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趣味の時間 | 美しき鉱物の世界


今回は個人的に形状や色味が美しいと感じた芸術的とも言える鉱物を厳選し、紹介していく。地球が生み出した自然芸術には、神秘を感じてやまない。

chalcopyrite

キャルコパイライト(黄鉄鉱)。通常のパイライトは鈍い黄金を呈しているが、米国スイートウォーター鉱山では、このような黄金色の上に紫を呈した美麗な発色のものが産出する。形状も美しく、こうした優れた一品は何年待ってもなかなか出てこない。鉱物標本として最高峰であり、いつまでも鑑賞者を飽きさせない魅力がある。

パイライトは「愚者の黄金」との異名を持つ。見た目が鈍い黄金色を呈していることから、愚か者が金との区別がつけられなかったことにちなむ。

antimony

アンチモン(輝安鉱)。一目見て、その形に釘付けになった。中国江西省に位置する武寧鉱山で産出した。アンチモン自体はさほど珍しい鉱物ではないが、このようなクロスした十字架型で自然に産出することは極めて稀であり、採掘者及びバイヤーも驚くほど滅多に出ない珍品である。

我が国日本もアンチモンの名産地として名高く、刀剣のような巨大な形状・サイズのものが、かつては多く産出した。そうした立派な刀剣型輝安鉱の一部は現在、英国が持ち帰り、大英博物館に収蔵されている。ちなみに、アンチモンは古代エジプトで粉末にして溶かされた後、アイシャドウとして利用されていた。これは呪術的な役割の他、日差し除け・ハエ除けの実用性も兼ねていた。だが、皮膚の炎症、かぶれを引き起こすリスクがあり、現在では化粧品としては使用されなくなっている。

calcite & sphalerite

カルサイト(方解石)&スファレライト(閃亜鉛鉱)。米国テネシー州エルムウッド鉱山産。犬牙状結晶のカルサイトがスファレライトの上に乗っている。ここまで綺麗な形状のものは珍しく、何年かに一度出会えれば幸運である。何事も一期一会だが、鉱物も同様で、一度逃してしまうと二度と出会えない。

写真ではこの美麗さが伝わり切らず、もどかしい。スファレライトは一部の個体は飴色を呈し、べっ甲亜鉛の異名を持つ。本固体も光で照らすと、美しい飴色を呈しているのが分かる。

selenite

セレナイト(透明石膏)。マダガスカル産。その名は、古代ギリシア神話に登場する月の女神セレスに由来する。女神のように清らかな透明感が美しい。セレナイト自体は凡庸な鉱物だが、濁りが少ない上、こうした綺麗な形状を持つ個体は珍しい。心を掴む、何年かに一度出会えるか出会えないかの希少個体。

聖母マリアのガラスの異名を持つセレナイトは以前から好きな鉱物なひとつだったが、不純物による濁りや黒い点が入った個体が多く、イマイチ満足できるものに出会えて来なかったので、こちらは大満足である。

goethite

ゲーサイト(針鉄鉱)。スペイン産。ゲーサイトの中でもレインボーアイアンと呼ばれる虹色を放つ個体である。ゲーサイトはフランクフルト出身の文豪・政治家ゲーテの名に由来する。ゲーテは地質学の造詣にも深かったことから、彼をリスペクトして命名された。

ブドウ状の地肌が特徴。この地肌が苦手な人もいるが、個人的には鉱物感があって好きである。ゲーサイト自体は凡庸な鉱物だが、ここまで美しい虹色を呈した個体はそう多くはない。発色はもちろん、形状も美しい。虹色を呈していても、色味が弱いものが多く、なかなかはっきりとしたものには出会えない。

fluorite

フローライト(蛍石)。英国ダイアナ・マリア鉱山産。イングランドの片田舎にあるダイアナ・マリア鉱山で採れるフローライトは、美しく深い緑色を呈することで知られている。2017年頃から市場に出回り始めた新鉱山産のフローライトである。

個人的に最も好きなフローライトがダイアナ・マリア鉱山産のものである。ダイアナ・マリアという、ダイアナもマリアもどちらも神話由来の名前が好きだし、この独特の深緑は他地域のフローライトからは味わえない。

ammolite

アンモライト。カナダのアルバータ州産。白亜紀後期に生息したアンモナイトの化石が長い年月をかけ、遊色効果を持った結晶に変容したもの。ロッキー山脈東側の7000万年前の地層からしか産出しないため、希少な宝石として扱われている。

大抵は赤黄色を強く発するが、本固体は珍しく青紫色を呈している。また、アンモライトの中にはドラゴンスキンと呼ばれる鱗のような地肌を持つ個体があり、それらは希少個体として扱われる。

islamic glass

イスラームグラス。イラン、アフガニスタンを中心としたイスラーム圏で出土する銀化ガラス。中近東の乾燥気候と地質によって生み出される神秘の化学変化。地中で何百年、何千年もの時を経た結果、こうした虹色の輝きを呈する。当時、ゴミとして捨てられたガラス片が現代で宝物になって蘇る究極の浪漫。

銀化ガラスにもランクがあり、発色の良いものは上位に位置づけられる。本固体は強い虹色を呈した個体で、観る角度、光の当て方によって無限の顔を持つ。かつての人々は井戸のような深い穴を掘り、そこにゴミを捨てていた。そのため、こうした銀化ガラス片はかつての居住区のゴミ捨て場から発見される。

鉱物は古くから人間の心を強く惹いてきた。古代人はその美しさに目の保養を求めたと同時に、神秘的な力を見出していた。鉱物にはそれぞれ力があり、役割があり、それらを状況に応じて使い分けることで、幸運を招き、不運を退けることができると信じられた。鉱物には、ひとつひとつ、いにしえの伝承が残っている。現在では鉱物に魔力のようなものはなく、それは古代人の妄想にすぎなかったと科学的に証明されている。確かにそうかもしれない。だが、人間は科学によって様々なものを解明した結果、自分たちの夢まで消し去ってしまった。それゆえ、今の世には潤いのようなものがない。時折、古代人の夢に付き合う感覚も、生きていく上では必要なのかもしれない。



*掲載画像は筆者私物を撮影。





Shelk🦋

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