見出し画像

埼玉県営プール水着撮影会一律禁止の問題:性嫌悪フェミニズムと女性表現者の自由

埼玉県の県営公園で開催予定の複数の水着撮影会が会場都合で急遽中止となった。

中止発表が出る直前の6月8日には、日本共産党埼玉県委員会ジェンダー平等委員会と日本共産党埼玉県議会議員団が、埼玉県に対し、「「県営公園における過激な「水着撮影会」の貸出中止を求める申し入れ」を行っており、ネットでは、水着撮影会の中止はこの申し入れの影響があるのではないかとざわついている。

後出しルールで裁かれる・「わいせつ」扱いするのに理由は示さない理不尽

J-CASTニュースの記事によれば、指定管理者の埼玉県公園緑地協会は、県民からのメールをきっかけにTwitterなどを確認、県営公園での水着撮影会は「主催者が参加者をコントロールすることが困難である」と判断したため、2023年6月9日に一律で禁じることにしたという。
上記記事によれば、指定管理者の埼玉県公園緑地協会は、SNS上のイベント参加者の投稿に、モデルがマイクロビキニやそれに準ずる露出のある水着を着用する、過激とみなされるポーズをとっているなど、規約が守られていない事例があったとしている。

しかし、デイリー新潮の記事によれば、埼玉県公園緑地協会は、県民からのメールで確認した水着撮影会において、モデルが過激な衣装や過激なポーズをしていたことだけでなく、未成年モデルの出演もあったことが問題だったとしている。一方で、衣装やポーズの規定は今年1月、未成年の出演禁止は今年の6月に設けられたものだという。つまり、未成年モデルの出演に関しては、ルールがない時期の出来事を最近できたルールで裁いていることになる。
たとえ県施設のルールに定められていなくても、未成年のグラビアや水着写真は「児童ポルノ」になりうるとの声もあるが、未成年のグラビアや水着写真を一律に「児童ポルノ」扱いしてしまうことは、未成年の学内外での課外活動、趣味や余暇のふるまいを制限しかねないし、「自分の身体がわいせつ扱いされている」と、未成年自身の身体への自尊感情を傷つけることにもなりうるので、慎重になるべきだろう。

また、デイリー新潮の取材に対して、埼玉県に対し「水着撮影会」の貸出中止を求める申し入れを行った共産党埼玉県議会議員団事務局長は、

具体的になにがわいせつに当たるかについては事務局長が女性、記者が男性であることから「口頭でいうのはセクハラ行為にあたる」との理由で明言を避けた。

https://www.dailyshincho.jp/article/2023/06091810/?all=1&page=2 

という。具体的に何が問題かを指摘せず「わいせつ」扱いすることは、グラビアアイドルという仕事そのものへの職業差別に繋がる。女性をはじめ多くの人の仕事を奪い、自分たちは批判の論拠すら述べない上、なぜかセクハラ被害者のポジションを取るというのはあまりに無責任だ。
女性の社会進出やジェンダー平等を推し進める立場の人間が「女性は無責任」という負のステレオタイプを実践しているのではなかろうか。

グラビアアイドルやコスプレイヤーなど、複数の女性表現者たちも、急な決定で仕事が奪われてしまったことや、仕事に対する熱意、「性の商品」と批判されることへの心境、今年に入って急に衣装やポーズに規制が設けられたことへの憤りなど、様々な声を上げている。共産党埼玉県議会議員団の女性事務局長に、彼女らの声は届いているのだろうか。


さて、ここからは、埼玉県知事・大野元裕氏宛に、日本共産党埼玉県委員会ジェンダー平等委員会責任者である丸井八千代、日本共産党埼玉県議会議員団団長の城下のり子氏が連名で提出した県営公園「水着撮影会」の中止を求める申し入れについて、フェミニストの立場からその問題点を述べていこうと思う。

現在ネットでは、フェミニズム=性に否定的、特に萌えやエロいものを目の敵にしている人というイメージが強いが、フェミニズムは現在進行形で多様な立場、主義主張が展開されており、性的な「行動」や「表現物」に対しても「ラディカル」「リベラル」など流派の差異や、セクシュアリティ、宗教的背景の有無、性暴力被害や性産業にまつわる経験や立場の差異がある。「女性」という属性を持った集団をどのように捉え、快楽や主体性をどう位置づけるかなどの価値観の相違も大きく、歴史を通して絶えず内部対立や論争を起こしており、性に否定的なものばかりではなく、セックスワーカーやAV女優の権利を主張するフェミニストも存在する。

日本共産党埼玉県委員会:「性の商品化」を許すな

日本共産党埼玉県委員会ジェンダー平等委員会と日本共産党埼玉県議会議員団が埼玉県に宛てた「県営公園における「水着撮影会」について」と題された要望書は、城下のり子県議、山﨑すなお県議と丸井八千代ジェンダー平等委員会責任者、加藤宣子・加藤ユリ・高田美恵子氏らが参加し、梅村さえ子も元衆議院議員が同席し提出された。


日本共産党埼玉県委員会の抗議文書:赤旗で紹介されたときの見出しは「性の商品化」を許すな

主な要求は以下の3点

  • 「水着撮影会」へのしらこばと水上公園貸し出し中止

  • 県営施設を使用した「水着撮影会」が、これまで何回行われたか。未成年が出演状況。女性の人権侵害がなかったかの調査

  • 県施設の貸し出し基準改定(都市公園法や男女共同参画法に基づくものに)

要求の論拠としては、

都市公園法第1条には「この法律は、都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて、都市公園の健全な発達を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」とあります。今回の興業が都市公園の目的にふさわしいものとは到底考えられません。

県営公園における「水着撮影会」について

と、都市公園法を理由に中止要請を行った形となっており、「水着撮影会」を

水着姿の女性がわいせつなポーズやわいせつなしぐさで映っており、明らかに「性の商品化」を目的とした興業です。

同上

として、都市公園の目的にふさわしくない、公共の福祉に反するものとして位置づけている。
また、過去のイベントで未成年が出演していたことも問題視しているが、未成年の出演を問題視している割には要求の論拠とするのは児童福祉法などではなく都市公園法なので、論旨としては未成年のモデルを含め、「水着撮影会」を公共の福祉に反するものとして位置づける形になっている。

※補足・追記:
共産党議員は都市公園法を理由に中止要請をしたのは、抗議文書の頭では6月23・24 日に開催される「しらこばと水上公園」の「水着撮影会(近代麻雀水着まつり)」に対してのみだが、文末の申し入れにおいては、6月23・24 日に開催される水着撮影会に限らない「水着撮影会」への中止を求めている。結果的に、「近代麻雀水着まつり」以外、しらこばと水上公園以外の埼玉県営公園の水着撮影会(フレッシュ撮影会、ミスヤングアニマル撮影会etc.)も開催日直前で中止が発表され、大きな損失を出すこととなった。

「県営公園における「水着撮影会」について」と題された要望書の4つの問題点

私が、日本共産党埼玉県委員会ジェンダー平等委員会責任者である丸井八千代、日本共産党埼玉県議会議員団団長の城下のり子氏が連名で提出した要望書で問題だと思うのは、主に4点だ。

  1. 「わいせつなポーズやわいせつなしぐさ」

  2. 子どもたちの人権を守り、ジェンダー平等の立場で取り組んでほしい

  3. 県営施設で行われることで、このようなイベントに“お墨付き”を与える

  4. 明らかに「性の商品化」を目的とした興行

(1)「わいせつなポーズやわいせつなしぐさ」とはなんなのか?

まず、わいせつだからNGと言うなら、具体的な基準を示すべきだ。それなのに共産党埼玉県議会議員団事務局長は、デイリー新潮の取材で「具体的になにがわいせつに当たるかについては事務局長が女性、記者が男性であることから「口頭でいうのはセクハラ行為にあたる」」との理由で逃げている。
権力を持った人間が自らの行動や発言に責任を取らないで被害者ポジションをアピールすることは、男であっても女であっても同様に批判されて然るべきだろう。女性の社会進出にとってもはっきり言って「邪魔」である。

(2)子どもたちの人権を守り、ジェンダー平等の立場で取り組んでほしい。というけれど

未成年禁止というルールの是非はいったん置いておいておくとしても、結局要求しているのは「水着撮影会」への公園貸し出し中止である。
未成年が参加していないイベント、ルールを守って行っている水着イベントまで禁止するのはおかしい。ジェンダー平等でも、子どもたちの人権問題でもないし、「子どもの人権」という印籠で、気に入らないものを批判しているだけに見えてしまう。

(3)「県営施設で行われることで、このようなイベントに“お墨付き”を与える」というけれど

そもそも、公的な施設は「誰もが」利用・アクセスできることが重要ということを忘れてはいまいか。
例えば、「ホームレスが公園で寝ていて邪魔」「電車で赤ん坊の泣き声がうるさい」と思う人はいるかもしれないが、公共空間だからこそ、「不愉快」を理由に人を排除することは許されないし、そもそも「不愉快」と「被害」は根本的に異なるのだ。

(4)明らかに「性の商品化」を目的とした興行。というレッテル

「過去のイベントに参加していたモデルには中学生など未成年もおり、明らかに「性の商品化」を目的とした興行」というが、「未成年が参加していた」と「性の商品化」は、本来別の論点である。

そもそも、未成年の水着モデルを撮影することは「児童ポルノ」という解釈自体、法的根拠がないものなのである。先にも述べたが、未成年のグラビアや水着写真を一律に「児童ポルノ」扱いすれば、未成年の学内外での課外活動、趣味や余暇のふるまいを制限しかねない。
当たり前のことだが、未成年にだって自己決定権も欲望もある。未成年本人がどうしたいかということを無視して大人が勝手に「児童ポルノ」扱いすることは、未成年自身の自尊感情を傷つけることにもなりうるという想像力を、大人たちが忘れてしまうのはおかしい。

「性の商品化」という言葉の示す「商品」とは、マルクスの資本論において使用価値と交換価値の2つの性質を持つとされているものだ。マルクス主義フェミニズムは、マルクスが特殊な商品とした労働力における性差に目を向ける。女性の労働力は直接的な賃労働よりもケアや家事、育児といった労働力の再生産を担うことが多く、資本主義社会の中で経済力を持たないことで男女の格差や女性の従属性が維持されるというのは妥当な見解であろう。

「性の商品化」は、1970年代に勢いを持った第二派フェミニズム期に、主にラディカル・フェミニズムの中で提唱されたものであり、ポルノだけでなく、ミス・コンテストが、男女の権力格差がある中で男性と女性の非対称な力関係(男性=見る/女性=見られる・序列をつけられる)が可視化される、「差別の二重性」を象徴するものとして批判された。その他、商品を売るために女性の身体が使われることについても論じられてきたが、「性の商品化」という概念そのものを批判する立場のフェミニズムもあるのだ。

現代において、男女の権力格差は1970年代よりは是正されているし、水着撮影会は権力を持った男性によって権力を持たない女性が序列をつけられるものではない。水着撮影会には「性の商品化」として問題視された「差別の二重性」が存在していないのだ。
そして、女性の性を商品とすることそのものを問題視するのであれば、今後はアイドルや女優、声優など「女性性」が魅力・能力として評価される職業の女性も取締の対象とされていくだろう。

そもそも、萌え絵やコンビニエロ本、胸の大きなモデルやAV女優、そして今回はグラビアアイドルやコスプレイヤーの水着姿と、これまでに批判の対象はどんどん拡大していったし、批判の根底には特定の職業蔑視や女性が主体的に自らの性を操作することへの嫌悪のようなものが透けて見える。

「性の商品化」を許すな。というけれど

「性の商品化」というが、そもそも、資本主義社会で商品化されていないものはない。自らの保有する資本(性)を活用することを禁止することは自由権の侵害でもある。今回のケースには当てはまらないが、女性が自らの意思で愚行に走る自由だってあるはずだ。
さらに言えば、「フェミニズム」だって商品化されている。フェミニズムが出版業界において売れる商品であるからこそ、タワマンに住んで外車を乗り回し、「平等に貧しくなりましょう」などと上野千鶴子は言えるのである。マーケティングにおいても、「女性の自立と自己実現」を謳う手法は大人気だ。

キャサリン・ハキムは若い女性の魅力を「エロティック・キャピタル(魅力資本)」と位置づけ、経済資本や文化資本などを持たないマイノリティの武器になると提唱した。

「快楽であれ、仕事であれ、女性のセックスが暴力の言い訳にされることは許されない」という理念から、女性に対する性暴力やセックスワーカーへの差別、偏見に抗議するスラットシェイミング。
表現の自由と法の禁止機能に関心を寄せ、女性の快楽と主体性を論じポルノを擁護するセックスポジティブなフェミニズムもある。
現代の日本でも、AV女優や風俗嬢の労働条件改善や、差別や偏見の解消に向けて動く団体やフェミニストはいる。
共産党の政策は、「性の商品化」自体が、フェミニズムの中でも論争となった概念である歴史を無視しているのではないか。

最後に、非常に重要なことであるにも関わらず、しばしば忘れられてしまうのだが、
グラビアアイドルやコスプレイヤーを含めて、表現者は、表現を仕事に、表現で飯を食っているのだ。
表現者が社会と関わって表現し、飯を食っていく以上、不当な契約や危険な労働環境などから守られる必要がある。不当に仕事を奪われることは、女性の社会進出・社会参画を阻む以外の何ものでもない。


【お知らせ】
6/18(日) 『ジェンダーって何?』:「フェミニズム」は女性を代弁するのか?〜Colabo問題から考える〜というイベントに登壇します。

Colabo問題や性交同意年齢引きあげ問題、AV新法、性嫌悪のフェミニズムが公権力を持つことなど、渦中の問題について論じていきます。
興味がある人は是非ご参加ください!
https://peatix.com/event/3599809 

よろしくおねがいします!