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【短歌日記】用の美と言うことにしてくれまいか 2023/06/18-2023/06/24

2023/06/18 「お父さん」じゃなく「おれ」と父は言う たぶんわたしが家を出てから

うたの日「俺」。

「お父さん」や「お母さん」を一番初めに自称するシーンも気になる。自発的に「お父さん/お母さん」と口に出すというよりは、周りの人々に「もうお父さん/お母さんなんだから」と言われる中で、知らぬ間に一人称も「お父さん/お母さん」に染まっていくのだろうか。今度帰省したら両親に聞いてみようと思う。

2023/06/19 踏まれつつ虚空を見てる餓鬼たちの気持ち味わう満員電車

うたの日「ガキ」。

仏像を観に行くと、よく四天王の足もとには踏みしだかれている餓鬼がいる。彼らはおおむね不満そうだが、妙にぼんやりした表情の者もいる。彼らにはある種「いる場所が定まっている」という安心感に似た諦念が感じ取れる。

互いの汗の匂いに顔をしかめながら電車に身体をねじ込む私たちも、「会社/組織に所属している」という安心感を得るためにそうしているのだろう。

2023/06/20 ハハにNOまぎれさすのをやめました頬の筋にも肉離れがある

「賛同します/しかねます」という意思表示をさらっとできるようになりたい。雑談が絶望的に下手で、もうこれは仕方ないと思うけれど、せめて曖昧な笑いに逃げ込まない強さが欲しい。


2023/06/21 午後五時に「ふるさと」歌うスピーカが立ってるここは辺境である

うたの日「辺」。

「辺境である」と言っておきながら、首都圏でも夕方爆音で童謡が流れる地域がある。我が家もその例にもれず、土日も休まずスピーカは稼働している。

休職していた頃はこの放送が本当に嫌いだった。穏やかな物悲しいメロディーとでかすぎる音量のミスマッチが、非生産的な一日を送ってしまった自分を責めているように聞こえたのだ。

今はこの音を聴くことも減ったが、家にいる日に聞くと憂鬱である。なんでだろう、強制的にノスタルジックな気持ちにさせられるからだろうか。

2023/06/22 Excelの最後の列まで跳ぶように横断歩道駆け抜けよきみ

うたの日「最後」。

Ctrl+↓で一気にセルをジャンプする時が、仕事をする中で一番単純かつ大きな喜びを感じる瞬間かもしれない。もちろん、複雑な交渉を上手くやりおおせた時などのほうが喜びの総量は大きいけれど、頻度と簡単さで言えばNo1だ。

2023/06/23 窯を出た若い皿らはちりりりと鳴きだす 殻を割る雛をまね

うたの日「殻」。青磁の皿は、窯から出されて冷めていく過程で表面に細かな傷が入り、水晶のような美しい表面になる。その傷が入る過程は本当に皿がちりちりと鳴るらしく、一生の内に一度は聞いてみたい音だ。

サントリー美術館「吹きガラス 妙なるかたち、技の妙」展を観に行き、古代ローマのガラス器に心を打ちぬかれる。もともと銀化して複雑な輝きを持つ古いガラス器が好きだったが、今回の展示ではガラスの造形の魅力に気づかされた。


2023/06/24 用の美と言うことにしてくれまいか口端よぎる銀歯のひかり

うたの日「用」に出すつもりが送信フォームに送れていなかった歌。悲しい。

歯医者に行き、銀歯を付ける。歯の噛み合わせ部分に空いた治療痕にはめ込む形だと思っていたら、まるまる1本分の表面を覆う立派なものだった。

歯を見せて笑うとやや銀歯が光って見える。なんか、舌ピアスみたいだ。若干恥ずかしいが、歯のレベルアップということにしておきたい。この銀歯は用の美を体現しています。

いっそ、赤とか緑がかったメッキを施してもらったらなにがしかのファッションを主張できるのではないか。ドクロのエンボスを入れるとか。


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