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マークの大冒険 フランス革命編 | タンプル塔脱出作戦

前回までのあらすじ
マークとフェルセンは、マリー=アントワネットが投獄されているコンシェルジュリー牢獄に向かった。マークはアムラシュリングとホルスの力で迎え撃つ番兵たちを次々に撃ち倒し、王妃の奪還に成功する。だが、マリー=アントワネットの子どもたちがまだタンプル塔に幽閉されている状態であり、王妃はこのままでは逃げられないと言う。マークは子どもたちを必ず救い出すと約束し、マリー=アントワネットとフェルセンにオーストリアへの亡命を促す。コブレンツに王党派の支部があることをマークから聞いた二人は、形勢を立て直すため同地に向かった。マークは二人がコンシェルジュリーから脱出するのを見届けると、ハヤブサの姿のホルスにまたがり、タンプル塔を目指した。


真っ暗闇の中、マークが倒れている部分だけがスポットライトのように照らされている。しばらくすると、倒れていたマークが目を覚まし、起き上がる。

「ここは?」

マークは当たりを見渡すが、周囲は真っ暗闇で遠くの方に僅かに青白い光が幾つか見えるだけだった。

「あれからボクは、確か身体が急に透け始めて、それで消えた。ホルスがボクの腕を掴もうと、叫んでいたような気がする。ボクは一度消えて、ここに来た?」

マークは、鞄から方位磁針を取り出し見つめる。

「コンパスの針がめちゃくちゃに回転している。凄い磁場だ。方角は全く当てにならないか。もしやここは地球の最深部、ハデスの冥界の最下層か?」

マークはそう言いながら、青白い光の方へと進んでいく。

「生界のものを死界には何も持って来れないはず。だが、リュックもアムラシュリングも手元にあるということは、ボクはまだ完全に死んだわけではないのか。ここのものを食べなければ、まだ生界に戻れる可能性がワンチャンあるかもしれない。ペルセポネが柘榴を一口食べてしまったようにならなければ。ハデスの誘惑には負けん。絶対に生きて元の世界に戻る」

マークはそう言いながら、拳を強く握りしめた。

「ハデスの冥界は幾つもの階層で構成されている。おそらく、ボクがいるのはその最下層部分。上を目指して地道に進んでいくしかないか。地上に最も近い最上階の出入口には、おそらくケルベロスが待ち受けている。凶暴なハデスの番犬をどう切り抜けるか、そこが最後の難所、鍵になる」




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「突然身体が透け始めて消えた。その感じだと、きっとハデスの冥界に迷い込んだのかもしれない。でも、あそこに入ったら二度と出て来られない。もう死んだも同然ね」

ウェスタは、やつれた顔つきでそう言った。

「ウェスタ、いや、ヘスティア、お前はハデスの姉だろう。何とかならないのか」

「ならないわ。死の領域は彼にしか司れない。それは私たち兄弟でも、オリンポス十二神でもタッチできないことよ。それと、ヘスティアはやめて。それは昔の呼び名だわ。今はウェスタと名乗っているの」

「すまん」

「あなたが死を覚悟して、マークを迎えに行くならどうにかなるかもしれないけれど。でも、可能性は極めて低く、ほとんどゼロに近いと思う。冥界は入るのは簡単でも、出るのは容易ではない。入れたとしても、出る時にハデスの愛犬ケルベロスが待ち受けているわ。あの番犬は一筋縄ではいかない。いくらあなたでも。生界を司る神であるあなたは、冥界ではきっと能力が発揮し切れない。正反対の属性の世界は、あなたにとってきっと相当のハンデになるわ」

「構わん。冥界の入口まで案内してくれ」

「本当に?」

「あなたは神々を、世界を敵に回すことになる」

「それで構わん。歯向かう奴は、全て薙ぎ払う。俺の前に立ちはだかる奴は、一人に残らず蹴散らしてやる」

「そう。あなたたちは似た者同士なのかしれないわね。不器用で、他者の忠告を聞き入れず、危険を顧みない」

「俺は、俺の道を行く。それだけだ。誰にも邪魔はさせない」



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「塔が見えてきた。ホルス、このまま突っ込め!!」

マークがそう言うと、ホルスはさらにスピードを上げ、タンプル塔の外壁に勢い良く突っ込んだ。

「これで敷地内で番兵と抗争する手間が省けたぜ」

「誰?」

目の前には、突然の壁の倒壊とマークの登場に怯えて硬直する少女がいた。

「マリー=テレーズ」

「どうして私の名前を?」

「マークなの?」

少女の隣にいたエリザベートが驚きの表情で言った。

「そうだ。キミたちが無事で良かった。さあ、早くここから逃げよう。だが、ルイ=シャルルはどこだ?」

「別の階。上の階にいるの。でも、鍵がないと階を移動できない。番兵たちにしか鍵は開けられない」

エリザベートが悲しげな顔で言った。

「大丈夫だ。階段はどこだ?」

「あそこよ」

エリザベートが階段の方を指差した。

「ありがとう」

マークは階段の方に走った。そして、アムラシュリングの力でいとも簡単に鍵を施錠し、扉を勢い良く開ける。

「え.......」

マークは目の前の光景に驚きを隠せなかった。そこには痩せこけて瀕死状態に陥るルイ=シャルルが床に倒れていた。

「酷すぎる。まだこんな幼い子なのに」

マークの後を追って付いてきたエリザベートとマリー=テレーズも、その光景に驚きを隠せない様子だった。

エリザベート
ルイ16世の妹。プロヴァンス伯やアルトワ伯がフランス革命の勃発と同時に国外亡命したのに対し、彼女は兄のルイ16世と共にいる運命を選んだ。亡命を選択していれば、彼女の命が奪われることはなかった。エリザベートは自愛に満ち溢れた天使のような人間だったが、王族ということで彼女もギロチンの露と消えた。彼女に死刑判決が下されたことは完全に間違っており、革命軍の暴走ぶりを如実に表しているものだと言える。有罪内容は、怪我人を助けたからという意味不明なもので、この時の革命派は王族を排除できれば、もはや理由などどうでも良かったことが窺える。

マリー=テレーズ
ルイ16世とマリー=アントワネットの長女。偉大なるオーストリアの女帝である祖母マリア=テレジアから取られた名である。マリア=テレジアのフランス語発音がマリー=テリーズである。マリー=テレーズはルイ16世の子でフランス革命を生き抜いた唯一の王女だった。タンプル塔の幽閉生活から解放された後、シャルル10世の長男アングレーム公ルイ・アントワーヌと結婚し、母マリー=アントワネットの祖国オーストリアに亡命し、隠居生活を送った。だが、自分の家族たちを奪ったフランス国民に強い憎しみを抱いており、次第に暴君的要素を見せ始めるようになる。

ルイ=シャルル(ルイ17世)
ルイ16世とマリー=アントワネットの間に生まれた男児。ルイ16世が断頭台の露と消えた後にルイ17世として即位した。だが、幽閉状態での即位であり、実質上統治権は何もない名目上の王に過ぎなかった。タンプル塔の護衛たちから虐待を受け続け、トイレもない牢獄で糞尿に塗れた不衛生な生活を送り、僅か10歳で衰弱死した。


「だいぶまずい状態だ。このままだと逃げ切れても死ぬか、逃げている間に死んでしまうかもしれない。早急に治療が必要だ。でも、ボクじゃどうにもできない。仕方ない。彼を救うにはタイムドライブで現代に連れて行くしか」

マークはそう言うと、腕時計のパネルを何やら操作した。

「エリザベート、ルイ=シャルルはボクが何とかする!キミはマリー=テレーズと共に逃げろ。ホルスに乗ってフェルセンとマリー=アントワネットと合流するんだ」

「でも、シャルルを置いて行けない!」

「この子はボクが必ず何とかする。治療が必要だ。このままの状態で無理に動かすのは危ない。キミたちはホルスに早く乗れ!もう時間がないんだ」

「分かったわ」

マークの剣幕に圧倒されたエリザベートは、マリー=テレーズの手を掴んでホルスの方に走った。

「ホルス、二人をフェルセンたちのところまで運んでくれ。そろそろ活動限界だと思うが、何とかギリギリ間に合ってくれ」

ハヤブサの姿のホルスは小さく頷き、エリザベートたちが背中に乗ると、先ほど壊して入ってきた壁の孔から勢い良く飛び出した。

「彼を運ばないと!」

マークは、ルイ=シャルルのところに戻ると彼を担いだ。

「もう少しだ。頑張れ。死ぬな!」

マークは、ルイ=シャルルを担いで階段を降りる。すると、目の前に何人かの番兵が立っていた。

「何の騒ぎかと思ったら、脱獄か!お前ら、あいつを捕らえよ!」

番兵のリーダーが部下たちにマークの逮捕を命じた。

「クソ、こんな時に!」

衛兵たちが突進し、マークを押さえ込もうとする。

「邪魔だああ!!」

マークは叫んで、アムラシュリングで出現させた盾で衛兵たちを吹き飛ばしていく。盾は倒れた衛兵たちを囲み、簡易的な檻のように組まれていった。

マークは壁に開いた孔のそばに付けておいたタイムドライブのハッチを開き、ルイ=シャルルを担いで乗り込んだ。

「発進!」

タイムドライブは飛翔し、ブーストすると虹色の光線を放ちながら空の彼方に消えていった。

タイムドライブ
航空機型のタイムマシン。マークの祖父メカ爺によって開発された。




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「メカ爺!」

「何じゃいきなり!」

「この子を今すぐ治療してくれ!」

「何時だと思ってる?夜中の2時だぞ!それに一体その子は、どこの誰だ?」

デスクの上で機械いじりをしていたメカ爺は、ゴーグルを上げると、苛立った表情でマークに言った。

メカ爺
マークの祖父。科学者で医師。過去と現在を行き来するタイムマシン「タイムドライブ」の開発者。


「ルイ17世だ。時間なんて分からん!さっきまで18世紀のフランスにいたんだ」

「はあ!?ルイ17世って、もしやルイ16世の子か?お前、何考えてるんだ!?あっちから連れてきたのか?」

「そうだ!」

「とにかく、だいぶヤバそうだな。早くせんと」

「助けてやってくれ」

「とりあえず、そこに寝かせるんだ。お前は酸素マスクを取ってこい!

「分かった!」

「ちきしょう、お前は本当にいつも厄介事ばかり運んで来るな。せがれが嘆いていた理由が分かる」


*せがれとはメカ爺の息子で、マークの父。マークパパは、メカ爺と同じく医師として活動している。



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「あと少し遅れていたら、まずかったかもしれない」

メカ爺がベッドで眠るルイ=シャルルを見ながらマークに言った。

「それで、どうするんだこの子を。もうこの子は、もとの時代のフランスには戻れんぞ」

「ボクの養子として育てる。ルイ16世と約束したんだ。家族は必ず何とかすると。マリー=アントワネットは、亡命に成功した。マリー=テレーズとエリザベートも。今頃コブレンツの王党派に合流して匿われてると思う。でも、彼は病気で動けなくて、それで仕方なく。こんなに小さい子を見捨てるわけにはいかないだろう?」

「だがしかし、どうやって面倒を見るんだ。簡単に言うが、いろいろな問題があるぞ」

「それでも何とかするさ。友との約束を果たす。この子は本来なら、あの場で死んでいた。死ぬのが運命だった。でも、だからといって、それを見殺しにするのが正しいことなのか?目の前に困っている人がいるのに、見て見ぬフリなんてボクにはできない。そんな人間に成り下がるくらいなら、人間を辞めた方がいい」

「ひとまず頭を冷やせ。そして、お前も休むんだ。これからのことは、それからゆっくり考えたらいい。何とかこの子は一命を取り止めた。今のところ、命に別状はない状態にまで回復している」

メカ爺は、腕を組みながらマークを諭した。

「彼は瑠唯(ルイ)と名付ける。瑠璃色のように輝く唯一の存在。綺麗なブルーの目とブルボン家の生き残りには、相応しい名前だろう?」


フランス王国 エキュ銀貨 1786年 ルイ16世肖像
フランス革命が起きる数年前に発行された一枚。
この時の彼は、まさか自分が断頭台の上で命を落とすことになるとは、露ほどにも思っていなかっただろう。



Shelk🦋

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