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言葉にできない、そんな夜。#20[4/11放送分]

前回に引き続き、「言葉にできない、そんな夜。」というEテレの番組について書いていこうと思う。

なお、番組の詳細については下記からご覧いただきたい。

この番組では、上手く言葉にできない瞬間に当てはまる言葉を模索していく。それに倣って、私も番組内で話題になったシーンを自分なりの言葉で描写してみたいと思う。

※リアルタイムではありません。今回は第二章の2回目です。


1. 初めて恋人を下の名前で呼んだときの気持ち

「みゆ」
彼女の名前を呼んだ瞬間、止まっていた時間が動き出した。その反動で、溜まっていた気恥ずかしさやら嬉しさやらが一度に押し寄せてくる。
「じゃあ、私も」
照れくさそうに僕の名を呼ぶみゆがあまりにも可愛すぎて、それ以外の全てがどうでもよくなった。陳腐な言い回しだけど、この瞬間だけでも本当に世界が二人きりになればいいのに、なんて大それたことを考えてしまった。

たちばな朱音

今回は小説風に書いてみた。
彼女の名前は番組VTRに準拠している。

番組内で紹介された中では、wacci 橋口洋平さんの書き方が好きだ。(前回も橋口さんのばかり紹介していたような……きっと橋口さんのワードセンスが好きなんだと思う)

「君の恋人」という役に
与えられた、最初の台詞。
会話の中で、出来るだけ自然に。
その役が一番似合うのは僕だと、
君に思ってもらえるように。

橋口洋平 番組描き下ろし

恋人としての役割を演じる一番最初の瞬間だったり、これまでの関係性には戻れなくなる瞬間だったりと、初めて下の名前を呼ぶ瞬間は何かを決定的に変えていく。
そんな甘酸っぱいノスタルジーに、我々は無性に惹かれるのだと思う。


2. ふらっと入ったお店が高級店だったとき

さっきまで魅惑的に踊っていたワンピースが
たちまち高飛車なマダムに変わってしまった

たちばな朱音

これも短めの文章にすることを心がけたが、またまた収めるのが難しい。

ゲストが挙げた中で一番好きなのはジャニーズWEST 桐山照史さんの書き方である。

格子なき牢獄

桐山照史 番組書き下ろし

自分が勝手にハードルを上げているだけなのに、なぜかお店から出づらくなるこの感じを絶妙に表していると思う。


3. 燃えるような嫉妬を感じたとき

彼女を見るたびに感じていたひりつくような胸の痛みを、ずっと見ないようにしてきた。
彼女はいつだって物語の主役で、私は脇役なんだから仕方ないと長年言い聞かせてきた。
ずっと蓋をしてきたそれは思った以上に化膿していて、自分にこんな醜い部分があったなんて、と笑ってしまうくらいひどかった。
けれど、心のヘドロに今更気付いたところで、それを原動力に頑張る気力はもう残っていない。
私は今日も、まるで何事もなかったかのようヒロインに拍手を贈る。
表舞台を歩く君へ、憧れと少しの憎しみを込めて。

たちばな朱音

幼なじみの華やかな女の子と、なかなかスポットライトが当たらない地味な女の子を想定して書いてみた。
番組で紹介された生方美久さんの書き下ろしも少し意識している。

良くいえば、憧れ。
悪くいえば、憎しみ。
正直にいえば、諦め。

生方美久 番組書き下ろし

印象的だったのは、三島由紀夫の嫉妬の描き方である。

それは本物の愛だった。
私は嫉妬を感じた。
養殖真珠が天然の真珠に感じるような
耐えがたい嫉妬を。

三島由紀夫「仮面の告白」

嫉妬こそ生きる力だ。
だが魂が未熟なままに
生い育った人のなかには
苦しむことを知って
嫉妬することを
知らない人が往々ある。

三島由紀夫「盗賊」

二つの表現が出てきているが、まるで違う質の嫉妬を扱っている。
前者は燃え狂うような嫉妬、後者は自分を高めるための静かな嫉妬だ。
実践はなかなか難しいのだろうが、後者のように嫉妬ともうまく付き合いながら生きていきたいと思わされた。


第二章の2回目も物書きにとって想像を掻き立てられる素敵な番組だった。
明日は3回目について投稿したいと思う。

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