に他の人の考察を読んでから見返して気づいたのですが、作中に十字架が三回出てきます。一度目は山中が十字架の形で焼かれた跡、二度目は三隅が買っていたカナリアの墓に十字架を作っていたところ、三度目は重盛の空想のシーンにて雪合戦をした後に雪に倒れ込む三隅と咲江の姿。

キリスト教ではイエス・キリストが人間の罪を背負って十字架にかけられて殺される場面がある。つまり十字架は「罪の象徴」である。三隅の空想とはいえ三隅と一緒に咲江も十字架の姿で倒れ込んでいるということは・・・サスペンスとしても実に面白いですね~。

演技面で言うとやはり役所広司。まさに怪演。特に面会所のシーンは毎回すごい緊迫感を演出しています。重盛とガラス越しに手を合わせるシーンなどは固唾を飲んで見入ってしまいました。何より凄いのは決して大声を張り上げたりしているわけではないんですよね。娘のことと咲江のことで感情的になるシーンはあったもののそれ以外は感情が緩やかです。それであれだけの緊張感が生み出せるってどういうこと??やっぱ役所広司という人間性や個人の経験値なんですかねぇ。

「三度目の殺人」は一瞬も目を離すことのできないサスペンス映画かつ、「人は人を裁けるのか」という重いテーマに取り組んでいる作品。観る側に考えさせる余地をたくさん与えてくれる、興味深い作品です。そして何より役所広司の怪演が光ります。

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