小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑦梅雨時の対処法-後編-洗礼を受ける
前の話↓
さて、二つ目の項目
"天敵ヒルの襲来"について。
ここに来るまでヒルと対面した事が無かった私は、ヒルがそもそもどんな姿をしているのかもよくわかっていなかった。
ここに来て2ヶ月ほど経ち豪雨が降った日の翌朝、川は増水し渡る事ができなかった。
「ちょっと探検してみるか。あっこから歩いて行ける道があるらしいねん。」
とシショーは言った。
探検とか言われると行きたくなってしまう。
雑木林というか、藪というか、まさに道のないところをズンズン歩いていく。
森の中を歩くのは案外楽しい。
ちょっとファンタジー感がある。
進んでいくと、工房の裏の林に着いた。
「お、ここを登ったらいけるんちゃう。」
雨上がりの濡れた草と湿った土、できることなら触りたくないが漏れなく靴は汚れていた。
「まあでもこんなところ、通りたくはないわな。はははは。」
シショーが川が渡れなくなった時はここを通ろうなどと言い出さなくて本当に良かった。
仕方なくその日は工房作業は諦めて事務作業をすることにした。
ふと自分の足元を見ると白い靴下が真っ赤に染まっていた。
ファンタジーに平和ボケしている私は、森を通ったので木苺を踏みつけてしまったのだと思った。
あ、いちごジャム…。
『いやこれヒルじゃん!!!!』
3秒後に気がついた。
これが初めてのヒルの襲撃。
私はこの時まだヒルの本体を見ていない。
自分の足が血だらけなのは、実はそんなに怖くない。
ただあ〜あという感じ。
幸い痛みも痒みも無かった。
それから二日程経ったある日。
首が痒いなと思って掻こうとしたら指に何かヌメっとしたものが触れた。
『ぎゃあああああああああ!!!』
私は手を全力で振り払った。
振り払った手から何かが飛んでいった。
満を時してヒルとのご対面である。
指は血だらけ、首も血だらけ、ヒルも私の血を吸いパンパンに膨れていた。
それが更に気持ち悪かった。
何より、この気持ち悪い得体の知れない物体が首についていた事が辛くてたまらなかった。
何故首に?どうやって?
考えたくもない…。
シショーが「ヒルがいたらシンナーをぶっかけろ!」と言っていたのを思い出した。
塗料用シンナーをビビりながらぶちまけた。
ヒルは小さく固くなったように見えた。
更に更に気持ち悪かった。
ヒルを撃退した私は小さくなったそれを焼却炉の中にぶち込んだ。
だってなんか生き返りそうだったから…。
怖かった。気持ち悪かった。
昼休憩前だったのに食欲は完全に失せた。
『もうやだ…、こんな職場…。』
埼玉で生まれ東京で過ごしてきたシティガールは泣きたくなった。
転職して2ヶ月、すぐにこんな山の中で逞しく生きていけるわけがない。
二度もヒルの洗礼を受けて、こんなところに来てしまったことを早速後悔するのでした。
続き↓
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