マークの大冒険 フランス革命編 | Keys to Paradise 楽園への鍵
分岐ルートΦ:Keys to Paradise
In the case of the route of not returning the Amrash-Lings and the golden fruit to the gods.
フランス・パリ、コンコルド広場____。
「マーク、頼みがある」
マークたちの去り際、負傷して横たわるロベスピエールは、目を瞑りながら弱々しい声で言った。
「喋れるのか?」
マークは振り返り、地面に横たわるロベスピエールの方を見た。
「私は次期に死ぬ。だからこれをエレオノーレ・デュプレという娘に渡してくれないか。この期に及んで図々しいことは分かっている。私の遺書だ。いつ殺されてもおかしくないと思っていた」
ロベスピエールは、震える手で胸元から手紙を出した。
「キミの下宿先の家具職人の娘だな」
「ああ、キミは何でも見通しているように知ってるな。そう、デュプレ家の令嬢。私のフィアンセだ」
「分かった。彼女の元に届けるよ」
「ありがとう。キミはよく果実の力を見抜いたな。あれは人の心を見通す。キミのあの作戦は見事だった。だがな、私はそれで知ってしまったのだ。果実の力で、私のことなど誰も心からは尊敬も信用していなかったと。それで他人に対して私はより一層猜疑心を抱くようになった。果実の力で少しでも私に反感の心を持っていると感じ取った者は断頭台に送っていった。マーク、何でも知っていれば良いというわけじゃない。知らなくても良いことはある。知らない方が幸せなことも。今になってそれに気づいた。人の心を読める力など、地獄や牢獄と同じ。拷問でしかない、と。探究心の強いキミに対してできる、死を控えた者からのメッセージだ」
「ロベスピエール......」
「だが、エレオノーレだけは別だった。彼女は私を心から尊敬し、信じてくれていた。この革命騒ぎが落ち着いたら、結婚しようと思っていた。叶わぬ夢だった。彼女には申し訳ないことをした。なあ、マーク。私は邪悪な怪物だったのか?」
「誰にだって自分の内に邪悪な怪物を飼っている。ただ、それが表に出るか、出ないかの違いなんだと思う。それでも、キミは間接的であれ、人を殺し過ぎた。争いなんてくだらないと思わないか?結局、人には誰しも平等に死が待っている。敵や憎き相手を倒しても、そう近くないうちに自分にだって死が訪れる。それを知れば、人はもっと寛容になれると思う」
「私に足りなかったのは、寛容さか」
「ああ、キミが寛容さを持ち合わせていれば、あんな恐怖政治にはならなかったのかもしれない」
「果実を拾った次の日、ある人からこれを預かったんだ。使い道が分からずずっとしまっていたが、キミなら使い方を知っていそうだな」
「2本の鍵!?」
ロベスピエールが懐から取り出した鍵は、蛇の頭部を持ち手に飾り、鍵の芯にとぐろを巻いているデザインだった。
「これを誰に!?」
「名前は知らない。だが、全てを見通す賢者、とでも言うべきかな」
二人が話す中、彼らのすぐ背後から民衆の喧騒が聞こえてきた。広場での騒動が何事かと、野次馬たちが集まってきたのだった。
「さあ、時間だ。エレオノーレを頼んだ。私はここで政敵たちの迎えを待とう」
🦋🦋🦋
エジプト・ギザ、大ピラミッド____。
「イアルの2本の鍵をロベスピエールが持っていたなんてね」
「奴があいつに渡したのさ。だが、何を考えているんだろうなあいつは。何か企んでいるに決まってる。それこそ、俺たちを誘い込んでいるとしか思えない」
マークたちは、ピラミッドの大回廊の上部に位置する未知の間を歩いていた。暗闇の中をホルスが進んでいき、マークがその後について行く。
「やっぱり夜のピラミッドに忍び込むのは、何とも言えない気分だね。時間外に勝手に潜り込むなんて、本当はいけないことだしな。バレたら、めちゃくちゃヤバいことになると思う」
「知るか、人間が勝手に決めたそんなルール。俺の家のひとつに帰るだけだ。主人が自分の家に帰ることの何がおかしい」
「そういう問題じゃないんだよな。まあ、キミには人間の社会なんてどうでもいいことだろうが」
しばらく闇の中を歩くと、ホルスが立ち止まった。彼が魔法で火の玉を出すと、その光で目の前の巨大な扉が浮かび上がった。
「何だこれ」
マークは巨大な扉を前に驚きを隠せずにいた。
「これがイアルの扉。この扉は、二人でしか開けられないようになっている。扉の両方に鍵穴があるだろう。そこにこの2本の鍵を挿すのさ。お前はそちら側の鍵を回せ。二人で同時に鍵を時計回りに回転させるんだ。そうすれば、扉は開く」
マークは、片方の鍵を鍵穴に入れた。
「マーク、今から合図する。同時に回せ」
「分かった!」
マークとホルスは、鍵を同時に回した。すると、扉の隙間から眩い閃光が漏れ出した。ホルスが扉の両側を手の平で押すと、扉は重々しく開いた。そして、扉が開くと、彼らの目の前にはどこまでも続く美しい花畑が広がっていた。宙には花びらが吹雪のように舞っている。その光景は幻想的で、まさに楽園と呼ぶに相応しかった。
「これが、イアル?」
「ああ、小さい頃、親父に一度連れてきてもらっことがある。ずいぶんと前の話だがな。一部の人間は、死んだ後にイアルで転生する。その転生者を振り分けるのが、親父の役目だった」
「役目だった?」
「ああ。親父はいないし、もう誰も俺たちのことなんて信仰していない。だからイアルに転生する人間は今はいない」
「なら、今の人間はどこに?」
「知らん、他の場所に行くんだろうさ」
「その、天国みたいな世界は、ひとつじゃないのか?」
「まさか。どうしてそういう発想になる。国がいろいろあるように、イアルのような世界も数多くある。どこに転生するかは、どこの国で生まれるのかと同じようなものだ」
「そうか、そういうことなのか」
「お前ら人間は、本当に頭が硬いな。思い込みが激し過ぎる」
「電波も圏外。当然GPSでマッピングもできないか。コンパスの針も回転し続けていて極が定まらない。まさに異世界って、やつだな。それで、この花畑はどこまで続いているんだ?」
「終わりなんてないさ。宇宙が広がり続けているのと同じく、この領域も広がり続けている」
「それで、ボクらはこれからどうするのさ?」
「もう少し歩いたところに親父の別荘がある。そこで奴に関する情報が何か得られるかもしれない。いや、だがその必要はどうやらなさそうだな」
「え?」
「向こうからお出ましとは、手間が省けるぜ。だが、マーク、気をつけろ」
マークが前を向くと、遠くから人影がこちらに向かって来るのが見えた。亜麻の着衣にフードを被っており、その人物の顔は見えない。
「あれがキミが言っていた.....」
「ああ、そうだ。二千年ぶりの恨みを晴らしてやる」
Shelk 🦋
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