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言葉にできない、そんな夜。#21[4/18放送分]

前回に引き続き、「言葉にできない、そんな夜。」というEテレの番組について書いていこうと思う。

なお、番組の詳細については下記からご覧いただきたい。

この番組では、上手く言葉にできない瞬間に当てはまる言葉を模索していく。それに倣って、私も番組内で話題になったシーンを自分なりの言葉で描写してみたいと思う。

※リアルタイムではありません。今回は第二章の3回目です。



1. 旅行から帰るときの、この気持ち

家に近づく度、旅先で新鮮になった私が、少しずつ日常に腐っていく。
窓辺の流れる景色を見ながら、ずっと旅先の私でいられたなら、きっと自分を好きになれるのに、とぼんやり思う。
けれど、浮き足だった私では混沌とした日常を捌ききれない。
だから、多分これでいいのだ。
これぐらいが、ちょうど良い。

たちばな朱音

旅先のリフレッシュした自分で常にいたいけど、日常をこなすのにはそうもいかないよね、という趣旨で描いてみた。

番組で紹介されたものでは、ノンフィクション作家・沢木耕太郎先生の描き方が印象的だった。

この船のうえで僕が感じていた物は、
安らかさではなく、
不思議なことに深い喪失感だったのです。
体が空っぽになってしまったような
むなしさが僕をとらえていました。
単純といえばこれほど単純な連想もないのですが、
空っぽになってしまった自分を、
東京のアパートに転がっているだろうウイスキー
の空瓶
のようなものと感じていました。

沢木耕太郎「深夜特急5―トルコ・ギリシャ・地中海―」

旅が終わるときは、どちらかというと寂しさや虚しさが大きくて、その辛さを的確に表していると感じた。
金原ひとみ先生が「東京のアパートに転がっているだろうウイスキーの空瓶」=旅に行ってなかった自分ではないか、と解釈していたのも面白かった。

また、向田邦子先生の表現も面白い。

帰り道は旅のお釣りである。
残り少なくなった小銭を
ポケットの底で未練がましく鳴らすように、
「ああ、終わってしまったなあ」
軽い疲れとむなしさ、わずらわしい日常へ
もどってゆくうっとうしさ。
それでいて、住み慣れたぬるま湯へ
また浸っていくほっとした感じがある。

向田邦子「小さな旅」

手持ちのお金で「旅」を買い、そのお釣りを帰り道に喩えているのが興味深い。住み慣れたぬるま湯に戻っていく、という表現もよくわかる。


2. 髪切った?と聞かれたけど切っていないとき

「髪、切ってませんが」
少しの沈黙。先輩は明らかに焦っている様子。私も助け船を出した方がいいだろうかと少し迷ったが、面倒なのでそのままにしておいた。
別に話を合わせてもよかったけど、それもなんとなく癪だ。どうしてこの手の話題って、話を振られた側がこんなにも気を遣わなくてはいけないのだろうか。

たちばな朱音

大抵「髪切った?」って言われた方が困るよね、という趣旨だ。
(番組同様短くしようと思いましたが無理でした……)

本テーマでのジャニーズWEST 桐山照史さんの回答には共感した。

好きだ!って気付けー

桐山照史 番組書き下ろし

「髪切った?」と聞くのは相手にある程度の好意を持っていたり、「仲良くなりたい」という下心を持っている場合が多い。
それが好きな相手であれば万々歳だが、大抵それを聞いてくる人間は好きでもない人間であることが多い。

その距離感をすっ飛ばしてくる相手に、どうしてこちらが気を遣わなくてはならないのだろう?と思わされることが度々あった。
そのときのなんともいえない気持ちを上記の文には込めている。


3. デートで好きな人を待つとき

待ち合わせまであと十分。多分まだ来ないとわかっていながら、見逃したら大変だとさっきから往来する人々にずっと目を凝らしている。
スマホの画面を何度もチカチカさせて時間を確認してみるものの、思った以上に時間の進みは遅い。
あなたに早く来て欲しいような、いっそ来て欲しくないような。
心臓がもうこんなに高鳴っているのに、あなたがほんとうにやってきたら、私は一体どうなってしまうんだろうか。

たちばな朱音

特に初デートやお付き合い初期の頃って、待ち合わせの時点でドキドキしすぎて逆にもう来ないでほしいとすら思ってしまう、という趣旨だ。

このテーマ全体がエモさ爆発でどの文も好きだが、特に金原ひとみ先生の書き下ろしが好きだ。

最終確認を五回経た髪の毛とメイクをもう一回確認したくてうずうずするけど鏡を見てる姿を見られたら最悪だから絶対見ないけどガラスとか鉄とかツルツルしたものがあったら目を凝らすけど待ったって聞く彼の目は三秒以上見れなくて。

金原ひとみ 番組書き下ろし

私はこの文の主人公がめちゃくちゃ可愛いな、と思ってにやけてしまった。
番組内で話題になった「待ち合わせはお披露目会を兼ねている」という話も興味深く、共感できた。
だからこそ、私達は待ち合わせの度に緊張するのかもしれない。


今回も物書きにとって想像を掻き立てられる良い番組だった。
明日は最新回について投稿したいと思う。

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