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性字家(せいじか)の偉業とは。

むかし小学校のクラスに「性字家(せいじか)」という職人がいて。

それは、無機質な国語辞典にいのちを吹き込む偉人だった。
性字家(せいじか)とはつまり、国語辞典でいやらしい系のことばを探し、その単語に蛍光ペンで線を引いている人である。
たとえば「乳房」とか「股間」とか「陰毛」とか、そういう類の単語たち。

性字家の日々は、授業中に1ページまた1ページと己の国語辞典にマーキングを続けていくこと。
その地道な積み重ねにより、無色透明だった国語辞典に鮮やかなマーキングが増えてゆきます。

何千にも及ぶページ数をすべてめくり終わり、数々のマーカーが引かれた国語辞典は、男子の間で辞典とは呼ばれていなかった。
もう聖典である。いや、性典である。

この性字家が施し(ほどこし)をした聖典、いや・・・性典を手にできた者は、授業中にあまりにも甘美な1時間を過ごすことができるのだ。

お分かりいただけるであろう。
そう、重要な部分にマーカーで線が引かれているから!
すばやく次の「性字」にたどり着ける仕様になっているため、漢字が苦手だった少年にとっても、次々と目に飛び込んでくるあられもない解説と、それを授業中に読む禁忌を存分に楽しむことができる。
これを耽美といわずして何を耽美というのか。

もちろん、小学生が授業中にマンガや雑誌を読むものなら叱られるのは自明の理。
しかし!
性典は、見た目が国語辞典なので。

はためには、国語辞典を読みふけるまじめな少年。
昨日まではよそ見ばかりして落ち着きがなかったわんぱく坊主が、おとなしく国語辞典をめくっているだけなのです。
「改心したのだね・・・」
当時の大人たちの心もきっと浄化されていたに違いない。

「次オレ!」「次オレね!」と性字家の持つ国語辞典が、未来の益荒男たちの間で奪い合いになったことはいうまでもない。

そしてこれは、goo辞書ではできないんだなあ・・・。

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