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俳句とラップがテクノになるまで。 【HAITEKUセルフライナーノーツ】

HAITEKUのセルフライナーノーツです。
まだ聴いてない方は👇ポチッと再生しながら進んでね。

さて、問題です。

「しあの声はどれでしょうか?」
一見インストゥルメンタルのようにも聴こえるこの楽曲。
実は一声目から歌っています。
!!!!!!「Very Important person」!!!!!!

今回の楽曲のキーワードとなっているのは「既存の概念の破壊」「再構築」。耳心地を意識した楽曲となっています。

「HAITEKU(ハイテク)」はしあのラップ、岩田奎の俳句、masunojiのコラボレーション作品です。この企画の発足の背景から、実際に楽曲に込めた想いまでそれぞれがどんな事を考えながら作っていたのか?各々の視点からお届けします!


ラッパーしあにとってのHAITEKU

しあ正方形

俳句ってナニモノなんだろう
奎ちゃんとは元から大学関係の友達でした。
俳句をしているとは知っていたけど、まじまじと作品を見たことはずっとなくて。11月に彼の作品が雑誌に載る!と聞いて興味津々で買って読んでみました。(今もkindleで買えるよッ)

彼の俳句の連作を見たときに思ったのは

なんとなく美しいと感じる!なんで美しいのかわかんない。音が心地よいからかな?あと漢字の並びが綺麗。
・奎ちゃんって普段から言葉遣いや比喩表現って良い意味で独特な世界観を持っていて不思議な魅力がある。(Twitterにも現れてると思うので、ぜひ彼のtwitter見てみてね。)その表現を助長してるのはきっと俳句だろう。

俳句って不思議!もっと知ってみたい!

それで、「俳句会に参加したい!」ってお願いして、俳句について色々教えて貰ってたら「コラボしましょうよ!」って言ってくれたことが発端。そこで、「俳句がビートだったらおもしろいよねぇ」なんて妄想も交えて話してたの。575の言葉の流れ自体に、ビートのループみたいなリズムを感じる!って思って。妄想してたらうずうずして来て、本当にやっちゃおー!となったのでした。


作品の裏側

ということで、「俳句をビートにする」というコラボプロジェクトが始まりました。最初に俳句を選定するときに意識したのは「1音目の子音」

絶えずの「t」、巴奈馬帽の「p」、紫木蓮の「s」、秋扇の「a」。重ねたらビートとして心地よい。俳句を俳句の意味も考えつつ「音としての俳句」と捉えていたという点です。多分、大学で言語学を学んでいたから自然と思考するようになってたんだと思う。(BIGUP川原先生です)

まず、奎ちゃんの俳句をレコーディングして、しあが子音を意識しつつ言葉を音として打ち込んでリズムを作りました。

masunojiとはよく作品を共作していて、なんか面白いものを思い付いたら送りつけ合うのが私達のスタイル。
そこで、しあが作った俳句リズムビートをmasunojiに送ったらいきなり魔法がかかって帰ってきて驚きました。まさに、私達が想像していた、「音として、ビートしての俳句」そして「破壊と再構築」の編曲がされた状態で!それが全体の方向性を決定的にするものとなり、そこから3人の共作が始まったのでした。

「既存の概念の破壊」「再構築」
一旦、整頓して作って、それを破壊する。繋ぎ合わせる。ラップではブレイクビーツといって曲の間と間を切り取ってループさせて1つのビートを作っていたという歴史があるのですが、それに近しいのかもしれません。1つの作品(俳句そのものや俳句リズムビーツ)があって、それを切り取ったり繰り返したりしながら違うもう1つを形成していくという再構築によりできた作品がこのHAITEKUです。

「破壊と再構築」は、音楽の構造だけじゃなくて私達自身のことでもあります。

しあのふんわりしたラップのイメージ、奎の普段の俳句の真面目なイメージ、masunojiの歌詞がない曲を作る人っていうイメージ…など、それぞれが本来持っているイメージに「?」を投げかける挑戦的なボールを投げたかった。

いろんなことを仕込みつつ、最終的に追っていたのは「踊りたくなるくらい音としてカッコイイか。」それだけなんだけどね。

リリック解説
さて、ここまで企画全体についてを語ってきましたが、俳句が練り込まれたビートが完成した時、すごく頭を悩ませることになりました。普通にラップを載せて録音するというのを何度も試みたものの、それでは俳句に押し負けるどころか埋もれてしまう。
そこで、「同じフレーズを繰り返しながらグルーブを作る。」ということを閃いたのでした。俳句が575で「言葉でリズムを刻む」ってのと「LOYALTY」を連続させるKendrick  Lamarの「LOYALTY」のサビが好きなところからパッとこれだ!ってなったのが、「Very Importan person」。


もともと、四季の繰り返しや、琵琶湖を想像していて「生命、循環」みたいなものがキーワードとしてあったの。

「あ、心臓だ」

って思った、人間でいうと。血を巡らせて、繰り返す。
最も重要な場所。「Very important …?」ってね。

「VIP」って特別な席を用意する時に使う言葉だけど、「Very important person」の略って知ってました?言われたらピンと来るけど、普段そこまで考えないよね。生まれながらにして、私達って本来みんなVIP!!!そう思って気づいたら、「Very important person」って繰り返し歌っていました。

“叩け身体中ねじれもっと
跳んでろずっと3年も
自分の存在蜃気楼 蜃気楼
逆立ち歩きして生きろ”

この4行がVIP以外で唯一の歌詞。
音通りの「踊れ!!!飛べ!」みたいな意味合いももちろんあるんだけど。
以下、作った時に書いた解説の原文。いくつ気づけたかな?
サイゼの間違い探し並に難しいと思う。

*ネジレモとサンネンモが琵琶湖にある水草
*自分の存在を、輪郭を自分自身を叩いたり跳んでみたりすることで肌感覚を認識して捉えるよう
*地球と接したり、離れたり、重力を感じたり
*蜃気楼は琵琶湖にも発生するということと、鏡で映る自分も光の反射とか云々で完全に本物じゃないということ
*ブレイクダンスの逆立ちと、発想を転換させて生きろよ~ってことと
*天候によって見え方が異なる
*また季節によって出会えるものが異なる

これからも、ずっと夏休みの自由研究をしてるっていうテンションで面白がりながら自分がつい好きになっちゃう曲を作り続けていきたいと思っています!

最後に、このビートを使って踊ったり、パフォーマンスをしたりすることは決して、決して…大歓迎です。
今作はYoutubeの収益化をこちらでかけません。

サブスクとダウンロードストア、どちらにも置いています。

ご自分のショーケースや動画作品に使用してYoutubeやtiktokにアップロードするのもWELCOMEです。

この時代、なかなかオフラインイベントで同じビートで体を揺らすっていうのは難しい。だからせめて、オンライン越しにでも同じ音の上にみんなで乗っかって楽しめたらと思います!

俳人岩田奎にとってのHAITEKU

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俳句って、意味? 
 こんにちは。岩田奎といいます。俳人です。
 「俳句やってるんすよね」あるいは「俳句好きなんすよね」というと、ありがたいことに「へーどんなの?見せて」と興味をもっていただけることが多いのですが、見せるとだいたいこういう第二声が出てきてしまうことになるわけです。「ふーん……どういう意味?」
 たしかに俳句は古い文法や仮名づかいを使ったり、季語のようなふだん日常会話で使わない言葉が入っていたり、字数の関係で極限まで表現が省略されています。そりゃそうだよね、というわけで、お互いに申し訳ない感じになることが多いのです。
 で、僕はずっと意味に囚われて、「俳句の意味がわかりにくいこと」についていろいろ悩んだりもしていたのですが、だんだんそれだけでもないんじゃないかと考えるようになってきました。逆にいえば、ゴールは「俳句の意味がわかること」なのか、ということです。ゴールがあるとすれば「俳句がおもしろいこと」なのではないかと。


意味じゃない俳句、と音楽
 というわけで、俳句の「意味以外」のおもしろ部分を考えてみると、「音」というのは重要な要素です。読んでいて気持ちいい句とそうでない句が自然にわかれてくる。a音の多い句なら明るく開放的な印象だし、nとかmのような子音が多いとなんとなく鈍い感じがする、というわけです。
 そんなときに、しあとコラボレーションの話になりました。僕のやる気スイッチが入ったのは、「句をリリックというよりビートにする」というアイデアが出てきたときだと記憶しています。「この音の意味ってなに?」と聞く人はいないはず。
そこでmasunoji(ますさん)の出番です。僕らの思いつきがビートの形になって出てきた時にはびっくりしました。ここではじめて、意味を破壊したうえで純粋に素材として俳句を使ってかっこいい音楽ができている、という手応えを得ました。

とはいえ、もちろん意味(状況)もある
 とはいえ、俳句にはもちろん意味があります。意味というより、「描かれている状況」ですね。そこに作者なりのメッセージみたいなものが乗っていることは少ないかもしれないけれど、すべての句には状況が存在するわけです。その点、俳句というのは写真とか数秒間の動画みたいなものだと思ってもらえればいいかもしれません。
 というわけで、今回の4句は、状況の統一感を大事にして選びました。同じ画角に全部の句がおさまりうるように、つまり春夏秋冬それぞれの時期に同じ水辺に立って同じ角度で岸と水と空を撮影した数秒間ずつの映像を流しているイメージで選んだわけです。季節も年ごとにループするものだし、この句群も同じ場所でループしている。状況としても、不可逆で急な動きというのはひとつもなくて、ずっとぼーっと繰り返されているような動作のものを選んでいます。
 個々の句の「意味」の説明はしませんが、ここにその4句を載せておきます。「ああ、たしかにそういう音を声にしてるなあ」くらいの感じで聴いていただければと思います。

紫木蓮全天曇にして降らず
巴奈馬帽雲がながれてゆく無音
秋扇雨の水着を遠く見て
絶えずかいつぶりぶつかる杭一つ

実はHIPHOPで俳句を始めた

 じつは中学生のとき、高校生ラップ選手権にどハマりして、そこから一時期HIPHOPにのめりこんでいました。

 出場者だったHIYADAMさんのインタビューを読んで、「ラップを始める前は連歌みたいな遊びをしていた」と知ったとき、頭の奥になにか鈍く閃くような感覚があったのを覚えています。

 入った高校には「俳句部」という変な部活がありました。毎年8月に松山市で開催される「俳句甲子園」というイベントに参加するのが活動の一番の山。俳句甲子園では5人1チームになって、相手チームの句に対して質疑を行います。disとまではいかないけれど、かなりバトル要素の強い即興マイクパフォーマンス。「MCバトルに興味あったけど、俳句甲子園ってこれMCバトルじゃん!」ということで入ったのがきっかけです。(変な話、「サイファー部」とかがなくてよかった)。


(俳句甲子園の動画。高校時代の僕もしゃべっています)

 俳句ももちろん小節の中にどう言葉をはめ込むかという遊びですし、一方で連衆を重んじる座の文芸と言われます。勉強すればするほど、ライムにあたるもの、フローにあたるもの、フッドにあたるもの、レーベルにあたるもの……と俳句とHIPHOPの共通点が見えてきたのもおもしろいところでした。

 今回のしあとの発起も、そういう根底に流れているものが近いと感じたから一緒に世界を作りたいと思ったのかなと思います。「音の連なりとしてなんかかっこいいorおもしろい」という、音楽と詩のシンプルな原点で楽しんでもらえたらと思います!


HAITEKU

作詞:しあ 俳句:岩田奎 
アートワーク:しあ

Very Important person
VIP

絶えずかいつぶりぶつかる杭一つ
紫木蓮全天曇にして降らず
巴奈馬帽雲がながれてゆく無音
秋扇雨の水着を遠く見て

叩け身体中ねじれもっと
跳んでろずっと3年も
自分の存在蜃気楼
逆立ち歩きして生きろ

アーティストプロフィール

しあ
2016年に友人とラップで日本一周、2017年より各種ラップバトルに出場。(戦極女帝杯,AbemaTV「CINDERELLA MC BATTLE ,NHK総合TV「ヤングラップバトル 〜Bring the Beat!〜」等)現在は、インディペンドアーティストとして活動中。2020年に3rd single「巡る時の中で」がApple music Hiphopジャンルの「注目トラック」に選出された。また、2019年にはドワンゴN高等学校でラップの外部講師を勤め、2020年には「ラップで磨くことばの力」という慶應義塾とICU合同のHIPHOP×言語学のイベントを運営に携わる等、音楽以外の活動も広く行なっている。
Twitter🐣sheer_jp / instagram📸sheer_jpHomepage

岩田奎
俳人。2015年に作句をはじめる。2017年、第20回俳句甲子園(全国高等学校俳句選手権大会)にて団体優勝・個人最優秀賞。2018年より同人誌「群青」所属。2020年、「赤い夢」にて第66回角川俳句賞を史上最年少受賞。ほか第10回石田波郷新人賞、第6回俳人協会新鋭評論賞など。また、短詩をモチーフにした演劇『ぷろうざ』(東京はるかに)への参画など、現在は俳句というジャンルの垣根を超えた表現をも開拓して活動中。
twitter🐥ii_tawake

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