見出し画像

『少年が来る』を読み、5月の光州に思いを馳せる

1980年5月の韓国、光州民主化抗争を題材にしたハン・ガンさんの小説、『少年が来る』をやっと読み終えました。いつから読んでいただろう。辛い描写が読み進められなくて、だいぶカバンの中に入れていた気がします。

帯には、こう書いてありました。
「鎮魂の物語」と。
魂を鎮めるとはどういうことだろう?多くの人の命がいっぺんに、それも不条理な形で失われた時、その魂は、やはり鎮めてあげなければいけない”存在”なのだろうか。

読み終えたいま感じているのは、不条理に亡くなった人たち、残された親しい人たち、ざまざまな傷を負って生き延びた人たち、その全ての人たちが感じて、抱え続けている痛み、その”痛みのカケラ”が自分の体内に確実に入ってきたということです。
そして、その”痛みのカケラ”を持っていれば、同じようなことが起きようとした時、子を失ったお母さんたちが取った行動のように、バスについていった女性のように、わたしは<そちら側>を選べるのではないかと思うのです。

「悲しい」という言葉が陳腐に感じられます。
「残酷だ」という言葉では足りなく感じます。
光州事件は、そしてまだ世界で沢山起きている数多の”光州事件”は、語る言葉を失わせるくらいむごいものです。

その言葉にならない出来事を、時に狂おしいほど優しい筆致で包んで表現することで、彼らが守り抜こうとしたものの尊さや、人間が一瞬にして魔物のようになってしまうことの恐ろしさが際立って伝わってきます。

5月18日
光州の気温はどんな感じなんでしょう。
日本の5月と同じような感じでしょうか。
青い空と新緑が綺麗でしょうか。
空気はどんな香りがするでしょうか。
その美しい季節すら目に入らないほどの苦しみを抱えている人がきっと今もいることでしょう。
そのことを私たちは心に留めておかないといけません。

”鎮魂”という言葉がイメージさせるのは怒った魂、悲しい魂ですが、彼らはもう荒ぶっても怒ってもいないんだろうなと感じます。失われてしまった彼らは。
むしろ残された人たちの魂を鎮める物語なのかもしれないなと感じました。

誰も私の弟をこれ以上冒涜できないように書いていただかなくてはなりません

ハン・ガン『少年が来る』P.266

そう伝えた残された人の魂が鎮まるように、大切に書かれた物語でした。


(余談)
BTSを好きになっていなかったらきっとこの本を読むことはなかっただろうな、と思っています。
光州事件のことも恥ずかしながら知りませんでしたし、多分、知っても近くて遠い隣の国の少しだけ昔の事件、というくらいの認識だったでしょう。それが、大好きなグループのメンバーであるJ-HOPEさんの故郷である光州、というだけでグッと近くに感じたのです。
彼らの魅力の一つは、SNSの活用や率直な歌詞などでその存在がとても身近に感じられることだと思うのですが、それがこういう作用をも及ぼすとは思いませんでした。

彼らが心に留めていること、関心を寄せること、それが自分のことのように感じられるのです。
”発信力が強い”と言えばそうですが、彼らにはそれだけじゃない何かがありますよね。
「一緒にこの問題を考えてみませんか?僕もまだ正解はわからないんだけど、良い方へ、明るいところへ、花が咲いている方へ歩いてみませんか?」
そんな風に寄り添って言ってくれているような、そんな感じがするんです。

この本はリーダーのRMことキム・ナムジュンさんも読んだ本としても有名ですが、そんな風に有名になって多くの人がこの本を手に取って読むことで、確実に何かが変わるのではないか?と思っています。

読むのがとっても大変でしたが、最後まで読んで良かったなと思っていますし、ぜひ、多くの人に読んでいただきたいなと思う本です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

(今回の記事もマガジンコーナーはお休みです)
(書きたいことが多くあるので、しばし待たれよー)

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,766件

サポート頂けるととても嬉しいです🐶 サポート代は次の本を作るための制作費等に充てさせていただきます